〈今年の夏は瀬戸芸へ!〉瀬戸内の海底には、アートが眠っている!「粟島海洋記念館」
かつて北前船の寄港地として栄え、日本初の海員養成学校があった粟島。瀬戸内国際芸術祭では秋会期を中心に作品を展開する。この島で2010年からさまざまなプロジェクトを行う日比野克彦さんに、粟島のアートについて聞いた。
1958年、岐阜県生まれ。美術家。東京藝術大学在学中にダンボール作品で注目を浴び、国内外で展覧会を多数開催。近年は各地で地域性を生かしたアートプロジェクトを展開している。
瀬戸内海のほぼ中央、香川県西部に位置する三豊市詫間町の須田港から、船で約15分。粟島港に降り立つと、目に入るのが水色の建物。旧粟島海員学校の校舎を利用した粟島海洋記念館だ。約90年に及ぶ学校の歴史を紹介する、粟島のシンボルとなっている。
人口210人ほどの小さな島でありながら、多くの船乗りを輩出してきたこの島で、アーティスト・日比野克彦さんは、海にまなざしを向けるプロジェクトを2010年から複数手掛ける。筆頭は「瀬戸内海底探査船美術館プロジェクト」として海底で拾ってきたものを展示した『ソコソコ想像所』と、それを船の中で展開した『一昨日丸(おとといまる)』だ。
「以前からダイビングはやっていたんですが、2009年にエジプトで古代の海底遺跡を潜って見る機会があって、こんな世界があったのかと驚いたんですよ」。海底に興味をもったきっかけを語る日比野さん。
「日本は海に囲まれているのに意外と海への意識が低くて、魚を捕ることのほかには、汚いものは海に流せという考えすらあって、その中の世界に想像が及んでいない。潜って調べてみると、瀬戸内の海底にはこの一帯が湖だった頃のナウマンゾウの骨や、大陸からやってきた船が遺していったものがあったりして、博物館のようにお宝がいっぱい。それらは自然や人間の営みの断片であり、一見ゴミのように見えるものでも、人間のもつ最たる力である想像力をかきたてるものとして価値を持ち得るんです」。
2017年には科学探査船「タラ号(※)」に乗船した日比野さん。現在、その活動拠点を粟島に置くことを検討しているという。今年は瀬戸内国際芸術祭でタラ号乗船アーティストによる展示が行われる。
また船といえば日比野さんの「種は船プロジェクト」が今回新作として公開される。朝顔の育成を通して人や地域の関係を育む「明後日朝顔プロジェクト」から生まれた船・TANeFUNeが粟島にやってくる。「朝顔の種は、よく見ると船のようなかたち。人やもの、地域をつなぐ船で、海から粟島の浜にアクセスします」。
文=小林沙友里 写真=西岡 潔
2019年8月号 特集「120%夏旅。」