いま日本の食や旅を語る上で外せないキーワード「ローカル・ガストロノミー」。その担い手たるは移住したシェフ。その地域の食材や文化に惚れ込んで移住したシェフだからこそ魅せるローカル体験とは。
八ヶ岳山麓に抱かれた江戸時代の趣ある一軒家に広がる洗練された空間。山梨の素材をガストロノミーに昇華した唯一無二の食体験ができるオーベルジュ「Terroir 愛と胃袋」へ。
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遊び心も魅力の山梨食材を生かした料理
オーナーシェフの鈴木さんがつくる料理はやさしい。たとえばオブジェのように美しい陸作信玄えび(オニテナガエビ)。ソースとしてとことん使い切った上で「頭に残ったミソも美味しいですからね。脚もパリパリしてお酒が進むので、丸ごと食べていただけたらうれしいですね」。そんな思いを込めて食べやすく揚げて、皿にのせる。Crazy Farmの野菜たちもそう。「どの野菜もそれぞれの美味しさをもっているので」と、野菜の個性に合わせて焼いたり蒸したり炒めたり、ひと手間かけてからひと皿に盛り合わせる。
その優しい視点は、食材だけでなく食べ手にも向けられる。料理は、世界の主流であるキリッとエッジの立った立体的で複雑な味の構成とは少し異なり、塩もオイルも控えめで柔らかい。子どもからお年寄りまで誰でも美味しいと思える、わかりやすく伝わりやすい味わいが特徴だ。「小さな子どもがいる方にもゆっくりと食事の時間を楽しんでいただきたい」と、生後10カ月から12歳まで年齢に合わせた3種類の子ども用メニューも用意している。
店名はヨーロッパのことわざ「愛は胃袋を通ってやってくる」にちなんだ。名に託した思いが胃袋を通して伝わってくる、温かくおおらかな料理だ。
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text: Shifumi Eto photo: Atsushi Yamahira
Discover Japan 2023年3月号「移住のチカラ!/移住マニュアル2023」