第122代「明治天皇」
|20人の天皇で読み解く日本史
126代目の天皇が誕生した2019年。今も昔も日本の歴史は天皇がつくってきたといっても過言ではありません。天皇に焦点を当ると、これまでとは違う日本の姿が見えてくるはず。今回は、諸外国に負けない国家を目指し、自ら近代化の手本となった人物、明治天皇を紹介します。
第122代 明治天皇(めいじてんのう)
生没年|1852–1912年
在位|1867(14歳)–1912(59歳)年
父|孝明(こうめい)天皇
母|中山慶子(なかやまよしこ)
妻|一条美子(いちじょうはるこ、後の昭憲皇太后)
新時代の立憲君主
全国巡幸で“見える天皇”に
孝明天皇の突然の崩御により、戊辰戦争のさなかに即位した明治天皇。天皇を擁した薩摩・長州藩中心の新政府軍と、旧幕府勢力の戦いは、「錦の御旗」を掲げた新政府軍の勝利によって決着。明治天皇を最高権力とした新政府が立ち上げられた。
維新によって誕生した新政府は、ヨーロッパの立憲君主国をモデルに、近代的な国家の建設を目指す。それまで公家、武士、町人、百姓、などに分けられていた身分制度は、華族、士族、平民に整理された。
明治天皇は、女官に囲まれ大事に育てられてきた御所の暮らしから一変、国を率いる立派な君主像をたたき込まれた。実質上東京へ遷都し、それまで京都の御所内で御簾越しにしか御目通りがかなわなかった歴代天皇とは対照的に、明治天皇は各地を行幸するようになる。
これは、新しい日本の君主が将軍ではなく天皇であることを全国に知らせるためだった。さらに、昭憲皇太后とともに積極的に洋装や洋式文化を取り入れ、近代化を先導。国民の間にも西洋の知識や文化が伝わり、「文明開化」が叫ばれることとなる。
しかし、冷遇された士族たちの中には明治維新の改革に対して不満をもつ者も少なくなかった。これらは西南戦争へつながり、中心人物の西郷隆盛が命を落とす。新政府で宮中改革を進めていた西郷を慕っていた明治天皇は、西郷の死を嘆き、皇后らに西郷の歌までつくらせたという。
1889年には「大日本帝国憲法」が発布。これによって天皇は統治権の責任者とされ、「神聖不可侵」(尊く、汚してはならない)な存在であるとされた。
国家におけるほとんどの権限をもつとされるも、これらの権利は国務大臣の助言の下に行使されるものであり、天皇が独自に行使できる権限はほとんどなかった。第二次伊藤内閣以降、明治天皇は閣議に参加しなくなった。
こうして憲法と議会をもつ、近代的な国家として出発した日本。明治政府は、新体制を国民に周知させるため、教育勅語などを通じて天皇を中心とした臣民教育を徹底した。また、富国強兵、殖産興業をスローガンに、国力の増強を図っていく。
1894年、日清戦争が勃発し宣戦布告をするも、明治天皇は「閣僚らによってやむなく宣戦したが、本意ではない」と意思を示す。しかし、戦争がはじまると広島に設置された本部に大元帥として赴き、自ら軍務にあたった。
日清・日露戦争の勝利により、国力は発展。明治天皇は政府によって神格化され、大日本帝国のシンボル的な存在となった。
Point1
近代女子教育を振興した皇后
明治天皇の皇后である昭憲皇太后は、華族女学校(現・学習院女子中等科・高等科)や東京女子師範学校(現・お茶の水女子大学)の設立などに大きく寄与。また、慈善事業にも力を入れ、博愛社(現・日本赤十字社)などの発展に貢献した。
Point2
御簾の向こう側から全国巡幸へ
それまでの天皇とは対照的に、西は九州、北は北海道まで、全国各地を訪問した明治天皇。巡幸には写真師が同行し、各地の風景や建造物を記録撮影した。ちなみに天皇が出掛けることを「行幸」、2カ所以上に行幸することを「巡幸」と呼ぶ。
Point3
洋装で行われた憲法発布の諸儀式
大日本帝国憲法は、1889(明治22)年2月11日に公布。明治天皇から当時の首相の黒田清隆に手渡されるかたちで発布された。明治天皇はじめ、参加者ほとんどが洋装である。このイラストは、記録のために宮内庁が床次正精に依頼。列席者の服の色まで再現。
〈天皇ゆかりの地〉
明治天皇・昭憲皇太后を祀る永遠の社
「明治神宮」
明治天皇と昭憲皇太后を祀っている。明治天皇の崩御後、御神霊をお祀りしたいという国民の願いから、大正9年に創建。昭憲皇太后のため植えられた、花菖蒲など四季折々の景色が楽しめる。来年で鎮座100年を迎える。
明治神宮
住所|東京都渋谷区代々木神園町1−1
Tel|03-3379-5511
http://meijijingu.or.jp
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supervision: Hirofumi Yamamoto text: Akiko Yamamoto, Mimi Murota illustration: Minoru Tanibata
Discover Japan2019年6月号「天皇と元号から日本再入門」