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SHÓKUDŌ YArn/片山津温泉総湯
食と建築で巡る石川県の旅・後編

2023.5.26
<small>SHÓKUDŌ YArn/片山津温泉総湯</small><br>食と建築で巡る石川県の旅・後編

成熟した文化を背景に足を運ぶべき場所が多い石川県。とりわけ食はその水準の高さがいまに引き継がれながら、新旧一体となった食の扉がそこかしこで開いている。第二回となる今回はフーディーも唸る小松のイノベーティブレストラン、またゆかりの建築家、谷口吉生の足跡も辿り、行きついた小松市からお届けする。

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慣れ親しんだ日本の味を新しいアプローチで。
驚きと楽しさが詰まったおいしい時間

大葉の天麩羅の風味が口中に広がる突き出し“大葉のテンプラペチーノ”

イノベーティブな料理が話題の小松の「YArn(ヤーン)」は、米田裕二さん亜佐美さん夫妻が営む一軒家のレストラン。裕二さんは大学を卒業後すぐにイタリアへ渡り料理を勉強。現地では料理技術もさることながら、楽しく食事をしようというカルチャーにも触発された。その後スペインでさらに学び、帰国後は料亭でも修業。満を持して2015年にオープンした店では、慣れ親しんだ日本の味を新しいアプローチで構成する、斬新というほかない品々を考案している。

コースは米田さんが各テーブルで完成させる突き出しから始まり、5月のある日は大葉の天麩羅をイメージした小さな料理がトップバッターに。カップの中で、大葉のアイスクリームや天出汁のジュレ、生姜などを次々重ね、それらを一緒に食べることで大葉の天麩羅の風味を再現。慣れ親しんだ日本の味の要素を分解し、米田さんの視点で新たに組み立てる独創性には誰もが驚く。料理を追求するスタンスは稚鮎の南蛮漬けにも見られ、YArn流の南蛮漬けはサクサクと軽やか。メニュー名は“Are you child No.2K”。謎解き風の遊び心に富んでいる。

コースの1品目はシェフが客の目の前で盛りつける
シェフの手にかかれば従来の稚鮎の南蛮漬けもまったく異なる食感に。メニュー名は声に出して読むとわかる“Are you child No.2K”

地元の食材をふんだんに使用。
ここでしか成し得なかった味を参加型で

麺料理。決してコーヒーではない…。まるでコーヒーでもいれるかのように客自らがカップにセットした削りたてのマグロ節に昆布出汁を注ぐ

おいしさと楽しさが共存する料理はまだまだ続き、ホッと一息つけるあたたかな麺料理はコーヒーをたてるかのような手順で客が仕上げ、自らパックの封を切り、カップに湯(昆布だし)を注ぐことで削りたてのマグロ節や昆布出汁の香りを楽しむことができる。この日のデザートは、こけ玉をイメージした「せんちゃんの玉」。塩味をつけたタピオカにマンゴーピューレを重ね、その上にシェリー酒と黒糖で味付けた餡を包んだ、地物の煎茶のアイスクリームをオン。煎茶のシフォンケーキで飾って苔の姿を表している。

一連のコースは驚きの連続。メニューシートの1行目に、清々しい香りを放つ「能登ヒバかほり箸」とあるのは奇をてらったのではなく、これから始まるコースの前に一呼吸する必要があるからかもしれない。食材は野菜から米にいたるまで、地元小松市を中心に石川県内からほぼ調達。食材だけでなく、地元の風景も取り入れている。稚鮎の南蛮漬けは、手取川に遡上する鮎の姿を川の石も用いて表現。ここでしか描けなかった料理がお皿の上で跳ねている。

自家製麺にクジラ肉と乾燥葱を添えた麺料理。メニュー名は“吠えるとカップラーメン” だ
デザートはこけ玉をイメージした「せんちゃんの玉」。金沢の女性作家がこの店の土でつくったオリジナルの器に盛りつけた

建物がもつ『糸』という歴史を
ふたりが新しいかたちで撚る

店内はオリーブの木を中心にテーブル席を配置。どの席からもキッチンの様子がうかがえる

かわいい三角屋根の店舗は、亜佐美さんの実家が営んでいた撚糸工場の建物を再利用したもの。改装途中に手にした土でオリジナルの器も誂えている。テーブル席は、吹き抜けの中庭に据えた樹齢約200年のオリーブの木を囲むように配置。昼夜各3組だけが利用でき、予約は2か月前から受け付けている。コースは13品つくランチが1万2000円、ディナーは15品つきで1万8000円。

店名に付したSHÓKUDŌのDŌには技術を磨き続ける“道”の意味も込められている
地元出身の米田さん夫妻は高校時代に出会い、亜佐美さんも一緒にイタリアとスペインで料理を学んだ。同じ景色を見てきたふたりでYArnの世界を丁寧に描いている

SHÓKUDŌ YArn
住所|石川県小松市吉竹町1-37-1
Tel|0761-58-1058
営業時間|12:00~14:30、18:00~19:00(入店)
定休日|日・月曜、ランチは火曜も休み
https://shokudo-yarn.com

地元でも愛され続ける温泉施設は
湖畔に築かれた美術館のよう

ガラス窓の向こうに青空も見える外観がモダン。2012年に竣工している

加賀三湖のひとつに数えられる柴山潟の湖中に湧く片山津温泉は、街の一角に設けられた総湯で市民に親しまれてきた。総湯とは温泉街に建てられた共同浴場の意味で、地域で呼び名が異なる。老朽化にともなう建て替えを何度も経てきた施設は、6度目の際にその役割をそのまま受け継ぎ現在地へ移転。ニューヨーク近代美術館新館や東京国立博物館などを手掛けてきた谷口吉生は、さながら美術館のような建物をデザイン。この建築をひと目見ようと地元の利用客のみならず、全国から多くの人が訪れている。

全面ガラス張りの2階建て建築は、直線的で都会的なデザインでありながら周囲の景観にも溶け込んでいる。内部は白で統一され、窓から差し込む光が館内に明るさと開放感をもたらしている。1階2か所に設けられた浴室は、この場所の魅力を切り取って見せるような造り。柴山潟に面した「潟の湯」は、肩まで湯に浸かると温泉と湖面の境があいまいになり、水辺の景色との一体感に浸れる。もう一方の浴室「森の湯」は庭の眺めを取り入れ、緑が映る湯に身をあずけるひと時に安らぐ。

2階のテラスも温泉と同様に2つの異なるスペースがあり、湖側の眺望を堪能できる「潟テラス」は、視界を遮るもののない柴山潟畔の清々しさを堪能できる。「森の湯」の真上に位置する「森テラス」は、目の前に広がる穏やかな木々の緑が目に優しい。お茶やスイーツなどカフェメニューも充実し、2012年の移転後からは地元の人と観光客をつなぐ新たな総湯としての時を刻んでいる。

読了ライン

温泉と湖面が一体となって見える「潟の湯」。低く切り取られた窓が水平線の美しさを強調している
四季折々の緑が映る「森の湯」。「潟の湯」と同じデザインの窓でも窓外の景色が異なればこんなにも印象が変わる

加賀片山津温泉 総湯
住所|石川県加賀市片山津温泉65-2
Tel|0761-74-0550
営業時間|6:00~22:00
定休日|無休(メンテナンスによる臨時休館あり)
入浴料|大人490円
https://sou-yu.net
※2種の浴室は日によって男女が入れ替わる。石鹸やシャンプーなどの用意はなく備品の案内など詳しくはウェブサイトで確認


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text/Mayumi Furuichi photo/Takashi Gomi

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