秋田の醸造所「稲とアガベ」の挑戦
神鳴の里 男鹿半島の
酒ツーリズム【中編】
日本海に突き出た「杭」のようなかたちをなす秋田県男鹿半島。そこに日本酒業界に雷名をとどろかす一人の男が現れた。尖った杭は打たれるか、土地の一部となって根を張れるか。男の挑戦によって動き出した男鹿から、目が離せません。
岡住修兵が醸す、尖鋭的ラインアップ
「男鹿の風土を醸す」という経営理念を掲げた岡住さんは、自身の酒を「風」、「土」、「星」、「雷」の4つの要素にカテゴライズして展開している。市場に出回る酒よりも高値の価格設定だが、それは生産者や酒販店の利益を確保し、スタッフにも相応な給料を支払うため。価格競争や業界の常識にとらわれた日本では、味で勝負できない時期もあったが、「いまは『美味しい』とそれを担保するストーリーで勝負できる時代になりつつある」と話す。
稲とアガベのラインアップは、醸造所併設のショップで購入できるほか、岡住さんの思いに共感する全国の酒販店でも販売を予定している。輸出向けの清酒は、まずは香港のラグジュアリーホテルでのみ展開。法律上、日本での販売が許されていないので「日本では飲むことができない日本酒」が誕生することとなる。こういったパラドックスを提起し、議論するきっかけをつくっていきたいという。
醸造所には、カウンター6席のみのレストランを併設。全体を監修するコーポレートシェフに食ユニット「てとてと」の井上豪希さんを迎え、サトウショウタ、松尾遼の二人のシェフが月替わりで腕を振るう。現地でしか味わえないオリジナルカクテルも楽しみだ。
<風>
風の街、男鹿から日本酒界に新風を吹かせる
稲とこうじ PROTOTYPE00
寒風山があり、強い風が吹くことで知られる男鹿にちなんだ「風」は、稲+アガベはじめ稲+麦麹、稲+ホップなど副原料を加えた「クラフト酒」のシリーズ。
価格|3300円/720㎖
原料米|秋田県産ササニシキ100%
精米歩合|90%
アルコール度数|15度
※渋谷パルコ内「Discover Japan Lab.」でも販売中
<土>
主力となるどぶろくを「土」の酒に
DOBUROKU 01
火山島から半島となった男鹿は地質学的に見てもおもしろい土壌をもつ。岡住さんはキレのある唯一無二のどぶろくを土の酒とし、土面がモチーフのロゴを冠した。
価格|3300円/720㎖
原料米|秋田県産ササニシキ100%
精米歩合|90%
アルコール度数|14度
※渋谷パルコ内「Discover Japan Lab.」でも販売中
<星>
清酒造りを目指す蔵の希望の「星」
稲とアガベPROTOTYPE03
「星」は、輸出用の清酒、また土田酒造に委託している酒のラインアップ。国内向けの清酒を造る日が来るまで、道標であり希望の星として位置づけられる日本酒。
価格|3300円/720㎖
原料米|秋田県産ササニシキ100%
精米歩合|90%
日本酒度|−2.44
酸度|1.88
アルコール度数|15度
※ラベルは次回から変更予定
<雷>
雷のように業界にインパクトを落とす
県魚ハタハタは雷鳴とともに沿岸に訪れるといわれるほど男鹿と雷の関係は深い。「雷」シリーズでは、サツマイモやコーンを使った実験的な酒を考案中。
男鹿の土と風、
営みを感じるレストランを併設
食後の一杯には「さとやまコーヒー」を
コーヒーの収益を耕作放棄地を再利用する活動に充てるユニット。レストランにコーヒー豆や野菜を提供する大西克直さん(右)と保坂君夏さん(左)。
日中は軽食のテイクアウト営業
写真上から、秋田県産紅の夢りんごジュース&プルドポークサンド、コーヒー2種。酒の有料試飲もあり。
restaurant土と風
レストランはディナーのみ営業。秋田市内からは1時間に1本の割合で「なまはげライン」ことJR男鹿線が運行。現役の男鹿駅は醸造所の目の前。
営業時間|19:00〜一斉スタート
※完全予約制
定休日|日・月曜
https://coubic.com/inetoagave
【ショップ】
営業時間|11:00〜16:00
定休日|月・火曜
※テイクアウトやグッズ販売
text: Akiko Yamamoto photo: Atsushi Yamahira
Discover Japan 2022年1月号「酒旅と冬旅へ。」