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《金沢市》鮨 いくた/鈴木大拙館
食と建築で巡る石川県の旅・前編

2023.5.26
<small>《金沢市》鮨 いくた/鈴木大拙館</small><br>食と建築で巡る石川県の旅・前編

成熟した文化が根づく石川県は何度訪れても飽きが来ず、新旧が一体となった食の扉はそこかしこに開いている。今回は片町にオープンした鮨店やフーディーも唸るイノベーティブ料理を紹介。石川県ゆかりの建築家・谷口吉生の足跡とともに巡りたい。

時にはオリーブオイルも使う“おつまみ”で
新進のアイデアをプレゼンテーション

魚を知り尽くす職人の一品で、すし店の可能性を広げる続ける店主の生田崇(いくたたかし)さん

名店ひしめく片町に、2020年9月にオープンした「鮨 いくた」は店主の生田崇さんが13年の修業を経てはじめたお店。すしの技術を磨いたのはミシュランの一つ星を獲得したひがし茶屋街の名店「みつ川」。ここで職人仕事をまっとうする姿勢と、新しい料理を生み出す発想力を学んだ。「みつ川」のセカンドライン「歴々」の料理を任された時には生田さん自身も枠にはまらない料理を手掛けるように。「鮨 いくた」を印象づけるおつまみは、そこからさらに進化した上に生まれている。

すしの前に運ばれるおつまみは「おいしさを追求しつつ、あくまですし屋の料理であることを意識しています」と生田さん。「アオリイカと鈴かぼちゃのオリーブオイルがけ」は、まさにそんな一品。千切りにした鈴かぼちゃをアオリイカで包んだ上から上質のオリーブオイルをかけている。包丁の技がさえわたるアイデアメニューは生田さんの代名詞になりつつあり、選りすぐりの酒とのペアリングを楽しみながら、メインのすしへと胃袋を慣らしていきたい。

昼夜のコースではすしの前に3~6品のおつまみが運ばれる。この日はアオリイカと鈴かぼちゃのオリーブオイルがけがおつまみに
こちらもおつまみの一品。ハタハタの西京焼きに肉厚の万願寺とうがらしを合わせている

希少な魚種が味わえることも。
釣り好きの店主の釣果もすしネタに

金沢港から仕入れたネタをにぎりや棒ずしで。昼はすし11貫と巻物、味噌汁のコース7700円がある

すし飯は「みつ川」と同じく「横井醸造」の赤酢で仕立て、まろやかなシャリが魚の旨さを引き立てる。昼夜通じてオーダーできる1万5400円のメニューには、おつまみ6品とすし9貫、さらに巻物、お椀(味噌汁)がつく。内容は仕入れによって異なるが、ある日のすしには関西でヨコワと呼ばれるメジマグロのヅケや高級なアカイカの糸づくりが。細かく包丁を入れたホタルイカは仕上げに桜の葉で風味づけ。そのひと手間にプロの仕事が光る。

昼はおつまみ3品とすし9貫、巻物、お椀のつく1万1000円のコースのほかに、おつまみを省いた7700円の手軽なコースもある。すしは金沢の味の代弁者ゆえに、シーズンごとの魚種も楽しみなところ。春先から6月にかけては七尾湾でとれるとり貝、6月から初夏にかけては流通量の少ない能登マグロも登場するという。週に一度のペースで海に行く生田さんの釣果もこの店ならではのネタ。食感がよく、白身の王様の呼び声高いアラが並ぶ日もある。

コースにつく巻物は金沢の人が好んで食べるうなきゅうが用意される
左から肝を添えたカワハギ、メジマグロのヅケ、糸づくりにして紫蘇を挟んだアカイカ

すしに舌鼓を打ちながら
器や酒と話題に事欠かない

席はL字型のカウンター8席のみ。夜は1万5400円のコース1本で客を迎え入れる

カウンター8席の店は、生田さんとの距離も程よく「居心地のいいお店にしたかった」という言葉どおりの雰囲気。旅行で訪れても、ひとりでも気後れなく利用できる。店で使う皿はすべて江戸時代前期に石川県で誕生した陶磁器・九谷焼で統一され、食も工芸も豊かなこの町の魅力に改めて気づかされる。選りすぐりの日本酒は「手取川」や「黒龍」、金沢の老舗酒蔵の「加賀鳶」など。すしと酒、焼物に話が弾むひと時で金沢の旅を満喫したい。

車一台通るのがやっとの路地にすっきりとした白暖簾を掛ける

鮨 いくた
住所|石川県金沢市片町1-4-4
Tel|076-254-1422
営業時間|12:00~13:00(入店)、18:00~20:00(入店)
定休日|不定休
https://www.instagram.com/sushiikuta/

仏教哲学者の足跡をたどり
思索に耽る体験型ミュージアム

“水鏡の庭”越しに見る思索空間棟。内部には来館者が腰かけ、思索に耽ることができる床几(しょうぎ)を設けている

禅をはじめ東洋・日本の文化を世界に紹介した金沢出身の仏教哲学者・鈴木大拙(すずき だいせつ・1870~1966)の功績をたたえ、金沢市は生誕地近くに「大拙館」を設立。設計にあたった谷口吉生(たにぐち よしお)は、父・吉郎(よしろう)が九谷焼の窯元に生まれた金沢ゆかりの建築家。美術館建築家としても広く知られている。金沢特有の傾斜地の特性を活かしながら、「東京国立博物館 法隆寺宝物館」に用いた水越しの建物の手法をここでも採用。「思索」「くつろぎ」「語らい」が底流にある施設は、「展示空間」「学習空間」「思索空間」の3つから成っている。

読了ライン

館内は、真っすぐ奥へと伸びる内部回廊を進んだ先の「展示空間」から見てまわる。広くとられた白壁には大拙の書や写真などが数点掛けられ、従来の美術館のようなキャプションをつけないところにも、哲学者の足跡をたどる記念館の特性が垣間見られる。その奥に設けられた「学習空間」は、100冊以上ある大拙の著作の一部を用意。窓の向こうの「露地の庭」を見ながら、それらを手に取って読むこともできる。

学習を終えた後は一転、日差しが降り注ぐ外部回廊を伝い歩いて「思索空間」へ。「水鏡の庭」越しに見る思索空間棟は四方に開口部のある漆喰塗りの建物。寺院の堂宇(どうう)である方丈に倣い、内部は正方形に切っている。開口部からの景色はすべて異なり、石垣の向こうに加賀藩の下屋敷跡に残る「本多の森」の緑が迫る。水鏡の池は時折小さな音を立て水紋が広がり、その様子を見るともなく過ごす時間が、来館者それぞれの思索のひと時となる。

水鏡の庭に沿う外部回廊。直線的な意匠に周囲の緑がやわらかさをもたらしている
鈴木大拙は20代で渡米し、広く日本文化を紹介する書籍も多数執筆した

鈴木大拙館
住所|石川県金沢市本多町3-4-20
Tel|076-221-8011
営業時間|9:30~17:00(入館は16:30まで)
定休日|月曜(月曜日が休日の場合はその直後の平日)
入浴料|大人310円
https://www.kanazawa-museum.jp/daisetz

 


美術館のような温泉も?!
まだある石川県の見どころ

 
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text/Mayumi Furuichi photo/Takashi Gomi

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