「ふふ 箱根」
箱根連山の絶景とふたつの泉質を満喫する“山のリゾート”【前編】
明治の頃まで大草原だった強羅は早雲山からの引き湯で開発がはじまり、いつしか箱根随一の温泉地に。山のリゾート「ふふ 箱根」があるのは箱根内輪山に抱かれた強羅の景勝地。プライベート感漂う宿は安らぎに満ち、贅沢な客室からは、朝に夕に、美しく染まる穏やかな峰々が輝いて見える。
せきねきょうこ
ホテルジャーナリスト。仏国アンジェ・カトリック大学留学後、スイスの山岳リゾート地で観光案内所勤務中にホテル暮らしを経験。仏語通訳を経て1994年から現職。著書多数。
www.kyokosekine.com
箱根連山を肌で感じる客室
窓を開け山の香りを満喫
「ふふ」ブランドの宿が建つ環境は、自然や歴史・文化の背景も常に特別感に満ちている。そのため開業のうわさを聞くたびに待ち遠しい思いを募らせてきた。そして、2022年1月26日、今度の「ふふ」は、箱根の強羅に開業。2018年に富士五湖に誕生した森のリゾート「ふふ 河口湖」とは趣を変え、強羅では山肌に抱かれる山のリゾートだ。
早雲山の山裾に広がる強羅は箱根でも一番高い内輪山の一画に位置している。そのため、「ふふ 箱根」からは、谷を通して外輪山を代表する1000m級の勇壮な明星ヶ岳(大文字山)や、穏やかな尾根が続く明神ヶ岳、とんがり帽子のような金時山など、まるで外輪山オールスターズのような峰々の雄姿が見晴らせる。
この強羅という不思議な名の由来を調べると、「早雲地獄からの土石流が落ちた斜面で石がゴロゴロし、それが訛ってゴーラに」。「梵語(サンスクリット語)で『石の地獄』の意味」。「地盤が亀の甲羅のように硬いから」など諸説ある。「ふふ 箱根」では、強羅のキーワードは“岩石”や“硬い地質”にあるととらえ、シンボルマークに亀甲紋、箱根連山、日本の木々を重ね合わせ、箱根の伝統細工である寄木細工にちりばめた。さらに山のリゾートらしく、館内随所に岩石を配し、インテリアに採用。岩肌をほうふつとさせる壁や引き出しの取っ手、香りのディフューザーとしても岩石を利用している。特にメインエントランスを飾る巨岩は、この場に飾るために探し求めた唯一無二の“本小松石”である。約40万年も前に箱根火山の噴火で生まれた小松石は、現在、神奈川県真鶴町付近でのみ産出される稀少価値の高い石だという。
ラグジュアリーな客室は全39室、いずれも「ふふ」ならではの“贅”に満ち、大きな窓に映る山々との一体感が楽しめる。訪れた真冬の2月、冬枯れの木々の向こうには山々の稜線が。なんと趣があるのだろう。春を迎え芽吹きの季節となれば木々も若葉を出し、山々も新緑に覆われるだろう。日差しに輝くみずみずしい若草色を想い浮かべ、客室の温泉にゆったりと浸かった。「ふふ 箱根」のような山のリゾートの醍醐味は季節の移ろいが目に見えるところにある。
その夜、楽しみにしていた「ふふ 箱根」の会席料理に驚かされた。メインとなる「進め肴」がプリフィックススタイルで提供されたのだ。いくつも並ぶ献立の中から好みを3品選ぶという斬新な構成に、ゲストの誰もが驚き高揚して見えた。
そして大いに満たされた食後、客室に戻る回廊で夜空の美しさに足を止めていると、星に詳しいスタッフが星空を解説してくれた。わずか数分の会話に旅心をくすぐられた夜である。
斬新な方法で提供される料理とは?
≫続きを読む
text: Kyoko Sekine photo: Mariko Taya
2022年4月号「体と心をととのえる春旅へ。」