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ESG投資のパイオニア
サシャ・ベスリックさんが解説する

持続可能な社会で企業価値を高める
ESGとは?

2023.7.20
<small>ESG投資のパイオニア<br>サシャ・ベスリックさんが解説する</small><br>持続可能な社会で企業価値を高める<br>ESGとは?

近年注目を集めるキーワードのひとつ、ESG。かつての大量生産・消費・廃棄を前提とする直線型経済から、資源の投入量・消費量を抑えながら再利用することで資源を循環させる循環型経済へと移行するいま、企業の存続と価値向上のためにもESG活動は不可欠だ。ESG投資のパイオニアであるサシャ・ベスリックさんが、日本企業の強みや課題などを交えて、ESG活動の重要性を解説する。

SDGインパクトジャパン最高投資戦略責任者
サシャ・ベスリックさん

欧州及び世界のESG投資分野で重要な役割を果たす、グローバル・サステイナブル・ファイナンスにおけるリーダーの一人。環境と持続可能性への優れた貢献により、スウェーデン国王陛下からメダルを授与(2016年)

「ESGの開示、すなわち企業姿勢の
“見える化”が大切です。」

ESGは、環境(Environment)・社会(Social)・企業統治(Governance)を意味する。近年、気候変動などの環境問題や貧富の格差などの社会課題が顕在化し、世界全体でSDGsの達成が求められる中、ESGへの対応が企業価値に影響を与えている。投資においても、投資先を選ぶ際、財務的な要素だけでなく、ESGの観点から将来性や持続性などを分析・評価した上で行うESG投資が主流となりつつある。
 
旧ユーゴスラビアで生まれ、スウェーデン国籍をもつサシャ・ベスリックさんは、欧州及び世界におけるESG投資のパイオニア。日本の上場している中小型株を中心に投資をする、インパクト(環境・社会・ガバナンスにもたらす効果)重視の運用戦略「NextGen ESG Japan Fund」の立ち上げに際し、SDGインパクトジャパン(以下、SIJ)の最高投資戦略責任者(CISO)に就任した。
 
SIJはサステイナブルファイナンス(持続可能な社会の実現のための資金活用)に特化した投資アドバイザリー企業。SDGsにフォーカスした投資ファンドの組成・運営推進、サステイナビリティ向上に貢献する革新的な事業のインキュベーション、サステイナブルファイナンスに関するアドバイザリー業務などを行う。

「ニッポンの老舗企業は
サステイナブルを体現している。
そこに強みがあります。」

 「NextGen ESG Japan Fund」は、投資先企業とのエンゲージメント(対話)を通じてインパクトを創出することを重視した、ESG投資戦略である。
 
「ESG投資の人気が高まり、企業のESGが重視される一方で、世の中に対してどのようによいインパクトを与えているのか、その成果が明確ではありませんでした。投資家たちはそこに問題意識をもっています。持続可能な社会のために、エンゲージメントと成果をより重視するこのESG投資戦略は、今後のESG投資の新しいスタンダードになることでしょう」
 
そうして成果を重視する新しい運用手法を求める世界の投資家にとって、日本の企業はどのような存在なのだろうか。
 
「日本は非常に大きな市場です。成熟した国で、ESGへの考えがしっかりしている企業も多い。それは、創業から100年以上の長寿企業が3万社を超え、世界一であることにもつながっていると思います。ESG投資では、長期的な将来性、持続性というのが大きなポイントになりますから、そういう意味で、私も日本の長寿企業から学ぶことが多々あります。ただ、ESG活動へのグローバルなアプローチで考えると、日本の企業が正当に評価されていないことも少なくありません」
 
