木に触れ、木を知り、暮らしの中で使う
いまこそ知りたい「木育」のこと
国土の3分の2を森林が占める、森林大国日本。当たり前にあると感じる木や森のこと、知っていますか? 「木育」の活動を通して“木づかい”を推進するNPO法人 木育・木づかいネット代表で埼玉大学教授の浅田茂裕さんに、木とのかかわりの重要性をうかがいました。
木育とは?
「木とふれ合い、森を知り、木を使って生きる」を掲げ、森林や木材とのかかわりを深めることで持続可能な暮らし、社会、環境づくりに貢献できる人を育てる活動。2004年に北海道でスタートした。学校教育から企業のCSR活動まで幅広く注目されている。
木を知ることで、日本の魅力を再発見
「日本人は森から木材や食料など多くの恵みを享受してきました。しかし近年は人と森のつながりが薄れ、貴重な森林資源が十分に活用されず、放置される事態が全国的に起きています」
教えてくれたのは「木育」の活動を通して“木づかい”を推進する埼玉大学教授の浅田茂裕さん。木が切られず残るなら問題ないのではと思ってしまうが、そう単純な話ではないようだ。
「森林には天然林と人工林があります。1997年に採択された『京都議定書』では、温室効果ガス削減の目標達成のために森林の二酸化炭素吸収機能を活用することが認められましたが、二酸化炭素の吸収源になるのは人工林です。木は成長過程で二酸化炭素を吸収しますが、地球温暖化防止など人工林の機能を十分に発揮させるためには、間伐などを行って樹木が育ちやすい環境をつくり出し、また新たに植えて森林を循環させていく仕組みが必要です」
天然林は、極相林化(手つかずのまま長い年月を経てその土地に適した状態で安定し、大きく変化しなくなること)すると、樹木一本一本は大きくなるが、森林全体で見ると成長と枯死の量が釣り合うため、二酸化炭素の吸収源としては寄与しない。
「もちろん貴重で美しい天然林を守ることは大切ですが、地球温暖化防止など森林がもつ多くの働きを発揮するには、森林の経済的循環も大切です。木は木材になっても炭素が固定され続ける非常にエコな材料。家具やうつわなど暮らしのアイテムに木材を積極的に取り入れてもらえるとうれしいですね。木に触れ、木を知るだけでなく、『暮らしの中で使う』ことも木育の一環になります」
二酸化炭素の吸収源といった物理的な機能をもつだけでなく、木は人に精神的な安らぎを与えてくれる。
「私はコンクリートの校舎と木造校舎の違いによる子どもたちの行動の変化の研究もしています。コンクリートの校舎では、子どもたちは多くの時間を教室の自分の席を中心に過ごしています。ところが木造校舎になると、教室を出て廊下に座る、階段に腰掛けるといった自由な行動が見られるようになります。これは教室以外にも居場所ができるということで、結果的に教室の密度が下がり、子どもたちのストレス度合いが下がると考えられています」
木に囲まれると落ち着く感覚は子どもに限ったものではない。居心地のいい場所を思い浮かべたときに、木のある風景を描く人も多いだろう。
「僕自身は故郷に帰ると、小さい頃に木登りをしてよくつまんでいたビワの木を見てホッとします。そういった地域への愛着、シビックプライドの醸成にも、木を含めた自然との間に個人的経験が関与している気がしています」
出自のわかる国産の家具を選ぶ、身近に心落ち着く木のある場所を見つける……。都市に生きる私たちが木とのかかわりを取り戻し、木のある持続可能な生活をするためにできることを考えていきたい。
<これも「木育」につながる!? 実践できる木とのかかわり方>
◎自分の好きな木を見つける
◎身の回りにある木がどこの木なのかを知る
◎森の香りや木の温もりを実感できるアイテムをインテリアに取り入れる
line
text: Akiko Yamamoto
Discover Japan 2023年9月号「木と生きる」