FOOD

《テシオ》
豚肉文化の沖縄で世界をも魅了する
シャルキュトリーの店

2022.7.20
《テシオ》<br><small>豚肉文化の沖縄で世界をも魅了する<br>シャルキュトリーの店</small>

本場ドイツでのコンテストで金賞を獲得したシャルキュトリー店がコザにある。夜の街というイメージが強かったコザだがこの店の開店をきっかけに昼の魅力も見せつつある。店主にシャルキュトリーとコザの街への想いを聞いた。

「ホットドッグを3つ」。ベンチで出来たてを待つ近所のおばあちゃん。殺風景だったテシオの前にブーゲンビレアを植えて、ベンチを置き、通りすがりの人でもゆったり腰掛けられるスペースをつくった

沖縄の食文化に欠かせない豚肉を
シャルキュトリーに昇華

沖縄市の嘉手納基地から延びるゲート通りにあるシャルキュトリー店「テシオ」。週末の昼下がりともなれば、引きも切らずにお客が詰めかけ行列ができるほど。実は数年前まで、昼のこの界隈では見ることがなかった賑わいだ。

那覇出身の店主・嶺井(みねい)大地さんは、京都ではじめてシャルキュトリーと出合ったという。豚肉文化の沖縄では、皮から内臓、血に至るまで、鳴き声以外はすべて食べるといわれるが、ハムやソーセージをつくっている専門店を聞いたことはなかった。

「沖縄の豚肉で、シャルキュトリーをつくってみたい!」

米軍基地があり、ソーセージやハムが膨大に消費されていることも、嶺井さんを後押しした。京都の専門店に頼み込んで働かせてもらい、その後ドイツ製法でソーセージをつくる静岡の専門店で修業し、沖縄に帰ってきた。

沖縄でテシオの開業を決意して物件を探しはじめたが那覇や北谷では、製造時の騒音や燻製の煙がネックで難航。物件を探しはじめて1年が経った頃、叔父から「コザにビルを買ったので、1階で店をやらないか」と声が掛かる。コザはゲート通りや市街地の呼称で、夜は米兵相手のお店で賑わうが、日中、人は歩いておらず、治安が不安というイメージだった。周囲からは大反対されたが「昼間に人がいないのだから、音や煙を出しても問題ない」と逆転の発想で、叔父の提案に乗ることにした。

米軍基地のある街=危険なイメージで語られるコザだが、マーケティングしてみたところ、意外な事実も発覚。

「戦後、米兵相手の商売で成功した人たちの子どもが高い教育を受けて財を成し、金銭的に豊かで、いいものを求めたいという購買意欲が高い地域であることがわかりました。コザはもしかしたら、僕たちのような工場にはうってつけの街かもしれないと思いました。融資の方にもテシオがここではじめることで、後に人が続けば、コザの新しい魅力になり得ませんか? とプレゼンしました」

嶺井大地さん(右)と創業50年を迎える「普久原精肉店」の大嶺正美さん。「ドイツで金賞を獲得できたのは、大嶺さんの目利きした肉のおかげです」と嶺井さん

そして「普久原精肉店」の店主・大嶺正美さんとの出会いも運命的だった。テシオのすぐ裏にある普久原精肉店は、実は嶺井さんの祖母が長年の常連だったそう。嶺井さんが肉の配合や挽き方をリクエストしたいことを伝えると、大嶺さんは快諾してくれた。

「大嶺さんは畜産センターまで出向いて、自分の目で直接見極めて、一頭あたりで買ってくる。だからこその高い品質で、加工についての僕のわがままも聞いてくれた。肉の分割や脱骨など、さばき方も教わりました」

無事に開業後、県産の豚肉を使ってテシオ独自の食感や味わいを生み出す製法を研究。果汁を搾った後のシークワーサーを利用しソーセージに仕上げるなど、沖縄ならではの食材を使い、かつ無駄にしない取り組みも。2019年には、ドイツ国際コンテストIFFA(食肉業界最大規模の国際見本市)に参加し、出品した3アイテムすべてで金賞と銀賞を獲得した。

コロナ禍で旅がままならない状況下、世界の料理をイメージしたソーセージのアソートを販売。アメリカのチーズバーガー、イタリアのピッツァ、日本のおでんなどをソーセージに仕立て、世界一周気分を味わえるというアイデアが詰まった商品だった。いまもテシオらしい愉しさがあるシャルキュトリーづくりに日々取り組んでいる。

