日本の木造名建築
見ておきたい木の居住空間12選
時代とともに姿や用途を変えてきた「木」を用いた居住空間。伝統を受け継ぎつつ、近代化の流れにも呼応してきた名作建築12軒を建築史家・倉方俊輔さんがセレクト。伝統の展開、和洋の融合、モダニズム、現代の再生の4つのカテゴリーに分けてご紹介します。
監修・文=倉方俊輔(くらかた しゅんすけ)
1971年、東京都生まれ。大阪公立大学大学院工学研究科都市系専攻 教授。専門は日本近現代の建築史。日本最大級の建築イベント「東京建築祭」の実行委員長も務める。『東京モダン建築さんぽ 増補改訂版』(エクスナレッジ)など著書多数。
《伝統の展開》
昭和はじめから戦前までの時代に華開いた和風建築。身分によって建てることができる建物が規制されていた江戸時代が終わり、近代は輸送手段や道具も発展した。お金に糸目をつけない実業家が銘木や腕利きの職人を揃え、憧れだった和風建築をつくることで、伝統が進化した。
01|臥龍山荘(愛媛)

愛媛県大洲市にある「臥龍山荘」。「臥龍院」、「不老庵」、「知止庵(ちしあん)」の3つの建物と、肱川流域の景勝地「臥龍淵」の地形を生かして造営された庭園で構成。2016年には国の重要文化財にも指定されている。自然の変化と響き合う木の建築。
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02|八竹庵(京都)

京都府京都市にある「八竹庵」。江戸時代後期に名医が医院を開業した地に、豪商がモダンな洋間を加えて新築。その後、白生地商の川崎家の迎賓館「紫織庵」として運営され、1999年には京都市指定有形文化財に認定された。京町家の風情とモダンな美意識が共存する空間になっている。
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03|鳳明館 本館(東京)

東京都文京区にある「鳳明館 本館」。築125年を超える登録有形文化財。建設当時は下宿として、その後下宿兼旅館として営業し、戦後は旅館として改築。銘木を駆使した大工の技と遊び心にあふれる和風建築を愉しむことができる。
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《和洋の融合》
大工とは異なる建築家という新しい職業が出てきたことで生まれた作品をセレクト。西洋の建築を学んだ人が和を扱うことで、伝統に根ざしつつもモダンな和洋折衷の空間が生まれた。
04|旧山本家住宅(兵庫)

兵庫県西宮市にある「旧山本家住宅」。兵庫・夙川沿いに広がる郊外住宅街に、1938年、鉱山実業家の自邸として建てられた。現在は一般財団法人「山本清記念財団」が管理。建築家・岡田孝男が手がけた、木が織りなす和と洋の融合とは?
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05|旧伊庭家住宅(滋賀)

滋賀県近江八幡市にある「旧伊庭家住宅」。数多くの西洋建築を手掛けた建築家・ウィリアム・メレル・ヴォーリズの初期の作品としても知られる。主な部分は洋風でありながら、増改築された部分は和風と、和洋の調和が特徴で、その歴史的・文化的価値の高さから市指定文化財にも指定されている。
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06|上杉記念館(山形)

1896年、第14代米沢藩主・上杉茂憲の本宅として造営され、「鶴鳴館(かくめいかん)」とも称されていたが、1919年に米沢大火で焼失。1925年に再建された。設計当時の上杉家当主と特別な間柄である設計者。旧大名家の格式と、近代的なジェントルマンの邸宅の在り方とを融合がみどころだ。
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《モダニズム》
過去の立派な建物を模倣するのではなく、敷地・目的・機能・コストといった客観的な条件から合理的にかたちを決めていこうという様式。現代の建築はモダニズムの延長線上にある。
07|土浦亀城邸(東京)

東京都港区にある「土浦亀城邸」。フランク・ロイド・ライトの下で設計を学んだ建築家・土浦亀城と、日本初の女性建築家である土浦信子によって、自らの住まいとして設計された住宅。連続性を生かした空間と機能美あふれるしつらえとは?
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08|旧イタリア大使館 別荘(栃木)

栃木県日光市にある「旧イタリア大使館 別荘」。明治中頃から昭和初期にかけて、中禅寺湖畔は国際的な避暑地として発展し、多くの外国人別荘が建てられた。1928年竣工の「旧イタリア大使館別荘」もそのひとつで、現在は一般公開されている。杉の豊かな表情を引き出し自然を楽しむ空間とは?
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09|猪股邸(東京)

東京都世田谷区にある「猪股邸」。広い土地区画の中に建つ猪股邸は、建築家・吉田五十八の設計により1967年に竣工。吉田は近代数寄屋建築に大きな影響を与えた建築家であり、猪股邸は「吉田流」と称される手法を体感できる貴重な建築である。日本建築の簡潔さを高めた“和モダン”の礎を堪能できる。
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《現代の再生》
10|護松園(福井)

福井県小浜市にある「護松園」。江戸時代に繁栄した商家・古河屋の5代目嘉太夫が、藩主や高貴な来賓を迎える迎賓館として建てた。県指定有形文化財にも指定され、常時公開されていなかった施設を、小浜の老舗箸店「マツ勘」が地域をつなぐ“場”としてリノベーションした。
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11|港区立伝統文化交流館(東京)

東京都港区にある「港区立伝統文化交流館」。大きな唐破風を正面に構える2階建ての建築は、1936年に芝浦花柳界の見番として建てられたもので、東京都内に現存する唯一の木造見番建築だ。2000年から老朽化のため閉鎖されていたが、2020年に新しく伝統文化や歴史を次世代へと継承する「伝統文化交流館」として開館した。
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12|SOWAKA(京都)

京都府京都市にある「SOWAKA」。京都・祇園の南、八坂神社より下河原通を下がった地に位置する、料亭「美濃幸」の建物を再生した宿泊施設だ。数寄屋建築を生かした本館、侘び寂びを感じさせるモダンな新館で構成され、両施設とも、職人の高い技術力や日本の美を、次の世代へと伝える役割を担う。
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text: 倉方俊輔
2025年9月号「木と生きる2025」
































