「神田 新八 本店」佐久間丈陽さんの燗酒で飲みたい1本~神亀 阿波山田錦 二年熟成酒~。
都内に3店舗を構える日本酒の名店「神田 新八」。2010年に先代から後を継いだ二代目が、認定唎酒師でもある佐久間丈陽さんだ。「燗酒の追求」を自身のテーマと語る佐久間さんが、「燗酒の魅力を凝縮した1本」と称賛する「神亀」。今ではほとんど全種類を置くまでになったと言う、「神亀」の魅力を語ってもらった。
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約35年前、先代が阿佐ヶ谷の「バードランド」の和田さんに酒屋を紹介してもらったのが「神亀」との出合いです。その頃の日本酒は、冷酒の〝淡麗辛口〟が全盛期で、誰も燗酒に注目していなかった。飲み進めていくうちにその美味しさに開眼し扱うようになって、いまではほぼ全種類揃えています。蔵元とのつき合いも深く、毎年造りの時期になると必ず訪れてコミュニケーションを取っていますね。うちでは日本酒は約60種類扱っていますが、すべて造り手の顔が見えて応援したいものをセレクトしています。
「神亀」は戦後はじめて全量を純米に替えた蔵として有名ですが、その魅力は、必ず熟成させてから出荷しているところ。一般的な蔵元は経済的な理由で早く出荷する傾向がありますが、「神亀」は生酒やにごり酒以外は最低でも2年、長いもので30年熟成させています。そうすることで荒々しさが落ち着き、味にまとまりが出てコク深くなる。吟醸クラスになるとマイナス10℃の氷温でじっくり熟成させている。この技術はほかにはなく、それを35年前から地道にやりながら熟成の魅力を伝えているんです。
そしてなにより、ほとんどの銘柄が燗酒でより味が開くところが素晴らしい。今回ご紹介する通称「オレンジラベル」は、無農薬かつ肥料や田んぼの窒素の成分等、厳格な基準を満たしたものだけが認められる稀少な「阿波山田錦」で醸した純米酒。昨今のトレンドである酸や香りにはあえて頼らず、しっかり米の旨みと麹づくりによる甘みが感じられて、燗酒にすることで香りとのバランスがよくなり、味わいに厚みが出てくる。さらに、燗冷ましすると深みが増して、味わいの変化も楽しめる。各温度帯でじっくり味わえて、しみじみ美味しいお酒ですね。
料理はいろいろなものに合いますが、うちでおすすめしているのは鯵の南蛮漬け。55℃くらいの燗酒にした「神亀」の旨みと南蛮漬けの酸味が絶妙に合って、相乗効果で美味しくなるので、ぜひ試してみてください。
個人的に思うのは、いい日本酒は温めて旨みが増す〝燗あがり〟するお酒。日本酒は世界中でも珍しいお燗のできるアルコールで、それは江戸時代からのトラディショナルな飲み方です。日本酒の真骨頂が味わえて、体内への吸収が早く、抜けるのも早いので身体にもやさしい。燗酒にしても味が壊れない日本酒こそが本物だと思いますね。
日本では戦争を経て燗酒の文化は一度廃れましたが、「神亀」はそれを復活させようと実直に頑張り続けている。その気概に惹かれますし、うちに「神亀」めがけてくる常連さんが多いのも納得です。
文=藤谷良介 写真=上樂博之
2019年1月号 特集「風土を醸す酒」
「神亀 阿波山田錦 二年熟成酒」
店頭価格:950円/180㎖
原料米:阿波山田錦
精米歩合:60%
使用酵母:非公開
製造区分:純米酒
アルコール度数:15.5度
問:神亀酒造
Tel:048-768-0115
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