日本の職人と生み出す、世界が憧れる逸品
シンプリシティ緒方慎一郎さんがいま手掛けているのは、新しい日本茶の道具だ。それは日本はもとより世界中のさもない日常に息を吹き込み、同時に職人たちが培ってきた文化を未来へ、世界へと開いていく。
緒方慎一郎
「シンプリシティ」代表、デザイナー。現代における日本の文化創造をコンセプトに、和食料理店「八雲茶寮」、和菓子店「HIGASHIYA」、プロダクトブランド「S ゝゝ[エス]」などを展開。茶の発展に貢献することを目的に2016年、茶方會(さぼえ)を設立
実はお茶を愉しむ道具です
杉の小箱のふたを取ると、栃をくり抜いた入れ子のうつわが現れた。ひとつに湯を注ぎ、ゆっくりと冷ます。小箱に緑鮮やかな茶葉が入れられ、その湯が静かに注がれると、杉の香りが立ち、場が清まる。柔らかく開いた茶葉は濃密な甘露となってのどを潤す。
これが、緒方慎一郎さんの考案した日本茶の茶道具「四方宝瓶(しほうほうひん)」。堅苦しい作法はなく、すがすがしい気持ちでお茶を愉しむことができる。手のひらに収まる無理のないかたちは、茶を扱う仕草を自然と美しく見せてくれる。刃物で潔く整えた注ぎ口は、茶の甘みと旨みをたっぷりと抱えた最後の一滴まで、茶器に落とすキレがある。
江戸指物師「指物 箱幸」藤田幸治
四方宝瓶
杉の宝瓶(持ち手のない急須)は、茶葉をふっくらと蒸して香りと旨みを引き出す。注ぎ口の角度も吟味され、最後の一滴までキレよく注がれる。指物という伝統技術を生かした宝瓶は、新しいお茶の飲み方を伝えるにふさわしい。
サイズ|W85×D85×H55㎜
価格|4万3200円
「いまの日常の中で使われてこそ、伝統文化は生き永らえる」と、緒方さんは考える。そこで考案されたのが、自身も好む日本茶の道具。誰が淹れても美味しくなるよう、適量の湯を量ることのできる柄杓(ひしゃく)、茶を注ぎやすい宝瓶、コンパクトな入れ子のうつわ。「入れ子のうつわは、一煎目、二煎目、三煎目、湯冷ましとして使用できます。用途を考えていったらこのかたちになったのです」と緒方さんは言う。無理なく生まれたかたちが未来の日常にも溶け込み、伝統文化のさらなる成熟につながればと願っての創造である。
急須職人「甚じんしゅうとうえん秋陶苑」伊藤成二
平急須
茶を好む緒方さんの「玉露を美味しく淹れて飲みたい」という思いが、この急須を生み出すそもそもの出発点だった。低温の湯で時間をかけて淹れるのが玉露。ならば、本体を広く浅い形状にすれば、茶葉がゆっくりと均一に広がって、玉露特有の甘みと香りを湯に移すことができるだろう、と。手掛けたのは常滑の伊藤成二氏。常滑焼といえば中世から続く焼締の古窯で、朱泥を用いた急須づくりにも長けている。茶漉しに開けた緻密な穴、底面をきりりと平たく保つ二重高台。現代に即した用の美を、常滑の職人たちが培ってきた高いろくろ技術がさりげなく支えている。
産地|愛知県常滑市
サイズ|φ130×W180×H45㎜
価格|3万2400円
蒔絵師 助田秀一吉野絵
片口 クリア
手のひらになじむ流線型の片口ガラスは、注器としても盛り皿としても使い勝手がよい。繊細な唐草模様を、特殊な漆でガラスに、しかも途切れることなく描き、焼き付ける……、この難度の高い製作を可能にしたのは、福井県鯖江に受け継がれてきた蒔絵の技術があればこそだった。蒔絵師の助田秀一氏は、粘りのある漆を極細の筆に取り、細く長く引っ張って、自在に絵柄を施していく。助田さんによると、出来上がりのよし悪しは、漆の種類はもちろんのこと絵筆選びも重要で、ときには、いまでは貴重になった舟ネズミの毛を集めた筆を用いながらの作業になるという。
産地|蒔絵/福井県鯖江市 ガラス/長野県上伊那郡
サイズ|W120×D160×H60㎜
価格|3万2400円
S ゝゝ[エス]
http://www.057 sss-s.jp
茶方會
www.saboe.jp
text: Naoko Watanabe photo: Atsushi Yamahira
※この記事は2018年11月6日に発売したDiscover Japan12月号(P52~57)の記事を一部抜粋して掲載しています
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