発酵をテーマとした
商業文化施設《湖のスコーレ》
空間コーディネーター・石村由起子さんが行く
“発酵”と“食”でととのう滋賀旅
「湖のスコーレ」の湖(うみ)とは、琵琶湖を“うみ”と呼ぶ地元民の愛称から。「スコーレ」はギリシャ語で学校の意味。この「うみの学校」はどのようにして誕生したのか?
滋賀の“発酵”の輪を広げる
新スポットがついに完成!
琵琶湖のほとりに、発酵を中心とした暮らしの知恵と出合い、学べる商業文化施設「湖のスコーレ」がオープンした。チーズや味噌、糀などの製造・醸造所をはじめ、体験教室、ストア&ギャラリー、喫茶室などを備える。“発酵”を体験し、味わい、買うことができる施設だ。「ハッピー太郎醸造所」として施設内に糀の製造所を構える池島幸太郎さんは「長浜の地から得られるインスピレーションを大切にしながら、つくり手の人柄や思いを知る素材だけを使って、糀食品のほかどぶろくも手掛けていきたいです」と語る。
また湖のスコーレより1年早く、近隣にオープンしたイタリアンレストラン「ビワコラージュ」では、鮒ずしを取り入れたメニューも登場し、このエリア全体で滋賀の“発酵”を盛り立てようとする機運も。もともとのはじまりは、滋賀県長浜市の中心街・元浜町の再開発事業。その一環として、建て替えが予定されていた施設の監修を依頼されたのが、石村由起子さんだった。
すべてのはじまりは「発酵っていいよね」
長年、奈良のカフェ&雑貨店「くるみの木」を主宰し、用と美を兼ね備えた道具を紹介。居心地のよい空間づくりに定評がある石村さん。心を豊かにする空間プロデュースの手腕を買われ、店舗や複合施設、自治体などからの相談が相次ぐ。石村さんは、この再開発事業にかかわりはじめた当初より、地元の方から町の歴史や文化を見聞きするにつれ、この町を愛し、誇りをもって暮らす人々の想いをひしひしと感じていた。そして、新しい施設は買い物を楽しむだけではなく、地域に見守られ、育っていけるような学びの場であるようにという願いが生まれた。事業に携わる人たちで何年にもわたる議論が重ねられ、事業の仕上げともいえるこの施設にいよいよ着手するというときに、発酵文化の魅力は日本中にあるが、中でも滋賀には特別深いものを感じる、という話題になり、メンバーから発せられた「発酵っていいよね」という言葉に、みんなが大きくうなずいて、施設の方向性が固まった。
「湖のスコーレ」を託すのは
地元を愛する「発酵の匠」
豊かな自然に恵まれ、古くより日本海側と都をつなぐ交通の要所でもあった滋賀は、寿司のルーツともいわれる熟れ寿司の一種・鮒ずしをはじめ、日本酒や味噌、漬物といった伝統的な発酵の技が受け継がれる地域だ。「自分の生まれ育った町をよりよくしたいという熱意をもつ人、地元に根づきこれから30年先の未来を担う人たちが活躍する施設であってほしい」と願う石村さんは、「ロングライフデザイン」をテーマとするD&DEPARTMENTのディレクターでもある、滋賀出身の相馬夕輝さんを巻き込み、県内の「発酵の匠」一人ひとりに声を掛け、協力を求めていった。湖のスコーレの開業は、発酵をキーワードにした新たな「滋賀への入り口」の誕生といえよう。ミナ ペルホネンのデザイナー・皆川明さんが、この施設を応援する気持ちで、ロゴマークを描いてくれた。滋賀の将来を担う人々が育ち、石村さんの理念「目が喜ぶ、心が喜ぶ場所」となるべくスタート地点に立ったばかりだ。
《湖のスコーレ周辺の施設もチェック!》
《「湖のスコーレ」どうめぐる?》
醸造の現場を間近に体験!
「ハッピー太郎醸造所」では、糀食品だけではなく、どぶろく造りもまもなく始動。長浜の地でどんな味わいの酒が生まれるのか、完成が待ち遠しい
発酵食を気軽に満喫
喫茶室には「米麹チーズケーキ」580円をはじめ各種スイーツのほか、鮒ずしや酒粕などを使った個性あるフードメニューが揃う
「図書印刷室」も立ち寄りたい
2階の図書印刷室。彦根の書店店主らが選んだ本が並ぶほか、滋賀県甲賀市「やまなみ工房」のアートを展示販売するギャラリーも
オリジナルのチーズを入手
古株つや子さんが監修し、施設内でつくられた「みそフロマージュ」1210円。ほかのチーズもストア内で販売
「発酵スタンド」で小腹を満たす
「発酵白菜の肉まん」300円や、冨田酒造の酒粕入り「酒粕汁」500円など発酵グルメがスタンバイする発酵スタンド
こだわりの必見味噌つぼ
1階ストアに隣接する発酵食の製造・醸造所。工房では甲賀市のNOTA & designの味噌つぼで味噌が仕込まれている
湖のスコーレ
住所|滋賀県長浜市元浜町13-29 1F
Tel|0749-53-3401
営業時間|11:00~18:00、喫茶〜17:00(L.O.16:00)
定休日|火曜
www.umi-no-schole.jp
うつわギャラリー「NOTA_SHOP」
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text:Makiko Shiraki(Arica Inc.) photo:Yayoi Arimoto
Discover Japan 2022年4月号「身体と心をととのえる春旅へ。」