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小山薫堂さんの「湯道」談義
入浴は人を幸せにする。全国各地の名湯 12選

2023.2.19
小山薫堂さんの「湯道」談義<br><small>入浴は人を幸せにする。全国各地の名湯 12選</small>

入浴という日本が誇る生活文化を「湯道」として昇華し、世界中の人々に伝えている小山薫堂さんに、湯に浸かる醍醐味や至福の癒しが得られる全国各地の名湯を教えていただいた。

放送作家・脚本家
小山薫堂さん

数多くの斬新な番組を企画・構成。初の映画脚本『おくりびと』は、第81回アカデミー賞外国語映画賞を受賞。2015年から「入浴」という行為を、文化としての「道」に昇華させる「湯道」を提唱し、国内外に発信中。
https://yu-do.jp

「入浴」は世界に誇る文化のひとつ

熊本県PRキャラクター「くまモン」の生みの親であり、常に斬新でおもしろい発信を多彩なメディアで届けている小山薫堂さん。多忙な日々の中で最上の癒しは、湯に浸かることだとか。

「毎朝、1時間以上浸かっています。『洗心無垢』と言っているのですが、お風呂に入ると日々のしがらみや背負っているものがなくなり、幼少期のような一番素直な自分に戻れる。その時間が癒しにつながるのだと思います」

朗らかに風呂の魅力を話す小山さんは、その入浴という行為に対する感謝の気持ちを「湯道」としてかたちにした。

「実は、高速道路の事故削減キャンペーンがきっかけなのです。発起人として譲り合いの精神を打ち出したら、僕にとって高速道路は『速く行く道』から『やさしくなれる装置』に変わりました。見方や考え方ひとつで価値が変わる体験がとてもいいな、と。その後、京都の料亭・下鴨茶寮を受け継ぎ、茶道の世界に触れたときに再認識したのは、日常的に飲むお茶も『道』になると精神が鍛錬され、文化として昇華されること。そのふたつの体験から、日本が世界に誇る、類いまれな入浴という生活文化を突き詰めたら、ひとつの様式美になると思ったのです」

そして、縁のあった京都・大徳寺真珠庵第27世住職の山田宗正さんの助けを得て2015年に湯道を拓いた。

「作法はありますが、何より大切にしているのは『感謝の念を抱く』、『慮る心を培う』、『自己を磨く』という精神。つまり、環境や人を慈しみ自己鍛錬をする心であり、その姿勢は何ごとにも通ずるものだと考えています」

さらに、実際に湯道を体験できる湯室「おゆのみや」や、日本の伝統技術を保護・継承すべく職人技を取り入れた湯道具の開発など、湯に浸かる喜びを国内外に発信。この冬には、自ら脚本を手掛けた映画『湯道』も公開される。

「単純にお風呂に入ると気持ちいいですし、一緒に浸かれば絆も生まれる。入浴という素晴らしい行為をもっと世界の人に広めていきたいですね」

そう話す小山さんが、この冬に行きたい温泉宿と銭湯、サウナを紹介しよう。

「湯道温心」は、「湯によって身体だけでなく心まで温まる」という意味を込めた山田宗正住職の言葉であり、湯道のキャッチフレーズ。まさに入浴による癒しの神髄を表している

おゆのみや
住所|宮崎県宮崎市山崎町浜山 フェニックス・シーガイア・リゾート内
Tel|0985-21-1113(10:00〜17:00)
料金|シェラトン・グランデ・オーシャンリゾート/デラックスツイン 1泊朝食付1万4300円〜(税・サ込)、おゆのみや/宿泊者は1棟6500円(120分)
泉質|ナトリウム-塩化物強塩泉
https://oyunomiya.seagaia.co.jp

2016年に誕生した湯道公認湯室第1号。左官職人・挾土秀平さんによる浴槽や壁、画家・立山周平さんによる風流な天井画、しつらえに宮崎県の工芸品や作家の作品を採用するなど、湯道の様式美や作法が体感できる