その理由としてサシャさんが考えるのは、言語の壁などにより、自社のESG活動を世界に正しく発信できていないこと、そして国際的な基準と日本のそれとのズレだという。
 
「本来はそれぞれの国・地域に適したESG活動があって、日本の企業は昔から真摯にそれに取り組んできたからこそ、これだけの長寿企業があるのだと思います。でもそのローカルなESG活動を国際的な基準、言い換えれば西洋の基準で見ると〝足りない〟と評価されてしまう。コロナ禍による脱グローバル化で、今後はローカルに特化した見方が進むかもしれませんが、EUでは基準が規則としてすでに出来上がっています。ですから日本の企業も、国際的な基準・規則に従ってESGに取り組み、世界に発信していかざるを得ないというのが現状です」
 
なぜそこまでしてESGに取り組まなければならないのだろうか。
 
「先進国はこれまで、地球上の限りある資源を使いながら、社会や経済のシステムをどんどん拡大してきました。その一方で資源の量は減り、地球全体の人口は増え、いまや地球は存続の危機に面しています。その危機を脱するには、環境に配慮したサーキュラーエコノミー(循環型経済)での成長を目指さなくてはいけません。そのために取り組むべきなのがESG活動で、結果としてそれが企業の持続的成長にもつながります。そうして従来の社会から循環型の社会へ移行するプロセスは、ESGジャーニーと呼ばれ、投資家たちは、このジャーニーにすでに乗り出している、またはこれから乗り出そうとしている企業を求めています」

大量生産・消費・廃棄を前提とする従来のリニアエコノミー(直線型経済)に対し、これからの社会では、資源投入量・消費量を抑えつつ、有効に活用しながら生産し、原材料や製品をリサイクル・再利用などで活用して資源を循環させるサーキュラーエコノミー(循環型経済)が求められる

「長期的視点をもってどう貢献していけるのか?
ESGジャーニーが求められています。」

移行のために何をしたらよいのか、達成までにどれくらいかかるのか、そしてESG活動の価値をどう見える化するかなど、先の見えないESGジャーニーだが、サシャさんによると、日本の企業にはこのジャーニーを進むにあたっての強みがあるという。
 
「長寿企業に代表されるように、長期的視点に基づいた経営や、製品・サービスの品質の高さは言うまでもありませんが、日本の企業にはアイデアを創出し、それに向かって努力し、利益を生み出す起業家精神が根づいています。ESGジャーニーの道筋はひとつではない上に、どれが正解かは誰にもわかりません。だからこそ、日本企業のそうした行動力は大きな力を発揮するでしょう。また、常に新しいことを学び、取り入れる謙虚な姿勢も、ESGジャーニーにおける日本企業ならではの強みになると思います」
 
そうして自社の強みを生かしながら、ESGに貢献する製品やサービスを創出するにあたっては、「ダブルマテリアリティの導入が欠かせない」とサシャさんは言う。ダブルマテリアリティは、環境・社会が企業に与える財務的なインパクト(財務的マテリアリティ)と、企業活動が環境・社会に与えるインパクト(環境・社会的マテリアリティ)の双方向を重視する概念を表す。
 
「日本の企業は、財務的マテリアリティのみを重視する傾向にあります。企業活動は環境・社会と互いに影響を及ぼし合うものですから、自社の製品・サービスが環境・社会にどうインパクトを与えるのかを考慮することが重要です。実際に国際的な基準や投資家はその部分の開示を求めるようになっていますし、いずれは消費者への開示も必要になるでしょう」
 
ESGジャーニーには、企業の取り組みはもちろん、消費者の視点も欠かせない。
 
「自分や家族の健康を考え、質を重視して食べ物を選ぶのと同じで、地球の未来を考え、サステイナブルかどうかを基準に商品を選ぶようにする——これが消費者としてのESGジャーニーの第一歩だと思います。SIJは、そうして、社会的課題を解決するための〝意思のあるお金の流れ〟を増やすことが、持続的な社会の構築につながると考えています」

読了ライン

text: Miyu Narita photo: Kenji Okazaki
Discover Japan 2023年6月号「愛されるブランドのつくり方。」

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