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江戸時代中期から続く
三重県の老舗《叶林業》
未来を育む森づくり【後編】

2023.11.4
江戸時代中期から続く<br>三重県の老舗《叶林業》<br><small>未来を育む森づくり【後編】</small>

三重県松阪市の深い山に抱かれ、日本有数の良質材の産地として知られる飯高町。江戸の昔から続く林業家がいま目指すのは、本来の生物多様性に富んだ森。後編では、森林を守り、次世代へ伝えること、そして山とつながることができる社会づくりに向けた思いに迫ります。

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種から苗木を育て、次世代へ。
未来へ向けて、年輪を刻む

密に植栽して成長速度を抑えることで、堅牢なスギが育まれる。樹齢112年を重ねた大径木は、年輪の緻密さが見事。森の至るところで、いまも新たな年輪が刻み続けられている

山の中で、堀内さんたちにとってとりわけ大切な場所がある。それはスギとイチイガシ、ふたつの樹種が共存す混交林。樹齢は33年で、できる限りまっすぐに育つよう、スギで密に挟み込むようにイチイガシが植えられている。「これだけまっすぐ仕立てて枝打ちしているカシは、全国でもまれだと思います」と宣孝さんは胸を張った。

伐採した丸太は松阪の木材市場に出荷

イチイガシは36年ほど前、縁あって伊勢神宮の別宮からもたらされたドングリを畑にまいて育苗したもの。当時の写真を見せてもらうと、苗畑のそばに3歳時の楓子さんとお母さんが写っている。発芽後3年かけて育てられた苗木はスギの皆伐地に植栽。その1年後の写真では、小さな苗木とともに1歳の宣孝さんの姿があった。4年後、苗木はすくすくと成長して人間の背丈を超える高さに。そして最新の写真は2017年。苗木は成木となって新しい森を形成し、子どもたちは大人になり森を守る。木々と家族の成長が同時に見てとれる、すてきな定点記録だ。

ポットで育てて2年目の広葉樹の苗。山で発芽したものを持ってくる場合も多く、採取した場所と樹種を書いて管理される

山林の管理が放棄され、荒廃する現状が問題視される時代。こうしてきめ細かく管理されるのはよいことですね、とたずねると、少し意外な答えが返ってきた。「本来、森林とは土と太陽光、雨の力で育まれるもので、人の手は必要ありません」。間伐をしなければ、日光が当たらず育ちが悪い木は痩せ細り、枯れていく。いかにも不健全に感じられるが、自然淘汰は決して“荒廃”ではないという。問題はその選択に意志があるか、関心があるか。無関心では守ることも、次世代へ伝えることもできない。林業は数十年、数百年単位の仕事。木と山という、人の寿命を遥かに上回る存在を前に気が遠くなりそうだ。しかし、土地と先人が紡いできた時間の延長線上に自分がいる。そう考えると、とても心強いと楓子さんは言う。

若木の幹を網で覆って食害からガード

「いま私たちが木を植えるということは、50年、100年先まで責任をもつことを意味します。山を木の生産工場のように考えるより、葉っぱや実、山を歩くことで享受できる心地よさまで、あらゆる森林資源を活用しながら、山とつながれる社会を目指していきたい。そのためには、どんな森林づくりが必要か。世代を越えて尽くすことが、私たちの使命だと思っています。林業は、未来が描ける仕事です」

地元の小・中学生への森林環境教育にも力を入れている。時にはフリップを使い山の説明をする楓子さん、宣孝さんと妻の美有紀さん

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text: Aya Honjo photo: Sadaho Naito
Discover Japan 2023年9月号「木と生きる」

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