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柏井壽のちょっと奥を愉しむ
京都人の美味しい日常
十一月某日 六角通をカニ歩き

2023.11.13
<small>柏井壽のちょっと奥を愉しむ</small><br>京都人の美味しい日常<br>十一月某日 六角通をカニ歩き

京都を知り尽くした作家・柏井壽さんが、秋から冬へと移り変わる街の日常や表情を織り交ぜながら、京都めぐりの楽しさを伝えるエッセイ。今回は、幕末の面影を探して六角通を歩きます。

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十一月某日
六角通をカニ歩き

幕末の京都をテーマにした、時代小説の続編ネタ探し日。六角通に狙いを定めた。坂本龍馬をモデルに書いた作品が好評だったので、龍馬再び。
 
まずは「武信稲荷神社」へ。最寄りのバス停「千本三条」で降りると、目の前におもちゃ店が。孫の顔が浮かぶと素通りできない。「熊本玩具」であれもこれも。少子高齢化のせいか、玩具店がめっきり減ったのは寂しい。
 
三条商店街の「田舎亭」で早めのランチ。たぬきのおうどんで冷えた身体を温める。
 
六角通に出て「武信稲荷神社」へお参り。樹齢850年を超えるご神木、榎を見上げ、龍馬とおりょうの姿を思い浮かべる。
 
「六角獄舎跡」に並ぶ石碑や駒札を読むと、受難の地でありながら、ここは近代医学の礎を築いた場所だとわかる。
 
このあたりの六角通は狭い道筋に、隠れ寺が並び建っている。幕末の頃には血気盛んな志士たちが、行き交ったことだろう。
 
堀川六角の北西角近くにある「都松庵」はあんこ屋さんのショップ。小分けが便利な都あんこを買い求める。甘党だった近藤勇に食べさせたかった。
 
堀川通を渡ってさらに東へ、しばらく歩くと北側に公園があり、「本能公園」と石碑に刻んである。
 
本能寺の変で知られる「本能寺」はこのあたりにあったという証左。向かいにある「齋造酢店」は創業200年を超え、花菱味ぽん酢は知る人ぞ知る調味料。龍馬最期の晩餐は鶏鍋だったが、こんな旨いぽん酢を使っただろうか。
 
さらに東へ歩き、新町通六角を少し下ると「京都生活工藝館 無名舎 吉田家」がある。優れた京町家とはどういう構造か。ここを見れば一目瞭然。奥に長い京町家は身を隠す場所も多かったかも。
 
いつの頃からか、京町家は飲食店の舞台装置のようになり、偏ったイメージを与えてしまっている。本物の京町家をつぶさに見て、学んでほしいものだ。

ここまで来たらあのパンを買わなくては。室町通六角下ルの「HANAKAGO」だ。小さな人気店ゆえ、いつも混み合っているが、たまたま今日はすいている。パンの神さまが味方してくれたか。
 
名物の赤ワインのパンとハードタイプのバゲットを抱えると、芳ばしい香りにお腹が鳴る。
 
六角通に戻り烏丸通を東に渡ると「頂法寺」。通り名の由来となった「六角堂」を本堂とし、華道の総本山でもある。花遊び好きには素通りできない寺。
 
ここから先、河原町通、木屋町通、鴨川あたりまでの六角通近辺には、幕末ゆかりの地が点在している。つまりは維新にかかわる人物が闊歩していた場所。志士たちの雄叫びが聞こえるのは空耳だが。
 
そろそろ夕げの時間。行きつけのベトナム料理店へ。「サイゴンサイゴン龍馬」は手頃な価格で本格的なベトナム料理を食べられる店。なぜ店名に「龍馬」がついているかはさておき、気分はベトナム。六角通歩きの〆にふさわしい。

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武信稲荷神社
住所|京都市中京区今新在家西町38
Tel|075-841-3023

田舎亭
住所|京都市中京区西ノ京南聖町21-11
Tel|075-841-4120

都松庵
住所|京都市中京区堀川三条下ル下八文字町709 都壱番舘三条堀川1F
Tel|075-811-9288

齋造酢店
住所|京都市中京区本能寺町114
Tel|075-221-5393

京都生活工藝館 無名舎 吉田家
住所|京都市中京区新町通六角下ル六角町363
http://r.goope.jp/kyoshida
(見学予約またはお問い合わせ)

HANAKAGO
住所|京都市中京区室町通六角下ル鯉山町516-4
Tel|075-231-8945

サイゴンサイゴン龍馬
住所|京都市中京区伊勢屋町345
Tel|075-255-1085

 

紅葉の下見に東山の麓へ
 
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text: Hisashi Kashiwai  illustration: Yuki Muramatsu
Discover Japan 2023年11月号「京都 今年の秋は、ちょっと”奥”がおもしろい」

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