観光まちづくりの原点は、
三重・伊勢《おかげ横丁》にあり!
前編|赤福300年の歴史から見た「お伊勢参り」とは?
江戸時代に起こった空前の旅行ブーム「おかげ(お伊勢)参り」。
その旅の終着点、伊勢神宮内宮のそばで約300年間店を構える赤福は、年間約500万人が訪れる「おかげ横丁」の生みの親。その赤福の歴史とともに、まちづくりの原点をひも解く。
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江戸時代に一大ブームとなった
「おかげ(お伊勢)参り」

「お伊勢さん」と呼ばれ日本人の総氏神とされる伊勢神宮は、2000年以上にわたり人々の祈りが捧げられてきた一大聖地。正式には神宮といい、内宮の皇大神宮と外宮の豊受大神宮をはじめ、両社に属する別宮・摂社・末社・所管社を合わせた125社の総称だ。

写真提供=神宮徴古館農業館蔵 歌川広重『伊勢参宮 宮川の渡し』
江戸時代には「一生に一度はお伊勢参り」といわれるほど、庶民は伊勢神宮への旅に憧れを抱き、大ブームが巻き起こった。神のおかげをいただくことから「おかげ参り」とも呼ばれたこの流行は、全国から大勢の人が伊勢神宮をいっせいに参拝する現象であった。約60年周期で流行したが、中でも1830(文政13)年は爆発的に広がり、当時の日本の総人口の6分の1にあたる約427万人が数カ月間で伊勢に押し寄せたともいわれる。
この夢の大旅行を支えていたのが“施行”。伊勢へと向かう街道沿いの人々は、参拝者に食事や品物、宿などを無料で提供する施しを進んで行った。これは、善行によって徳を積むことができると信じられていたため。おかげで人々は、無銭でもなんとか伊勢までたどり着き、参拝することができたのだ。

写真提供=神宮司庁
そんな旅人への施行の精神がいまも息づくのが、伊勢神宮内宮の鳥居前町「おはらい町」だ。天照大御神を祀る内宮へと続く五十鈴川に架かる宇治橋のたもとにあり、お伊勢参りの終着点として栄えてきた。明治初期までは、ここに御師の家が約300軒建ち並び、参拝者を迎え入れていたという。御師とは神宮との仲介役を果たす神職であり、参拝の旅のコーディネーター的な役割も務めたことから、到着した参拝者を自らの家に宿泊させ、ごちそうなどで手厚くもてなした。彼らは神宮に代わり宿泊する参拝者へ“お祓い”を行ったことから町の名前になったという。
伊勢神宮 内宮(皇大神宮)
住所|三重県伊勢市宇治館町1
伊勢神宮 外宮(豊受大神宮)
住所|三重県伊勢市豊川町279
Tel|0596-24-1111(9:00〜16:00)
参拝時間|1〜4・9月/5:00〜18:00、5〜8月/5:00〜19:00、 10〜12月/5:00〜17:00
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伊勢神宮参拝を支えてきた老舗・赤福から、
観光まちづくりの未来を考える。

いまでこそ年間500万人ほどが訪れる国内有数の観光地のひとつであるおはらい町だが、昭和50年代頃は年間来客数約20万人という閑散ぶりだった。人々の観光スタイルが車で移動する時代に変化し、駐車場と内宮の往復だけで鳥居前町を素通りする人が増加したことが主な原因だ。その往復の所要時間が約40分のため「日本一滞在時間の短い観光地」といわれるほどの衰退を見せていた。

そんな状況に強い危機感をもち、活性化の起爆剤として「おかげ横丁」を構想、まちづくりに尽力したのが赤福10代目の濱田益嗣氏だ。赤福といえば、伊勢名物・赤福餅で知られる1707(宝永4)年創業の老舗。創業よりおはらい町の参道沿いに茶店を構え、数多くの参拝者を餅菓子でもてなし、見守ってきた。

「伊勢の人は、神宮さんとともに歩んできました。また次の遷宮まで待っていれば、お客さまは戻ってくると感じていたのかもしれません」と教えてくれたのは、同社現社長・濵田朋恵さん。伊勢神宮では1300年にわたり、20年に一度、社殿から御装束神宝までをつくり、ご神体を遷す行事・式年遷宮が繰り返されてきた。遷宮の年は、一新された神宮を目当てに参拝者が急増するため、地元にとっては待ちに待った20年ぶりのビジネスチャンスの到来となるのだ。
そんな“遷宮がくれば”という空気が流れる中でも、10代目はかつての町並みを再現し、もう一度伊勢らしいもてなしの場を復活させ、賑わいを取り戻したいという想いから、大規模なまちの整備を決意し実行した。

生菓子の販売と喫茶を提供する新店・五十鈴茶屋の1985年開店を皮切りに、1989年には元料理旅館を改装した郷土料理の店・すし久を開店。その一方で、まちづくりのための用地取得から電柱の地中化、石畳による道路の再舗装にも着手。さらには町並みにそぐわない自社ビルも1991年に取り壊しを敢行。こうして1993年、おはらい町の一画に、赤福が全面プロデュースしたおかげ横丁が誕生した。
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五十鈴茶屋 本店
住所|三重県伊勢市宇治中之切町30
Tel|0596-22-7000(総合案内)
営業時間|9:00~17:00(喫茶9:30~16:30)
定休日|なし
www.isuzuchaya.com
赤福本店
住所|三重県伊勢市宇治中之切町26
Tel|0596-22-7000(総合案内)
営業時間|5:00~17:00(繁忙期時間変更あり)
定休日|なし
www.akafuku.co.jp
伊勢の歴史や風土、
食文化と出合う。
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text: Makiko Shiraki(Arika Inc.) photo: Tomoaki Okuyama
2025年10月号「行きたいまち、住みたいまち。/九州」