コーレーグースーのチョリソーを充填したケーシング(豚の腸)をねじり、成形している。ウィンナーソーセージは羊腸を、フランクフルトソーセージは豚腸を使用する

コーレーグースーの
チョリソーができるまで

1:ソーセージで使用するハーブをブレンドして用意。コロナ禍で思いついた世界の料理をイメージしたアソートでも、スパイスは記憶を呼び起こす重要なエッセンス
2:肉をクリームのようなエマルジョンの状態に。それをベースに粗挽き肉を加え、食べたときの風味や口当たりをコントロールしたミンチにするのがドイツ製法の特徴
3:味も食感も決めたミンチをケーシングに充填していく。コーレーグースーのチョリソーなら、30㎏のミンチに対して、約500本のソーセージが出来上がる
4:成形したソーセージを機械の中に並べてスチーム。20分ほど人肌ぐらいの温度で蒸してから、その後、乾燥させる。ソーセージの種類によって時間は異なる
5:機械の中でスモークをかけて2時間ほど燻製。ぱきっとした仕上がりになる。その後、再度スチームをかけて仕上げる。味がまとまる1~2日後がベストの食べ頃

人と人のドラマを感じられる街へ

開業当時、ビルが古かったこともあり、132㎡のうち予算的に店舗としてつくり込むことができたのは半分だった。それを逆手に取り空いている場所で、写真展やアーティストの個展、ビールやワインの試飲会などを開催。その都度話題となり、結果的に多くの人にテシオを知ってもらうきっかけになったという。「テシオに行けば楽しいことがある」、そんな印象も定着した。

現在は、空いていた場所にコーヒーを提供する「ヒネッタリー」、イタリアン食材店「タントテンポ」や、クラフトビールなど酒類を扱う「リキッド」が店を構え、マーケットのような空間になっている。

出来たてソーセージの美味しさを味わってほしいとつくった「ヒネッタリー」(ひねるから生まれた造語)では、ウィーケンドッグ(ホットドッグ)と県内有数の焙煎店「COFFEE potohoto」や「豆ポレポレ珈琲商店」から仕入れた豆で本格的なドリップコーヒーを提供
イタリア食材店「タントテンポ」コーナー。イタリアを代表するチーズであるパルミジャーノレッジャーノやイタリア直送の生ハム、ワイン、オリーブオイル、パスタ、スパイスなどが揃う

そして数年前、かつてクラブだったこのビルに地下室があるという情報を得て、床を取り壊してみると8畳ほどの不思議なスペースが広がっていた。この場所を新たなブースとして活用すべく改装中で、近々お披露目の予定だという。テシオの進化は止まらない。

「僕は、ものづくりの醍醐味は、そこから生まれるコミュニケーションだと思うんです。いまコザは、人と人との有機的なかかわりの中で生まれたドラマで、人々の関心を集められるエリアになりつつあると思います」

嶺井さんのこれまでの取り組みからも説得力がある言葉だ。

テシオのオープン以来、コザにはビール工房やコーヒーの焙煎所、チョコレート工場などが登場。危ない街から個性的な工房が集まる街へと、コザのイメージは着実に変化しつつある。

「テシオ」のシャルキュトリー、
ここでも味わえます!

飲み物にまつわる専門店「リキッド」のコーナー。自然派ワインやクラフトビール、シードル、スパークリングなどソーセージと楽しみたい飲み物を揃えている。リキッドの那覇店にはテシオのコーナーがある

LIQUID the store
テシオの那覇店「テシオ2×」が入店。常時20種類ほど販売。
住所|沖縄県那覇市壺屋1-1-21
Tel|098-988-3607
営業時間|13:00~21:00
定休日|火・水・木曜
 

4つの“飲む”ことに焦点をあてた専門店
 
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CONTE
沖縄産の食材を用いた料理が美味しい。テシオのソーセージも販売。
住所|沖縄県那覇市首里赤田町1-17
Tel|098-943-6239
営業時間|11:00~17:00(L.O.16:00)
定休日|月・水曜
http://conte.okinawa/

エスティネート ラウンジ 那覇
テシオのベーコン使用のダッチパンケーキ(朝食)やカルボナーラ(夕食)を提供。
住所|沖縄県那覇市松山2-3-11
Tel|098-943-4900(レストラン)
営業時間|7:30~22:00、金・土曜は〜23:00
定休日|なし

コザ麦酒工房 那覇久茂地店
テシオのシャルキュトリーを味わえるクラフトビール店。コザに本店がある。
住所|沖縄県那覇市久茂地3-23-6 安里ビル1F
Tel|098-800-2844
営業時間|17:00~24:00(L.O.23:00)
定休日|日曜
https://kozabrewing-kumoji.owst.jp/

テシオ
住所|沖縄県沖縄市中央1-10-3
Tel|098-953-1131
営業時間|11:00〜18:00
定休日|月曜
https://tesio.okinawa/

text: Kiyomi Gon photo: Chotaro Owan
Discover Japan 2022年7月号「沖縄にときめく/約450年続いた琉球王国の秘密」

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