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京都《八竹庵》
京町家の風情と
モダンな美意識が共存する
|日本の名建築、木の居住空間

2025.10.31
京都《八竹庵》<br>京町家の風情と<br>モダンな美意識が共存する<br><small>|日本の名建築、木の居住空間</small>
photo: Shuichi Nakatani

時代とともに姿や用途を変えてきた「木」を用いた居住空間。伝統を受け継ぎつつ、近代化の流れにも呼応してきた名作建築の変遷を建築史家・倉方俊輔さんに伺った。今回は、京都府京都市にある「八竹庵はちくあん」をご紹介!

監修・文=倉方俊輔(くらかた しゅんすけ)
1971年、東京都生まれ。大阪公立大学大学院工学研究科都市系専攻 教授。専門は日本近現代の建築史。日本最大級の建築イベント「東京建築祭」の実行委員長も務める。『東京モダン建築さんぽ 増補改訂版』(エクスナレッジ)など著書多数。

京町家の風情とモダンな美意識

2階に位置する、20畳の洋間サロン。水平線を意識し、開放感のある空間を目指したフランク・ロイド・ライトのスタイルを取り入れている

江戸時代から呉服商が軒を連ねてきた、京都・新町通。その中でも随一の豪商とうたわれた4代目井上利助が、大正末期に建てた京町家。住宅だけでなく商談の場としても使われ、木の住まいの伝統を受け継ぎながら、モダンな美意識によって展開される。

表戸を開けて入ると右手に出迎えるのは、意外なことに洋間。その外壁には重厚なタイルや大谷石が用いられ、完成して間もなかったフランク・ロイド・ライト設計の帝国ホテルのデザインが取り入れられている。ただし、室内には折上格天井や寄木張りの床など、木を巧みに使った工芸的な意匠が施されており、後方の和室とも違和感なく調和している。

階の洋間の奥、中庭に面する客間と仏間。京都の東山三十六峰をモチーフにした、竹内栖鳳作の欄間の装飾にも注目

和室は中庭を配した京町家らしい構成。庭との間にガラス障子を設けることで、いっそうの広がりがもたらされている。中庭に面した客間と仏間は、賓客をもてなすための空間で、風が抜けるような開放感を、日本画家・竹内栖鳳が手掛けた欄間の斬新な意匠が際立たせている。1階の茶室や、眺望のよい2階の洋間にも、贅を凝らしたしつらえが随所に見られる。

洋間の設計には、「関西近代建築の父」と称される武田五一が参画し、茶室や和室部分は、数寄屋建築の名工・上坂浅次郎によって手掛けられた。施工には、大工主任として黒竹廣吉、助手として黒竹梅吉が関与した。2022年からはその子孫が代表を務める企業が本建物を所有し、「くろちく 八竹庵」として継承している。

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〈概要〉
江戸時代後期に名医・荻野元凱げんがいが医院を開業した地に、豪商・4代目 井上利助がモダンな洋間を加えて新築。その後、白生地商の川崎家の迎賓館「紫織庵しおりあん」として運営され、1999年には京都市指定有形文化財に認定された。最近では、体験型エキシビションやイベントの拠点になるなど、新たなかたちでの活用が進んでいる。

〈図面から見る八竹庵〉
通りに近い位置に洋間、茶室が配置され、その奥に客間・仏間を含む和室が連なる。中庭を挟んだ先には2階建ての土蔵が建ち、家屋の2階には和室と20畳の洋間が設けられている。

〈建築データ〉
住所|京都府京都市中京区三条町340
設計|上坂浅次郎(大工棟梁)、高島屋装飾部(洋館)、武田五一(設計参与)
敷地面積|約817㎡
建築面積|−
延床面積|388.75㎡
構造|木造2階建、瓦葺
施工|上坂浅次郎
用途|住宅
竣工|1926年

〈施設データ〉
Tel|075-708-7189
開館時間|10:00~17:00(受付終了16:30)
休館日|木曜(ほか貸切、臨時休館あり)
料金|1700円
www.kurochiku.co.jp/hachikuan

text: 倉方俊輔 photo:くちろく 八竹庵
2025年9月号「木と生きる2025」

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