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プランニングディレクター・永田宙郷さん
伝統工芸で第2の地元を拡充する【後編】

2022.4.15
<small>プランニングディレクター・永田宙郷さん</small><br>伝統工芸で第2の地元を拡充する【後編】

「時間を越えることのできる本質的なものづくり」をテーマに、事業戦略策定から商品開発、コンサルティング、店舗プロデュースなど工芸やものづくりの第一線で多彩に活躍するプランニングディレクター永田宙郷さんが考える、第2の地元のつくり方とは――。

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太宰府
自分の役割を伝えながら、ものづくりを育む

シリコーン素材の生活用品ブランド「SING」のショールーム兼カフェ。お客として通う中で代表・中野英司さんと仲が深まり、地域に向けての自己紹介を兼ねた催事を開催
世田谷
社会の変化にいち早く触れ、感度を上げる

付近に「世田谷ものづくり学校」があり、クリエイターも多く住む東京・池尻の住居兼オフィスは、自然豊かな世田谷公園に隣接。友人や知人も宿泊できる仕様にしている

いま、地方も都市との
“つなぎ手”を求めている

お互いに支え合う意識が自然と生まれ、地域ごとの営みに身を委ねる――。そうした暮らしは心地よいが、都市生活とのバランスが必要不可欠だという。

「地方では比較的狭まったコミュニティの中で過ごすことが多いので、世の中の大きな流れを感じづらくなります。僕のような職種の場合、時にはそれが自分の社会変化に対する感度を下げることになるので、多くのヒト、コト、モノに出合えることが何よりのメリットである東京に、月の半分はいるようにしています」

東京・世田谷の住居兼オフィスは、関東以北の拠点。スタッフとのミーティングだけでなく、バイヤーたちが「ててて協働組合」をはじめ関係先のうつわを実際に使って試せるショールームや商談会の場としても機能している。

東京と福岡に拠点があることで、都会的な情報や編集的視点があるだけでなく、地元だからこその事情も熟知している。永田さんはその強みを生かし、大分県日田市の和菓子店「日田とらや」のブランディングや、老舗醤油店「マルマタしょう油」のリブランディングと商品開発、福岡県八女市で創業120年余りの木工所が手掛ける伝統工芸品「隈本コマ」のアドバイザリーなど、2拠点生活をはじめてから新しい仕事を生み出している。

「服は試着できるのに、一般的に売られているうつわは口がつけられない。ここでは料理や飲み物で実際に試してもらいながら、商談をすることもあります」
内装はリノベーションの先駆け「blue studio」が手掛けた

そういった工芸やものづくりに関わる活動の中で、永田さんが大切にしていることは「つなぐ」こと。

「工芸は、もともとその土地でつくられ、その土地で使われてきたものが多く、自然とモノの背景や役割を知りながら楽しむことができました。それが現代では地方でつくられながらも、ほとんどが都市部で売られています。だからこそつくる人、売る人、使う人をきちんとつなぎ合わせるハブとしての役目が重要だと考えています。そのためにも、僕自身が都市や地域をまたいで暮らし動くことで、実感をもちながらそれぞれのギャップを埋めるお手伝いをしていきたいですね」

さらに、これから福岡で自ら主催の勉強会を開催していく予定だとか。そういった第2の地元で仕事をつくる上で、大事なことは何だろうか。

「地域でのクリエイティブに関しては、まず『耕す』感覚が必要です。都市部にはすでに土壌となる市場がありますが、地域では自分に共感してくれる土壌からつくらないと、どんなによいものをつくっても受け入れてくれる余地がない。つまり、人との関係構築やリサーチを丁寧にした上で、コンテンツになる前の状態をどう生成していくかを考える。クリエイターも都会ほど近くにいないので、やるべきことは多いですが、逆に言えばスキルアップにもつながります。その上で『地域に足りない役割』と『自分が担えるもの』が合致すれば仕事につながる。ものづくりの世界でいえば、いま地方では『つくり手』ではなく『つなぎ手』が圧倒的に求められています」

地域にない役割を丁寧につくる――。それは、どの仕事にも通じることなのは間違いない。

マルマタしょう油/2021年
1859年に創業以来、大分県日田の豊かな水資源と国産小麦など厳選した原料で「毎日使いたくなる醤油」をつくるメーカー。永田さんは新しいロゴデザインや甘いポン酢などの新商品開発を手掛けた
御菓子司 日田とらや/2021年
庭師・スガヒロフミ氏による空間、ランドスケープデザインを手掛ける1 mokuとともに設立。ランドスケープを中心に、ホテルヴィラなどの建築、設計施工、グラフィックやサイネージなど自然と融合するデザインを行う
隈本コマ/2021年
八女市で唯一、県知事指定特産民工芸品「八女こま」をつくる創業120年余りの木工所。「隈本コマ」をはじめ子どもの感性を育む木製のおもちゃを手仕事でつくり続けている。永田さんは不定期のアドバイザリーで携わる

都市と地方をまたぐことで、
つくる、売る、使う人たちの
ギャップを埋められる

全国各地のものづくりやつくり手、ものづくりの場づくりなどのプロデュースに携わる「TIMELESS LLC.」を中心に、「ててて見本市」を開催する「ててて協働組合」、直すことで伝統工芸を未来につなげる「金継工房リウム」も展開

<東京を起点に出張ありのスケジュール>
06:30     東京の自宅で起床
08:00〜10:00 飛行機や新幹線で地方出張
11:00〜16:00 昼食を挟みながらクライアントと打ち合わせ
16:00〜17:00 都内勤務のスタッフとの連絡
19:00〜21:00 職人さんと夕食
22:00〜24:00 メールチェックや事務作業
24:00     就寝

<移住の基本データ>
名前|永田宙郷さん
拠点をもっている場所|東京・世田谷、福岡・太宰府
職業|「ててて協働組合」共同代表、プランニングディレクター
家賃&間取り|2LDK(東京・世田谷)、2LDK(福岡・太宰府)
第2の地元をつくった理由|地方と都市とのコントラストを感じたかったのと、自分の故郷を客観的に見られる場所をつくりたくて太宰府を選んだ。
地元を複数もつことのメリットとデメリット|メリット/住む土地の中で自分の役割を見つけやすい。支え合うという意識が自然と芽生える。デメリット/地方だけだと世の中の大きな流れ、社会変化に対する感度が下がってしまう。
地元を増やしたことでできた趣味|特になし

text: Ryosuke Fujitani photo: Kousaku Kitajima, Yasuhiko Roppongi
Discover Japan 2022年3月号「第2の地元のつくり方」

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