世界遺産「石見銀山」の町で探る
“観光のヒント”【後編】
|これからの観光地に必要な10のキーワード
世界遺産、石見銀山の町、島根県大田市大森町では人々の意志で観光と暮らしの場所の両立を図ってきた。持続可能な観光の実現のために押さえておくべきキーワードとは? 地域をけん引する松場大吉さんと松場忠さんに、複雑な時代を乗り切るためのヒントを聞いた。
<Keyword 1>
自ら考えて動く
「脱! アウトソーシング」
たとえば江戸時代、大衆に広まった四国遍路では人々は少ない情報の中でも自ら調べ、旅に出たと思う。しかし戦後、便利さを優先し、大切な部分を業者任せにした。旅の醍醐味は知識を得、感動し、人と出会いつながりを得ること。人間の成長のためにあった観光を取り戻さないといけないね。(大吉)
<Keyword 2>
意図と意志のある選択を促す
「成長と感動の観光を創る」
私自身、妻と出会ってはじめて大森町に来たときに「こんな場所があったんだ」と感動した記憶があります。ゲストに意図と意思ある選択を促すには、町の適切なキャパシティを見極め、各人のニーズや滞在時間に合わせた、どんな過ごし方にも対応できる「余白」が大切です。(忠)
<Keyword 3>
社会性のある町づくり
「企業と地域の協奏」
私たちはこれまで、町と足並みを揃えながら活動を行ってきました。コロナ禍という危機に直面して、長年大森町で町づくりを行ってきた企業や行政の方々、また新しく町の仲間となった人たちと手を取り合って前へ進む。社会性をもった活動がいっそう重要となってくると思う。(大吉)
<Keyword 4>
オフシーズンこそ学びの時
「令和の出稼ぎを実行」
観光の弱点は一年を通しての集客率が一律ではないこと。そこで固定費を抑えようと短期の人の手配で済ませれば、雇われた人は仕事をこなすだけに注力します。昔から地方では出稼ぎがあったけど、「令和の出稼ぎ」では都会に出て稼ぐだけでなく、知識や情報を持ち帰り地元に還元することが問われる。地域の持続可能性を高めます。(大吉)
<Keyword 5>
お互いに手間暇を惜しまない
「個人と向き合うサービスを」
ゲストは用意されたものを黙って受け入れるだけでなく、自分の希望をアピールすることも必要。食事で苦手なものがあるなら、きちんと伝える。もてなす側とゲスト、互いに手間暇はかかるが一つひとつの積み重ねで旅の価値が増す。効率化するほど感動からは遠ざかる。(大吉)
<Keyword 6>
●●遺産に惑わされない
「自立型観光」
石見銀山が世界遺産となって15年が経ちました。しかし、世界遺産という冠だけでお客を呼び込もうとするだけでは観光の持続化は難しい。一過性のブームで過ぎ去ってしまうイベントなどからは自立すること、そして住民や行政と共創し共存することが大切だ。(大吉)
<Keyword 7>
消費される観光はもう終焉
「生活観光へのシフト」
狩猟するように消費する観光は姿を変えるべきです。私たちが社名に「生活観光」と入れたのも、大森町の住民憲章に3回「暮らし」が登場する通り、町の価値は生活にあるから。日本全国どこにでも暮らしはある。地域の生活に触れ、文化に対する理解を深める関係性づくりが重要です。(忠)
<Keyword 8>
経済至上主義から
「人間至上主義へ」
マスツーリズムと呼ばれる現代の観光の多くはあらゆる点が「もったいない」。食品ロスも多いが、それはお客さまを人として見ていないから。いまこそ人間至上主義へ。経済至上主義でことを進めるメンバーは考え方をシフトしなくてはならない。(大吉)
<Keyword 9>
地域みんなで考える
「地域一体型経営」
コロナ禍、自分だけなんとかなれば……そんな考えではどうにもなりません。地域全体をよくするために皆で未来像を描き、アクションを変える。大森町では地域内の施設、交通機関で使える共通チケットを発行し実証実験に取り組んでいます。(忠)
<Keyword 10>
自分たちの宝に正当なプライシングを
「高価格帯≠ラグジュアリー」
ラグジュアリーは宿泊施設なら内装や設備が豪華なものや高級感があるものを表現するのに使われますが、今後は異なる選択肢を提供する必要があるでしょう。地域が長い間大切に守ってきた宝に対して適正な価格付けをし、ゲストも価値を尊重する。互いの姿勢が問われます。(忠)
text: Seika Mori photo: Nomiyama Akiko
Discover Japan 2022年4月号「身体と心をととのえる春旅へ。」