〈アオイヤマダ×寺本りえ子〉
和のスパイスラボ!
日本に古くからあるスパイスの魅力を体感
スパイスは異国のものだけにあらず。そこで、秋は柚子胡椒づくりが恒例行事だという料理研究家の寺本りえ子さんとパフォーミングアーティストであるアオイヤマダさんが、日本に古くからあるスパイスの魅力に迫ります!
アオイヤマダ
2000年生まれ、長野県出身。東京2020オリンピック閉会式ソロパフォーマンスや映画『PERFECT DAYS』への出演で注目される。身体と記憶、食と人、音楽と心の繋がりを信じて、現在は独自の感覚と日常からのインスピレーションを融合させ、さまざまな作品に取り組む。
寺本りえ子(てらもと りえこ)
宮崎県出身。フードディレクター、料理研究家、発酵食愛好家。飲食店のアドバイザー、フリースクールでのランチづくり、食育にも力を入れる。スパイス・ハーブ料理やぬか漬け、柚子胡椒のワークショップも人気。10〜11月まで開催の柚子胡椒ワークショップのお知らせはInstagramを参照(@rieko_teramoto)。
和スパイス(辛子・山椒・柚子胡椒)
手づくりしてみよう!
青柚子と青唐辛子が出揃う9月下旬から10月までが青柚子胡椒の仕込み時期。柚子の爽やかな香りが部屋中に漂い、幸せな気分になる。からしは粉を練るだけで、市販のチューブ入りとは別ものに。山椒は食べる直前にホールを挽くと、いっそう爽やかな風味が楽しめる。

音楽活動を経て食の世界に入った寺本りえ子さん。集中的に料理を学んでいた頃、タイやインド、ネパールなどさまざまな国の料理に触れ、スパイスに魅了されるように。それが高じてスパイス・ハーブ料理のワークショップも定期的に開催している。中でも宮崎出身の寺本さんが特に大切にしているのが柚子胡椒づくりだ。
表現者として多方面で活躍するアオイヤマダさんは、柚子胡椒のワークショップに参加したのがきっかけで食への扉が開かれた。
「ダンスを本格的に学ぶために15歳で上京しました。高校時代の寮生活では、食事がおろそかになっていて身体を壊し、食を大切にしなくてはと思ったときに、りえ子さんに出会いました」
柚子胡椒を自分でつくれることが新鮮だったとアオイさん。実際に手づくりすると、これまで食べてきた既製品を遥かに超える美味しさに感動したそうだ。高校を卒業し学生寮を出るタイミングで、寺本さんの家で一緒に暮らすことに。料理の基本を教わり、食への関心がどんどん広がり、心も身体も調子がよくなっていった。

「アオイみたいな若い子が柚子胡椒に興味をもつというのがうれしいです。若者代表としてこういう手仕事をつないでいってほしいです」と寺本さん。同居中の1年間、仕事の現場にも連れていき、料理の楽しさを分かち合った。
そんな二人が、今回は和のスパイスにフォーカスする。まずは、柚子胡椒づくりから。無農薬の青柚子と2、3種類の青唐辛子を用い、柚子の皮をむくところからはじめる。市販品は柚子の皮をすりおろしているものが多いが、寺本さんはあえて粒感を残す。柚子の皮を薄くむき、包丁で細かく刻み、塩と合わせてフードプロセッサーにかけ、最後は同様に細かくした青唐辛子と合わせてすり混ぜるという大変な作業だ。
「すりおろしてしまうほうがずっと楽なのですが、このフレッシュな香りと、キリッと辛い中に旨みを感じる美味しさは、粒感を残してこそなんです」と寺本さん。
「私はご飯にのせて食べるのが一番好き。あとは卵焼きに入れます。ブリとレタスのしゃぶしゃぶにもよく使います」とアオイさん。おしゃべりしながらもてきぱきと手は止まらず、抜群のチームワークで柚子胡椒が完成した。

次は、同じく和のスパイスを代表するからし。江戸時代の料理書にもたびたび登場するからしだが、現在、日本で生産されている和がらしはごくわずか。粉末状のからしすらなかなかお目にかかれないが、粉からしに水や酢を加えて練ったものは、チューブ入りのからしとは格段に風味が違う。和え衣やソースに使うと料理のポテンシャルがぐんと上がると寺本さん。
「からしは水分と合わさってから辛みの酵素が働くため、練りたては辛みが弱いんです。製品によっても風味が違うので、少し気難しい部分があります。だからこそおもしろいのかもしれません」
そう言いながら、今回つくってくれた料理の美味しさは感動ものだ。「からしをソースに使えるなんて」とアオイさんも興味津々。

さらに、山椒と料理との相性を探ってみる。山椒といえば粉山椒がお馴染みだが、実山椒を料理に使ったり、粒をミルで挽くと、山椒ならではの風味がより楽しめる。ほかにアオイさんが持ち寄った和のスパイスも加わり、スパイス談議&美味しい試食はまだまだ続く。
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text: Yukie Masumoto photo: Atsushi Yamahira
2025年11月号「実は、スパイス天国ニッポン」



