湯に浸かって、素直な自分を取り戻す

「湯道」の活動の一環で、学びのあった名湯を「湯道百選」として執筆・紹介している小山さんは、それぞれの魅力をこのように語る。

「温泉宿は、こまめに入れるのが一番の魅力。1泊2日で行くと、湯治のように7回は入ります。宿によっては内湯や外湯、泉質違いなど何カ所も湯船があったり、同じ温泉地でも隣り合わせた宿で異なる泉質が楽しめることもある。郷土の食や文化も味わいながらめぐるのが醍醐味ですね」

一方で、銭湯はローカルの息づいた人たちの素顔を見られるのが魅力のひとつだという。

「お父さんが小さな男の子に菖蒲湯の菖蒲を足首に巻き付けて『これでゴールを決められるぞ』とか、地元の方々の会話や街の空気が感じられてほっこりします。これこそ日本の原風景ですよね」

そして、昨今のブーム以前から温冷交互浴を堪能していた小山さんにとって、サウナも欠かせない存在だ。

最後に入浴の「癒し」以上の価値について教えてくれた。

「頭の中を空っぽにして、素の自分に戻ることで癒されるのもいい。それに加えて、あらためてお風呂に入る意味を考えながら、すっきりとした気持ちで新しいひらめきや仕事のアイデアが生まれたらいいですね」

※「湯道百選」についてはこちら

1日7回は入りたい!? 地域文化に浸る温泉宿

酸ヶ湯温泉旅館
住所|青森県青森市荒川南荒川山国有林酸湯沢50
Tel|017-738-6400
料金|1泊2食付1万2650円〜(税・サ込)
泉質|酸性硫黄泉(含石膏、酸性硫化水素泉)、(緊張低張性温泉)
https://sukayu.jp

約300年前から湯治場としての歴史をもつ秘湯。「160畳の広さを誇る総ヒバづくりの『千人風呂』が圧巻。特に冬は別世界を感じます」

山形座 瀧波 山形・赤湯温泉
住所|山形県南陽市赤湯3005
Tel|0238-43-6111
料金|1泊2食付3万8500円〜(税・サ込)
泉質|含硫黄-ナトリウム・カルシウム-塩化物温泉(低張性中性温泉)
http://takinami.co.jp

開湯920余年の赤湯温泉の名宿。「泉質がよいだけでなく、モダンに改装された客室や地元食材の美食も抜群。新しいオーベルジュも楽しみです」

あらや滔々庵
住所|石川県加賀市山代温泉18-119
Tel|0761-77-0010
料金|1泊2食付4万6200円〜(税・サ込)
泉質|ナトリウム・カルシウム-硫酸塩・塩化物泉
www.araya-totoan.com

名湯地で藩主入湯の宿の命を受けて以来、18代続く老舗宿。「芸術家・魯山人の作品をはじめ、文化的な空間に美の感性が研ぎ澄まされます」

陶泉 御所坊
住所|兵庫県神戸市北区有馬町858
Tel|078-904-0551
料金|1泊2食付2万7600円〜(税・サ込、入湯税別)
泉質|含鉄-ナトリウム-塩化物強塩温泉
https://goshoboh.com

文人墨客が愛した有馬温泉最古の宿。「男女別の屋内湯から、有馬の名湯のひとつ、金泉が源泉かけ流しの半混浴露天につながる建築も魅力です」

妙見石原荘
住所|鹿児島県霧島市隼人町嘉例川4376
Tel|0995-77-2111
料金|1泊2食付3万円〜(税・サ込)
泉質|ナトリウム・カルシウム・マグネシウム-炭酸水素塩泉
www.m-ishiharaso.com

鹿児島・天降川沿いにある温泉旅館。「1万坪の敷地の中に7カ所源泉があり、それぞれ鮮度を保つ湯の扱いが素晴らしく、めぐるだけでも楽しいです」
photo: Kei Sugimoto

銭湯では、ローカルの息づかいを感じたい

那須温泉 鹿の湯
住所|栃木県那須郡那須町湯本181
Tel|0287-76-3098
料金|大人500円、子ども300円
営業時間|8:00〜18:00(最終受付17:30)
泉質|単純酸性硫黄温泉(硫化水素型)、酸性低張性高温泉
www.shikanoyu.jp/time-charge

