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《香りと脳の関係》
科学的にも研究が進行中!
| 香りがもたらす効果とは?

2025.5.22
《香りと脳の関係》<br>科学的にも研究が進行中!<br><small>| 香りがもたらす効果とは?</small>

香り×脳の関係を解明しようとする研究が世界的に増加中。科学の力で見えてきた、香りのもつ可能性とは?今回は東京大学大学院工学系研究科 特任研究員の上田一貴うえだかずたかさん監修のもと紐解いていく。

東京大学大学院
工学系研究科 特任研究員
上田一貴(うえだ かずたか)
博士(学術)。2007年、東京大学先端科学技術研究センター特任助教、2012年、東京大学大学院工学系研究科特任講師を経て、2023年より現職。専門は認知神経科学。脳機能イメージング研究に従事している。

香りのチカラの可能性とは?

脳が受け取る刺激を数値化しにくく、定量的な実験が難しいため、科学的な研究が進みにくいとされてきた嗅覚は、五感の中でも特に未知な部分が多いといわれる。
「それでも、香りと脳の関係についての研究は世界中で数多く行われてきました。近年は脳機能計測技術の発展もあって、人の認知機能や脳との関係が解明されつつあります。研究論文の数が急増していることからも、注目度が高い分野だと思います」

認知神経科学が専門の上田一貴さんは、脳の働きから人間の心理や行動を理解し、感性や創造性を高めるための研究を行っている。香りの企業との共同研究も行い、「日本香堂」とは精油の香りが記憶機能に及ぼす作用、その脳内メカニズムの解明に取り組んだ。
「今回の実験結果から、レモンとサンダルウッドの香りに記憶課題の成績向上や記憶保持に向く作用が期待できることが判明しました」

この結果を基に日本香堂が開発したアロマミスト「aroma SHIFT」は、仕事や勉強、スポーツなど幅広い場面でのパフォーマンスの向上が期待できる香りとして、注目を集めている。
「今後も香りと創造性の関係などの研究を進めたいと思います。香りと脳科学の関係についての研究が世界中で進むことで、香りによって人々の暮らしがより豊かなものになることを期待しています」

Q1.世界で香りの科学的研究は
どれくらい進んでいるの?

香り×脳の研究は、世界中で行われている。これまでに発表された、香り×認知機能×脳の研究論文は2万3200件、そのうち2025年は2月の時点で3620件に上る(Google Scholar)

《A.香り×脳の関係性は解明されつつある》

学術的な文献を検索できる「Google Scholar」によるとこれまで発表された香り×脳の研究論文は34万5000件。そのうち2025年は2月時点ですでに6500件が発表されている。香り×人の認知機能×脳の研究では言語機能・記憶機能の改善や脳の容積の増加、神経のつながりの強化が報告されるなど、香りと人の認知機能や脳との関係が解明されつつある。

Q2.脳への作用が判明している香りは?

精油の香り吸引前後の2バック課題の成績
3種類の精油吸引前後に被験者が行った記憶機能(ワーキングメモリー)課題の成績を比較したところ、レモンの精油吸引後の成績が統計的に有意に向上していることがわかった

《A.記憶機能を向上させる香りがある!》
上田さんは、脳科学のアプローチで精油の香りが記憶機能に及ぼす効果やその脳内メカニズムの解明をテーマにした研究を、日本香堂と共同で2020年から実施。その結果、レモンの香りによって記憶機能(ワーキングメモリー)課題の成績が有意に向上することと、サンダルウッド(白檀)の香りが記憶保持に寄与する可能性があることが明らかになった。

上田さんの研究室にある実験シールドルーム。電磁気や音など外部からのノイズを遮断する
脳波を計測するための脳波キャップ。共同研究ではこれを装着した被験者の精油吸引中の脳活動について調べた

Q3.香りと記憶の関係とは?

香りは鼻の奥の嗅上皮にある嗅覚受容器で電気信号に変換されて脳(大脳辺縁系)へ届く。特定の香りを嗅ぐことで、海馬が活性化するという実験結果も報告されている

《A.嗅覚情報は大脳辺縁系にダイレクトに届く》
嗅覚神経と大脳辺縁系の近さがポイント。五感(受容器)が受け取った感覚情報は、視床を経由して大脳新皮質に伝達されるが、嗅覚情報は例外的に視床を介さず、大脳辺縁系に直接伝達される。大脳辺縁系は本能や感情など、生きていく上でより本質的な部分をつかさどる部位。記憶に関連する海馬や感情に関連する扁桃体という器官もあることから、香りは記憶や感情と結び付きやすいと考えられている。特定の香りによって、記憶や当時の感情を思い出すプルースト効果という現象もこれに関連する。

Q4.香りが人の機能に与える影響とは?

《A.ストレス軽減や集中力維持にも!》
上田さんと日本香堂の共同研究で、レモンとサンダルウッドの香りが記憶機能に及ぼす作用が明らかになったように、香りが人の機能に与えるさまざまな影響がわかってきている。たとえばアロマオイルでは、サンダルウッドと沈香がストレス軽減に、ラベンダーが睡眠の質の向上に、ペパーミントが記憶機能のパフォーマンスの向上に効果があるという実験結果が報告されている。香り×脳の論文の中では、ローズマリーとレモンの覚醒・集中機能、ジャスミンとラベンダーのリラクゼーション機能についての研究が多い。

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text: Miyu Narita photo: Maiko Fukui
2025年5月号「世界を魅了するニッポンの香り」

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