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釉薬とフォルムを愉しむ。
遊び心にあふれた田村一のうつわ

2023.2.23
釉薬とフォルムを愉しむ。<br>遊び心にあふれた田村一のうつわ

雄大な秋田の地で、ろくろを自由自在に操る陶芸家・田村一さん。独創的なフォルムに施す釉薬は、思いもよらぬ表情を見せることも。その想定外が、彼のうつわのおもしろさだ。

渋谷パルコのDiscover Japan Lab.では、2023年2月23日(木)~3月12日(日)にかけて田村一 個展「煮たり焼いたり盛ったり注いだり、食べて飲んで愛でる道具」を開催!公式オンラインショップでも2月27日(月)20時より順次取り扱い開始します。

田村 一(たむら はじめ)
1973年、秋田県生まれ。早稲田大学の学部生時代に陶芸サークルに入部し、陶芸と出合う。大学院修了後、東京・目白で作家活動を開始。2002年に栃木県益子町に拠点を移し、’11年からは故郷の秋田市に工房を構えて作陶を続ける

ろくろが秘めた可能性を追求したい

回転による遠心力を生かし、丸く整ったかたちに成形するのがろくろの基本的な技法。田村一さんは、そんな既成概念を覆し、独自の発想で無二のうつわを生み出している。なめらかな曲線、幾何学的なカッティング、つぼみのような可憐な装飾…。田村さんの作品には、ろくろによる造形美を超えた自由な躍動感が息づく。その圧倒的な存在感は美食家や料理人からも定評があり、国内外のレストランで採用されるほどだ。

大学のサークルで陶芸と出合った田村さんは、2000年に作家としてデビュー。当初から、磁器の原料としてよく用いられる天草陶石を使ったろくろ挽きにこだわり、東京や益子での創作活動の後、12年前に秋田に帰郷。緑豊かな里山に、念願の工房を開いた。
「東京にいた頃、冬の青空に違和感をもっていました。なんて眩しいのだろうと。秋田に戻り、雪の日のどんよりした曇り空を眺めていると、“やっぱりこれだな”と安心感を覚えます。いまは生まれ育った馴染みの地で、作陶に没頭できることが幸せです」

創作の地を転々としてきた田村さんだが、ろくろによる手法はいまもデビュー当時も変わらない。しかも、その技法は年々進化を遂げ、柔らかな素地を極限まで曲げたり、切り込みを入れて重ねたり、次々に浮かぶアイデアを作品に投影している。
「タタラ(うつわを均一につくる技法)でしたら、どんなかたちも難なくつくれます。しかし、あえてろくろ一本に絞り、回転から生まれる弧に手を加え、理想のかたちへと近づけていく。この緊張感がたまらなく好きなんです」

制限が加わることで、逆に発想は無限に広がると、田村さんは語る。一度見たら忘れられない遊び心にあふれたフォルムの数々は、彼の貪欲なまでの探究心が生んだたまものといえるだろう。

故郷・秋田に戻り、自然に囲まれた好環境で日々創作にいそしむ田村さん。工房は太平山のふもとの里山にある。目の前に清らかな川が流れ、のどかな風景が広がる
特に雪深い1〜2月は、工房にこもるのが恒例。一人ろくろに向かい、来季に向けて構想を練る
成形後、即興演奏のごとく自在に手が加えられていく制作過程は圧巻。つぼみのようなかたちをした作品の場合、カップ状に速やかに成形した後、バーナーで炙って水分を飛ばしていく。軽く乾燥させたら、いよいよアレンジ作業に突入だ
素地の乾燥後、カップ側面に数箇所切り込みを入れ、重ね合わせていくことで「単(ひとえ)」シリーズに

天然の釉薬ならではの
“偶然”こそ醍醐味

「最近は、天然物ゆえの味わいを追求するのが楽しくて」と田村さん。「新政酒造」から譲り受けた無農薬水田のもみ殻は、灰にして釉薬の材料に。うつわを白濁させたいときに使用している

「帰郷した当初はさほど気にしていませんでしたが、せっかく秋田で作陶しているのだから、この土地のものを使うのもよいなと徐々に思うようになってきて」

田村さんは長年、九州産の天草陶石を用いた青白磁の作品にこだわってきたが、近年は地元由来の天然釉薬の活用にも注力。材料はもみ殻と木灰。もみ殻は、秋田の老舗酒蔵「新政酒造」の水田などから譲り受けたもの。木灰は、市で薪づくりを行う団体「マキコリ」のメンバーの自宅ストーブから出たものを利用している。
「特に木灰は、家庭ごとに含まれる成分が微妙に異なるため、いざ釉薬として使ってみると、焼き上がりに大きな違いが出る点がおもしろいです。偶然含まれていた銅によって、藤色に発色することも。しかし、きれいに発色したからといって、来年の木灰も同じ色が出るとは限りません。そのため作品名には、年代や出どころも記載しているんです。ヴィンテージワインを扱うのと同じ感覚ですね」

料理はつくるのも食べるのも好きだという田村さん。今回の個展にも、オリジナリティを感じさせつつも、普段使いしやすい作品をセレクトしてもらった。田村さんの情熱を、使い手として感じてみてはいかがだろうか。

工房内の棚には、作品の数々が並ぶ。「素材や手法などの条件を絞り込むことで、新たな世界が見えてくるため、日々試作を繰り返しています。やりきったと思えるまで、とことんろくろを掘り下げたいです」
うつわの表面を削る際に不可欠な道具が「しのぎ」。田村さんは自作のしのぎを愛用。作品にシャープな稜線を施す際に利用している
削りカスなどの残土も余さず活用。田村さんとは別名義で制作する、石膏鋳込みシリーズ「on u」の原料として再利用される

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田村一さんの作品ラインアップをご紹介
 
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text: Misa Hasebe photo: Takehisa Goto, Atsushi Yamahira
2023年3月号「移住のチカラ!」

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