TRAVEL

「土佐塩の道」をゆく
高知の風土を育んだ古道とは?
塩の道をゆく高知旅へ|前編

2025.7.30 PR
「土佐塩の道」をゆく<br>高知の風土を育んだ古道とは?<br>塩の道をゆく高知旅へ|前編

かつて海辺でつくられた塩を山里まで運搬し、暮らしを支えた「塩の道」。役割を終え失われかけていた道が近年復元され、再び人々の賑わいを取り戻している。高知県香南市から香美市物部町へと続く約30kmの古道を歩き、往時の人が見たであろう光景と出合ってみたい。

line

生活物資と人々の想いが行き交った往還道
「土佐塩の道」とは?

海の恵みである塩。塩の道を通って山里まで運ばれ、生活を支えてきた

人が生きていく上で必要不可欠な塩。いまでは当たり前のように手に入る塩も、その昔はとても貴重なものだった。海から遠く離れた土地ではなおのことだ。

太平洋に面する高知でも、塩にまつわるドラマが残っている。いまから400年ほど前、現在の高知県香南市香我美町岸本から吉川町までの浜辺には塩田が広がり、一大製塩地帯だった。その中央に位置する赤岡町では塩市が開かれ、商都として大いに賑わったという

塩を詰めて運んだ藁の袋“かます”も再現されている。およそ40㎏もの塩を背負って山道を歩いたというから、頭が下がる

沿岸部でつくられた塩は、はるばる山を超えて内陸部までもたらされた。そして復路では、農産物や林産物といった山里の産物が海辺の町へ。塩の道は、塩のみならずさまざまな生活物資が相互往来する重要な交易道だったのだ。現在でも「七浦往還」、「日浦往還」、「徳善往還」といった道の呼び名や、「塩」、「シオタキ」、「塩が峯」などの地名が残り、往時をしのばせる。

戦国武将や大名行列が通った道ではなく、庶民が生きるための物資を運ぶために行き交った、いわば“命の道”。そんな塩の道だが、昭和初期を境に往来が途絶えて廃れはじめ、やがて草木が生い茂る獣道に。存在すら忘れ去られようとしていた古道は、ひょんな出来事から再生に向けて動き出す。

line

「塩の道」再生の物語

塩の道再生のきっかけとなった丁石の前で「ここは小学校の通学路でした」と懐かしむ公文寛伸さん

2002年、山間部の物部町で「昔から生家の近くに倒れている、石碑のようなものが気になる」という声があり、地域の有志で調べてみたところ、それは丁石、つまり旅人のための道標だった。昭和の南海地震で崩落したままに放置されていたこの石を、元の場所に戻した後、有志一行は古の塩の道を歩いてみることに。うっそうとした薮をナタで切り払いながら歩みを進め、日が暮れてから海辺の町・赤岡までたどり着いた。物部町から赤岡町までの約30㎞を結ぶ“ソルトロード”が、よみがえった瞬間だった。

急な坂には横木を入れるなど、歩きやすく整備。整備作業には地元・大栃中学校の生徒と陸上自衛隊高知駐屯地の隊員も参加

「先人が苦労して開いた道を、眠らせておくのはもったいない。『土佐塩の道』として再整備して後世につなぐことはできないか」

そんな想いで復元を進める中、土佐塩の道は2004年「美しい日本の歩きたくなるみち500選」に選定され、ウォーキングを楽しむ人が増加。地元だけで取り組んでいた活動の輪は峠を越え、往時の塩の産地である香南市香我美町まで広がっていった。

塩の道復活の初期メンバー、公文寛伸さん(中央)からバトンを受け取った、近藤かおりさん(左)や長尾ひさ子さん(右)ら次世代が保存会の活動に勤しむ

道を復活させた立役者の一人であり、「土佐塩の道保存会」の初代会長として尽力した公文寛伸さんは語る。

「塩の道は自然豊かな古道というだけでなく、時代を超えてそこに生きてきた人たちの想いに支えられている道です。今後も大切に守っていきたい」

line

先人の営みに想いを馳せて歩く

物部町大栃の峠に佇む塩峯公士方神社。塩にまつわる伝承が残る

古の人々が行き交った塩の道を実際に歩いてみると、そこかしこに歴史と文化の薫りを感じることができる。悲恋の末に罪を犯した若者・源太が赤岡の奉行所へと連れられる途中、恋人との別れを惜しみ、歌を歌い上げたと伝わる源太坂、転げ落ちた岩を弘法大師が手で受け止め、その手形が残っていると語り継がれるお大師岩、荷物運搬を担う馬の安全を願い、また命を落とした馬を弔うために各地区に建てられた馬頭観音など、沿道に残るスポットから往時をしのびつつ歩みを進めよう。

知識豊富なスタッフにプランを相談したい。イラストマップ入り手ぬぐい1100円

自分たちだけでウォーキングを楽しむことも可能だが、おすすめは地域の案内人によるガイド付きウォーク。塩の道の歴史を筆頭に、知らなければ見落としてしまいそうな各所の由緒や自然などを丁寧に解説してくれるのがありがたい。約30㎞の塩の道を踏破する「朝から晩までのみち」をはじめ、距離も区間もさまざまなルートが設定されているので、自分に合ったペースで無理なく歩きたい。

竹べんとうにはおむすびやイタドリの炒め物など山の恵みが凝縮。仕切りも木の葉など自然に還る素材

予約制の「竹べんとう」は「ここでなけりゃ食べれん、遠くから来た人に喜んでもらえるお弁当を」という公文さんの想いから生まれたもの。魚や肉を使わず、すべて地域の食材で仕立てられ、竹のうつわに盛り込んで供される。山里ならではの鄙なる豊かなもてなしは、心に深く刻み込まれるだろう

物部町特産のユズを使った「しおゆずマーマレード」などを土産品に

土佐塩の道ガイド
ガイド料金は1人4500円から相談可能。所要時間、距離、団体の場合など、体験したい内容により応相談。保険料は別途。
※竹べんとう1500円(2週間前までに要予約)
問|香美市観光協会
Tel|0887-52-8560

line

 

《田野屋塩二郎》
新次元の塩づくりとは?

 
≫次の記事を読む

 

塩の道をゆく高知旅
01|高知の風土を育んだ「土佐塩の道」をゆく
02|《田野屋塩二郎》新次元の塩づくりとは?
03|「やなせたかし」ゆかりの地と高知の絶景鉄道をめぐる旅へ

text: Aya Honjo photo: Azusa Shigenobu
2025年8月号「道をめぐる冒険。」

高知のオススメ記事

関連するテーマの人気記事