陶芸家・阿部春弥さんのうつわ②
が使いやすい5つの理由とは?
|日々の食卓に馴染む懐の深さが魅力
長野県上田市で作陶を行う陶芸家の阿部春弥さん。妻のみかさん、二人の子どもと囲む食卓の風景を訪ねた。阿部さんのうつわの使いやすさの理由とは?
阿部さんのうつわが使いやすい5つの理由
阿部さんは独立をする際、「暮らしと距離の近いうつわがつくりたい」という想いを掲げた。その気持ちはいまも変わらない。阿部さんのうつわが磁器である理由も、ここにひも付いている。「磁器は陶器と比べ、軽量かつ耐久性に優れ、吸水性がなく、料理の色や匂いが移りにくいという特徴をもちます。そのため普段使いのうつわとして、とても扱いやすいんですよ」と話す。電子レンジや食洗機にもほとんどのうつわが対応しているといい、現代のライフスタイルに寄り添った使い勝手のよさもユーザーとしてありがたい。
さらに阿部さんは磁器の利点として「再現性の高さ」を挙げる。「数枚揃えたうつわが10年後に欠けてしまっても、同じうつわを買い足していただける仕事がしたいと考えました。そのため基本的に廃番はありません。同じ時代を生きていますので、“使いたい”と思ってくださるのなら、お応えしたいのです」と真摯なまなざしで言葉を紡ぐ。
阿部家の食器棚には、阿部さんの作品に加え、陶器、ガラス、漆器など多種多様なうつわが並んでいる。「彼のうつわは、食卓でどんな素材のうつわとも馴染むんです。5.5寸や7.5寸といったやや大きめのサイズ感も多く、盛りつけた際に自然な余白で料理を引き立ててくれる。主張の少ないデザインでもあるので、毎日使っていても飽きません」とみかさん。
その背景には「作家性やオリジナリティは、前に出てこなくていいと思っています。料理を盛って『すてきだな』と感じていただけることがベスト。『このうつわいいな』と、手に取ってくださることがうれしいのです」という阿部さんのつくり手としての考えがある。しのぎや面取り技法による心地よいリズム、骨董品からインスピレーションを受けて生まれたアンティーク調の文様、スモーキーな釉薬の色合いなど、阿部さんのうつわは存在感を放ちながらも普遍性を備える、“主役級バイプレーヤー”といえよう。
「目指すのは食器棚の前列。日々の食卓で出番が多く、『今日もこのうつわを使いたいな』と感じていただけるうつわをつくっていきたいですね。愛用してくださる方の期待にお応えしつつ、いい意味でその期待を裏切っていけたらなと思っています」と語るように、阿部さんは「プレート」や「ドラ鉢」といった新作も続々と発表。近年では照明や時計などの制作も精力的に取り組んでいる。「暮らしを豊かにするのは、うつわだけではありませんから」と穏やかにほほ笑んだ。
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シーン別で取り入れたい作品たち
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text: Nao Ohmori photo: Shimpei Fukazawa
Discover Japan 2023年12月号「うつわと料理」