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うつわの勉強会「基 -もとい-」に教わる
毎日の食卓を楽しくするワザ【前編】
|うつわと料理談議①

2024.1.9
うつわの勉強会「基 -もとい-」に教わる<br>毎日の食卓を楽しくするワザ【前編】<br><small>|うつわと料理談議①</small>

うつわ作家や料理人、茶人が集う、うつわの勉強会「基-もとい-」。そのメンバー7名が一堂に会して、向付をテーマに毎日の食卓を楽しくするワザの数々について語り合う座談会を開催。向付という言葉は聞いたことがあっても、詳しくは知らないという人も多いはず。前編では、向付の歴史や基本的な知識、メンバーそれぞれの向付に対する考えや思いについて教えていただきました。

基(もとい)
新道工房の宮本茂利さんを代表に、年齢や立場、経歴の異なる作家や表現者が集う、うつわ勉強会。2013年に発足し、現在メンバーは15名。定期的に講義や体験会、ディスカッションを行うほか、つくり手自ら企画する展示会なども開催。今後、花器や抹茶碗の企画展を予定

日本料理店や旅館、茶席などで一度は耳にしたことがある「向付」。でもそれが何を意味するのか、詳しくは知らない人も多いのではないだろうか。
 
自宅で使ううつわとは一線を画す、プロ向けの印象も強いが、作家が中心となり運営するうつわ勉強会「基」の代表「新道工房」宮本茂利さんは「向付こそ毎日の食卓を楽しくしてくれる、自由なうつわ」と主張する。
 
その真相やいかに? ということで、基メンバーによる向付座談会を開催。色やかたち、大きさもバラバラな向付に、デパ地下のお総菜を盛りつけながら、つくり手と使い手の両方の立場から、向付の魅力についてたっぷり語ってもらった。

いまさらですが向付ってなんですか?

座談会には基のメンバー7名が参加。
前列右から茶人・浅場宗世さん、「新道工房」宮本茂利さん、「工房cielo」江口智己さん、後列右から陶器作家・安達健さん、陶磁器作家・鈴木しのぶさん、「赤坂 菊乃井」副料理長 町田亮治さん、陶器作家・渡辺信史さん

宮本 向付は、室町時代の本膳料理(武家が客人をもてなすための、お膳を使った料理)からはじまったといわれています。お膳の汁椀と飯碗の向こうに置くから向付。その後、茶会で提供される懐石料理でも汁椀と飯碗とともに最初に提供され、その席のテーマや趣旨を表現するうつわとして重要な役割を担っていました。懐石料理では、向付を食べ終わった後のうつわをほかの料理の取り皿として使い続けます。現代の会席料理では、先付、八寸の後に向付が提供されています。
 
町田 僕のように日本料理に携わる立場からすると、向付=お刺身のうつわのイメージです。向付には、「お向こう」という呼び方もあり、「お向こう持ってきて」と言われたら、お刺身のうつわを持ってきてという意味になります。
 
宮本 本膳料理では「なます」が盛られていたし、豆腐や木の芽なども使われていたようです。もともと向付は食材を問うてはいませんが、輸送手段が発達したことから懐石などでお刺身が“ごちそう”として提供できるようになって、向付=お刺身が定着したのだと思います。
 
浅場 いまもお茶の席の懐石では、お刺身を盛ることが多いですね。向付は、茶事のテーマや季節感の表現の一端でもあり、センスを問われるところ。招かれたお客さまにとっても楽しみのひとつです。自由だけど存在感があって、つくり手のパワーが感じられる特別なうつわですよね。

向付は使い手とつくり手の対話から生まれる

「飴釉花鉢」
作家名|鈴木しのぶさん 価格|3630円 サイズ|φ140×H55㎜

宮本 茶道具や会席料理のうつわをつくる産地では、使い手である日本料理店が「こんな風に使いたい」、「こういうテーマの席で」と向付をつくり手に注文し、それを基に作陶する文化がありました。使い手が蓄積したノウハウをつくり手にゆだね、つくり手は腕を磨いていくという関係性です。
 
江口 僕が愛知・瀬戸の窯元で働いていた頃は、バブルがはじけて景気はどんどん下がっていましたが、日本料理店からの注文はいまとはひと桁違うほど多く、向付もつくっていました。向付は、つくり手と使い手のコミュニケーションから生まれる特別なうつわという感覚で、先輩からいろいろ教えていただくことができました。でも我々は、実践で学べた最後の世代です。いまは学校でも教わらないでしょうし、修業で向付をつくる機会も多くはないと思いますから、ノウハウさえ残っていないかもしれません。
 
宮本 向付には和食器の基本コンセプトが集約されていて、つくり手にとっては、向付をしっかり理解してつくれるようになれば一人前という存在でした。いまは、時代の流れもあって向付の使い手が少なくなり、僕らのようなつくり手側だけ残っているので、もう一度使い手側と共有していきたいという想いがあります。向付は少量の一品でも日常の食卓にハレをもち込むことができるので、家庭のうつわとしてもぜひ使っていただきたいです。
 
鈴木 20代の頃にいた窯元で向付をつくっていましたが、つくる側にとっても特別なうつわという印象がありましたね。自分の作品として向付をつくりはじめたのは最近で、ほかのうつわと違って気持ちもより入りますが、使う方々には自由に気軽に使ってほしいと思っています。

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うつわの勉強会「基 -もとい-」に教わる
毎日の食卓を楽しくするワザ【後編】

 
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text: Akiko Yamamoto photo: Norihito Suzuki
Discover Japan 2023年12月号「うつわと料理」

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