《岡山芸術交流2025》
岡山の街すべてが、会場。
日常とアートの融合を愉しむ。
瀬戸内の玄関口、岡山では2016年より現代美術の国際展「岡山芸術交流」が3年に1度開催されている。この9月にはじまる「岡山芸術交流2025」の魅力と、街を舞台に歴史とアートがつながる独自のまちづくりとは――。
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岡山芸術交流2025の注目作品
現代のフランス美術を代表するアーティスト、フィリップ・パレーノ氏をアーティスティック・ディレクターに迎えた「岡山芸術交流2025」のコンセプトは、村上春樹氏の小説『1Q84』の登場人物にインスピレーションを受けたものだ。世界11カ国から選ばれた30組のゲストたちによる“ギルド”が岡山市の街自体を現実と想像が響き合うアート作品として再定義する。
特筆すべきは、屋内外すべての作品鑑賞料が無料だということ。国際的な現代美術展の歴史を見てもかつてない試みは、「すべての人に開かれた展覧会を」という想いが込められている。

Membrane, 2024, Exhibition view: Fondation Beyeler, Basel Photo ©Andrea Rossetti
声|石田ゆり子
今回展示される作品でひとつの目玉となるのは、フィリップ・パレーノ氏が旧内山下小学校に展示する、高さ13・6mにも及ぶ“喋る”シンボルタワー『Membrane』だ。日本初公開となるこの作品は、機械の体と人間の女性の心をもつ存在として制作。周囲の環境を感覚としてとらえAIによって進化しながら、パレーノ氏が創作した言語で鑑賞者に話し掛ける。

また、ライアン・ガンダー氏が街中に隠したコインを探し、発見した人は持ち帰ることができる体験型プロジェクト『The Find(発見)』、そして約60台の路線バスを作品化し、社会の中に突如現れ、気がつけば自分がアートに参加している『RAINBOW BUS LINES』など、都市空間とシームレスにつながり、新たな視点を提示するものばかりだ。

James Chinlund, RAINBOW BUS LINES, 2025, Renderd image. ©James Chinlund
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「主役は街ではなく、人。
日常とアートの融合を愉しんでほしい」

「岡山芸術交流が目指しているのは、アートが日常に溶け込む環境をつくり、柔軟な思考や感性を自然に育むことです」と話すのは、第1回より総合ディレクターを務める那須太郎さん。打ち上げ花火的なイベントでまちおこしをするのではなく、普段アートに親しみのない人も暮らしの中で自然と作品に触れるまちづくりで人の意識を変える、言わば“人おこし”――。長期的な視点で街にカルチュラルな魅力を醸成する取り組みは、現代のアーティストの志向と呼応していると那須さんは続ける。
「いま、最前線にいるアーティストたちは、美術館など箱の中で作品を展示するだけではなく、街や自然の中に世界観ごと作品をつくる傾向にあります。そういった意味では、岡山芸術交流は世界の先端をいく現代アート展といえます」

岡山市はコンパクトな街並みなので、徒歩や公共交通機関を利用して一日で全作品をめぐることができるのも魅力だ。作品をめぐりながら岡山に息づいた歴史や文化を楽しめば、より豊かな旅になる。
「日本三名園のひとつ、岡山後楽園や岡山城、旧岡山藩主池田家の貴重な名品を収蔵する林原美術館をはじめ、近代建築の巨匠、ル・コルビュジエの流れをくむ美しい建築など、岡山市は歴史と想像が響き合うまちです。加えてミシュランの星付きレストランから地域で愛される郷土料理まで食文化も多種多彩。瀬戸内アート旅のゲートウェイとしても楽しんでいただきたいです」(石川康晴さん)
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おすすめの展示会場をご紹介!
旧内山下小学校(校庭・プール)

丸の内エリアにある旧内山下小学校は市民に親しまれた学び舎であり、岡山芸術交流の主要舞台のひとつ。岡山芸術交流2025では、3回目の参加となる島袋道浩氏の作品展示や大阪・関西万博のシンボル「大屋根リング」などを手掛けた世界的建築家・藤本壮介氏が新たなステージを設置する。

岡山市立オリエント美術館(入口前)

岡山芸術交流2016に、旧後楽館天神校舎跡地で『Development』を展示したリアム・ギリック氏。今回は、古代オリエント文化を専門にする国内唯一の公共美術館の入り口で展示を行う。

© 2022 Okayama Art Summit Executive committee Photo: Yasushi Ichikawa
岡山市立オリエント美術館
住所|岡山県岡山市北区天神町9-31
Tel|086-232-3636
開館時間|9:00〜17:00(最終入館16:30)
料金|一般310円、大高生210円、中小生100円 休館日|月曜(祝日の場合は翌日休)、年末年始、展示替期間
www.city.okayama.jp/orientmuseum
岡山市表町商店街

今回、県下最大の商店街も複数展示の舞台に。2022年、旧内山下小学校で『Touching My Lil Tail Till the Sun Notices Me』を展示したプレシャス・オコヨモン氏がそのひとつを担当する。
岡山市表町商店街
住所|岡山県岡山市北区表町1~3丁目
https://omotecho.or.jp

© 2022 Okayama Art Summit Executive committee Photo: Yasushi Ichikawa
岡山県天神山文化プラザ

モダニズム建築の巨匠・前川國男がデザインを手掛けた岡山県民の芸術文化発信拠点。岡山芸術交流2025では、世界的なキュレーター、ハンス・ウルリッヒ・オブリスト氏の仕事を展示。
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岡山県天神山文化プラザ
住所|岡山県岡山市北区天神町8-54
Tel|086-226-5005
料金|見学無料(イベント開催時は有料の場合もあり)
休館日|月曜、年末年始
https://tenplaza.info
詳細はこちら!
≫公式サイト
岡山芸術交流2025
会期|9月26日(金)~11月24日(月・休)
休館日|月曜日(10月13日、11月3日、11月24日は開館、10月14日、11月4日は休館)
開催時間|9:00~17:00(一部除く)
鑑賞料|無料
展示会場|旧内山下小学校、岡山県天神山文化プラザ、表町商店街、ほか岡山市内各所
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text: Ryosuke Fujitani photo: Kenji Okazaki
2025年10月号「行きたいまち、住みたいまち。/九州」



































