ART

《石川県能登島ガラス美術館》
建築家・毛綱毅曠による
宇宙基地を彷彿とさせる不思議な建築

2023.4.27
《石川県能登島ガラス美術館》<br><small>建築家・毛綱毅曠による<br>宇宙基地を彷彿とさせる不思議な建築</small>

美しい自然に恵まれた能登島を舞台に、国内外のガラス芸術の魅力を発信する“ガラス工芸の島”をコンセプトに誕生した「石川県能登島ガラス美術館」。建物を手がけたのは、建築家・毛綱毅曠(1941年〜2001年)。石川県の伝統工芸を用いた装飾やガラスのアート作品を、内からも外からも楽しめる「石川県能登島ガラス美術館」の魅力を紹介しよう。

能登島とガラス工芸

美術館の庭園は、七尾北湾を一望できる最高のロケーション

「石川県能登島ガラス美術館」は、日本海につき出た能登半島の中央部、ちょうど半島に包み込まれるように位置する、人口約3,000人の能登島にある。七尾湾の穏やかな海に囲まれ、自然が作り出したありのままの能登の風景を残しながら、水族館やキャンプ場などのレジャー施設も充実している。能登の観光地として毎年多くの観光客が訪れる島だ。

展示室2には、石川県の伝統工芸「九谷焼」のカラフルな陶片を貼り付けた柱がある

ガラス工芸とその歴史や魅力を伝えるため、ヨーロッパのガラスの都ヴェネチアをお手本とし、1991年に石川県の協力のもと「石川県能登島ガラス美術館」が開館。

ガラス芸術の情報発信基地として、世界各国の現代ガラス作品と中国清朝のガラス工芸を中心に約450点の作品を収蔵し、歴史的、世界的に評価されたガラス芸術品を展示。またガラス芸術に関するあらゆる情報を発信している。

建物も、庭園も、アート空間

大自然の中に斬新なデザインの美術館は、まるで 宇宙基地を思わせるような建築

外観は宇宙基地のようなデザインで、建物や庭園の設計は、建築家・毛綱毅曠が手がけた。複数の棟を廊下でつなげる構造は風水思想を取り入れて、平安京の都市づくりにも用いられた「四神相応(東に青龍、西に白虎、南に朱雀、北に玄武)」をコンセプトにしている。豊かな自然の中にひときわ目を惹く近未来な外観、海を臨む丘の斜面を利用した和と洋の性質を持つ庭園、錯視を利用した設計や特殊照明で演出された展示室など、すべてがアート空間として楽しめる。

建築家
毛綱毅曠(もづな・きこう)
1941年、北海道釧路市生まれ。ヒトが宇宙や自然と共生できる風水を取り入れた設計コンセプトにもとづいて設計・デザインを行う。東洋思想をイメージ化した独創的なデザインは、建築界・美術界に大きな影響を与える。2001年、北海道立釧路芸術館で「毛綱毅曠展」開催の直前2001年に逝去。

赤い格子窓近くの足型のうえに立つとガラスとガラスの間に液晶が挟み込まれ、電流が流れると透明に変化する仕組みだ
展示室1と展示室3・4を繋ぐ渡り廊下

館内には、自由に変化する象徴として「雲」の装飾が至るところに施されている。たとえば、ガラス窓に囲まれた開放的なエントランスのミラー状の壁面や展示室3・4に降りる階段脇のガラスにも雲をデザインした模様が描かれている。美術館へ訪れた際にはぜひ、隠れた雲を探してみてはいかが。

ガラスのブリッジは天井とガラス壁が傾斜し、真っ直ぐ立っても斜めに立っているような不思議な感覚。窓ガラスの水玉模様は奥に進むほど小さくなるトリックアートのような世界観。黒光りする手すりには、石川県の伝統工芸にちなみ漆が施されている。

展示室1は浮遊感漂う不思議な空間が広がる

展示室は白を基調とした明るい室内をベースに、形状やテーマの異なる4つ展示空間が用意されている。

展示室1|硅砂を吹きつけた展示台
扉のそばに立ち展示室を眺めると、奥まで見渡すことができる。奥に進むほど天井が低くなり横幅が狭くなるので、実際の奥行きは見た目より短い。天井の丸窓には美術館の設計図が描かれ、展示台の下部分には、ガラスの原料の硅砂(けいしゃ)が吹き付けてある。

展示室3・4は吹き抜けのような高い天井で解放感を感じるスペース

展示室2|石川の伝統工芸「九谷焼」が使われた柱
1階から3階まで吹き抜けており、天井から吊るされた赤い綱状のオブジェは、能登の朝夕の太陽光に染まった雲がモチーフ。1階の展示室へ降りる螺旋階段の手すりの柵はリズミカルな間隔で配されている。ガラス張りのエレベーターは、かごの構造や機構を見ることができる。1階の展示室の中央付近にある飾り柱には、石川県の伝統工芸「九谷焼」のカラフルな陶片が貼られている。

展示室3・4|天井から虹色の光が差し込む
天井にプリズムが取り付けられており、5月〜8月までの晴れた日には、展示室内に虹色の光が差し込む自然の演出が楽しめる。

「Ultimo Danza Serena」2000年 トゥーツ・ジンスキー

収蔵品には、中国清朝時代のガラス工芸品や、ピカソやシャガールなどの20世紀の芸術家たちのデザインに基づいてヴェネチアで制作されたガラス造形作品、ダリがドーム社と共同制作したガラス作品、国内外の現代作家の作品などがあり、収蔵品展のほかにもガラスに関する企画展を年に数回開催されている。

また、洋風庭園内に設置されたガラス彫刻作品は、1991年に開館を記念して開催された「能登島・グラス・アート・ナウ 指名コンペティション」出品作を含む14点の作品が展示されている。

庭園は、ガラス彫刻作品がある洋風庭園と枯山水がある和風庭園の対照的な2つの庭園から成り、洋と和が出会う場=東西の文化交流の場という意味が込められているそうだ。

豊かな自然に包み込まれるように佇む「石川県能登島ガラス美術館」でガラス芸術の魅力に触れてみてはいかがだろうか。

読了ライン

石川県能登島ガラス美術館
住所|石川県七尾市能登島向田町125-10
Tel|0767-84-1175
開館時間|4月~11月:9:00~ 17:00、12月~3月:9:00~ 16:30
※入館は閉館の30分前まで
休館日|毎月第3火曜日(祝日の場合は、その翌日)、展示替え期間中、館内整備期間中、年末年始(12月29日~1月1日)
観覧料|一般の観覧料は展覧会によって異なる、大学生 350円(300円)、高校生以下無料
https://nanao-af.jp/glass/

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