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《ふらっと》能登のイタリアンオーベルジュへ魚醤を受け継ぐ夫婦に会いに行く

2021.10.18
《ふらっと》能登のイタリアンオーベルジュへ魚醤を受け継ぐ夫婦に会いに行く
能登町出身の船下智香子さんと、オーストラリア人のベンジャミン・フラットさん。ふたりが醸し出す柔らかな雰囲気に、思わず「ただいま」と言いたくなる

北陸には、日本海と北前船の交流により”海”の発酵食が多く存在する。発酵デザイナー・小倉ヒラクさんが訪れたのは、石川県能登半島の1日4組限定の宿「ふらっと」。ここで振る舞われる、能登ならではの食材をふんだんに使ったイタリアンとは?

発酵デザイナー・小倉ヒラク
「発酵デパートメント」(東京・下北沢)オーナー。山梨県甲州市を拠点に全国の醸造家との商品開発、絵本・アニメの制作、ワークショップなどを行う。著書に『発酵文化人類学』(木楽舎)などがある

ダイニングルームの窓際にあるテーブルには、石川のアーティストの作品が展示販売されている
客室は離れも含めて全5室を用意

日本海を北上して石川県能登町の宿「ふらっと」にチェックイン。立派な木造りの門に掛かった、パリッと白い暖簾をくぐると雑木林の庭。飛び石のアプローチを歩いていくと、能登独特の杉壁の屋敷が現れる。部屋からは海をパノラマで一望できる、能登のローカリティを問答無用で体験できる、サイコー過ぎる宿なのだ。

宿を営む船下家が手づくりする「いしり(能登の魚醤)」と地のものを生かしたイタリアンは、全国の発酵クラスタが一度は体験すべき至高のクオリティ。ちなみにいしりとは、イカの内臓を塩漬けにして、1年以上発酵させる魚醤の一種(輪島地域では鰯の魚醤を「いしる」と言って呼び分ける)。魚醤の原料となる鰯やイカは、かつて港に持っていっても買い手がつかず捨てるほど大量に捕れるものだった。それらを工夫するために発酵させて調味料にしたのが能登の魚醤文化のルーツだ。石川では醤油のように使うメジャーな調味料だが、ふらっとのいしりは生臭みがなくフルーティな旨みで、素材を生かすイタリアンにピッタリだ。女将の智香子さんのパートナー・ベンジャミンさんは、和洋どちらのよさも熟知するシェフ。能登で揚がる魚介や山菜を、あるものは新鮮な状態でいしりに和え、あるものは漬け込んでコクを出し……と地元の食材を徹底的に生かしたコースは「能登に来てよかった」と思わせる説得力。表面的な満足感のために肉を使わないのも潔くてポイント高い! 食事中、人懐っこい智香子さんとおしゃべりするのが楽しい。世界を旅して、能登を愛する智香子・ベンジャミン夫妻との出会いは北陸の発酵旅のハイライト。お腹いっぱいになったら、波の音と虫の声、満天の星の瞬きに包まれて至福の眠りへ。

ふらっとの自家製いしり
いかなご、しょっつるに並ぶ、日本三大魚醤のひとつ「いしり」。醤油代わりのほか、乳製品との相性もよい。

価格|972円/100g
原材料|イカ、塩
賞味期限|10カ月以上

イカとそら豆の手打ちパスタ
全7品で構成されるコース料理のひとつ。パスタのもちもち感、新鮮なイカとそら豆の甘みもさることながら、クリームソースにいしりを加えることで倍増した旨みの余韻がいつまでも続く。

敷地面積は約2000坪。日本海の絶景を見ながら散策も楽しみたい

能登イタリアンの宿 ふらっと
住所|石川県鳳珠郡能登町矢波27-26-3
Tel|0768-62-1900
料金|1泊2食付2万350円~(税・サ込)
客室数|4室(本館3室、離れ1室)
IN|15:00
OUT|10:00
https://flatt.jp

text:Hiraku Ogura photo:Norihito Suzuki
Discover Japan 2021年7月号「ととのう発酵。」

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