松尾芭蕉の『奥の細道』にも記された、1390年の歴史を誇る栃木最古の湯。「41℃から48℃まですべて温度が異なる6つの浴槽の中でも、地元の方々の視線を感じながら48℃の湯に浸かる“試される湯体験”を味わってください」

滝野川 稲荷湯
住所|東京都北区滝野川6-27-14
Tel|03-3916-0523
料金|大人500円、中人200円、子ども100円
営業時間|15:00〜24:30
定休日|水曜(不定期にて連休あり)

宮造りの建築が世界的な文化遺産に認定された銭湯。「井戸水を沸かした軟らかい湯や磨き上げられた床、毎年必ず正月に新調する木桶など、湯主の誠実な商いと姿勢に惚れ、20年以上通い続けています」

おたっしゃん湯(脇浜温泉浴場)
住所|長崎県雲仙市小浜町南本町7
Tel|0957-74-3402
泉質|ナトリウム-塩化物泉(弱アルカリ性高温泉)
料金|大人200円、中小生100円、幼児50円 
営業時間|5:00〜21:00
定休日|不定休

奈良時代の古事記にも記された歴史深い小浜温泉にある共同浴場。「衣をまとったような心地よい余韻が一日中続く、とろとろの塩化物泉がものすごく軟らかい。この地に暮らす人たちに愛されている情景も心に響きます」

中乃湯
住所|沖縄県沖縄市安慶田1-5-2
泉質|弱アルカリ性-ナトリウム-炭酸水素塩・塩化物泉
料金|大人370円、中人170円、小人100円
営業時間|14:00〜18:00
定休日|木・日曜

沖縄に1軒だけ残る日本最南端の銭湯。「店主の仲村シゲさんが入り口の前で、常連さんの三線に合わせて歌ったり、おしゃべりをしていたり、沖縄の素顔に触れられます。脱衣所と浴場に壁がなく、吹き込む風も心地よい」

全国各地で進化を遂げるサウナ

黄金湯
住所|東京都墨田区太平4-14-6 金澤マンション1F
Tel|03-3622-5009
料金|大人500円(1時間30分)、中学生400円、小学生200円
サウナ料金|平日/女性+300円、男性+500円、土・日曜/女性+350円、男性+550円 ※いずれも2時間) 営業時間|6:00〜9:00、11:00〜24:30(土曜6:00〜9:00、15:00〜24:30)
定休日|第2・4月曜
https://koganeyu.com

2020年、スタイリッシュにリニューアルされた創業90年の銭湯。「オートロウリュのサウナや深さ90㎝の水風呂は、銭湯の域を超えた先進的機能。生ビールサーバーやDJブースもあり、次世代の銭湯カルチャーを感じます」
photo: Yurika Kono

御宿 竹林亭(御船山楽園ホテル/らかんの湯)
住所|佐賀県武雄市武雄町武雄4100
Tel|0954-23-0210
料金|1泊2食付5万7750円〜(税・サ込、入湯税別)、日帰り4800円(屋内展示作品&サウナセット)※要事前予約・定員制
サウナ利用時間|宿泊/15:00〜24:00、6:00〜10:30
www.mifuneyama.co.jp

国登録記念物の御船山楽園内にある宿。「四季の情景に包まれる建築美が素晴らしい。泊まると利用できる、御船山楽園ホテルの大浴場『らかんの湯』は、水風呂の深さや動線のよさはもちろん、高いデザイン性も魅力です」

読了ライン

小山薫堂さん企画・脚本の映画『湯道』が公開

風呂を通じて交差する人間模様を豪華キャストで描いた群像ドラマ。「観ているだけで癒され、お風呂に入るときの気持ちが豊かになる作品に仕上がってます」

映画『湯道』
公開予定日|2月23日(木・祝日)
出演|生田斗真、濱田 岳、橋本環奈ほか
企画・脚本|小山薫堂
監督|鈴木雅之 
上映時間|127分
配給|東宝
https://yudo-movie.jp

text: Ryosuke Fujitani photo: Alex Mouton, Norihito Suzuki
Discover Japan 2023年2月号「癒しの旅と温泉。」

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