プランニングディレクター・永田宙郷さん
伝統工芸で第2の地元を拡充する【前編】
「時間を越えることのできる本質的なものづくり」をテーマに、事業戦略策定から商品開発、コンサルティング、店舗プロデュースなど工芸やものづくりの第一線で多彩に活躍するプランニングディレクター永田宙郷さんが考える、第2の地元のつくり方とは――。
永田宙郷さん
「ててて協働組合」共同代表。デザイナー、ディストリビューター、デザインプロデューサーとともにつくり手と使い手、伝え手をつなげる場として、2012年より「ててて商談会(2019年まで見本市)」を開催
東京・世田谷⇔福岡・太宰府
2拠点で気づけた“情報”と“情緒”
全国各地の伝統工芸から最先端技術まで商品開発やプロデュースを数多く手掛け、つくり手・使い手・伝え手の3つの「手」をつなぐ場として「ててて商談会」を主宰する永田宙郷さん。全国を飛び回る中で3年前、東京に次ぐ第2の拠点として福岡県太宰府市にアトリエを構えたが、なぜ自身の地元である福岡市ではなかったのだろうか。
「マーケティングの視点でつくられた都市だけで生活していると、『消費者』として位置づけられる機会があまりにも多いので、『生活者』としての役割をより感じたいという欲求があったからです。また、自分の故郷を客観的に見たいという思いもあり、あえて福岡市内から少し離れ、文化的背景や商圏が異なる太宰府を選びました。この地は福岡の中でも文化的・歴史的な要素が多く残っているだけでなく、交通の要衝。九州各地までアクセスがよく、空港も20分で行けるので結果的に僕の仕事には最適な場所でした」
もともと永田さんは福岡には仕事でよく訪れていたが、暮らしはじめてからは、太宰府市に工場を構えるシリコーンメーカー「SING」や、八女市で工芸品を扱うショップを運営し、問屋、メーカー、出版やツーリズムを手掛ける地域文化商社「うなぎの寝床」など、地域のプレイヤーたちとの関係が深まり、意識が変わったという。
「世界最大級の家具インテリア見本市『ミラノサローネ』を見ると、これまで多くのブランドをスターデザイナーが手掛けていましたが、コロナ禍で往来が閉ざされ地元のデザイナーに目を向けたように、いまものづくりの世界的な流れとして〝地域でできるクリエイティブ〟が求められています。そういった中で『いま住む地域に対して自分ができることは何か』を考える機会が増えました。そして、東京には常に選択を迫られる情報があふれていますが情緒を感じづらく、一方で地域は情報が限られるぶん、感性に響く情緒があります。自分の美意識を整えるという意味でも地域に拠点をもつことは非常に有意義だと感じています」
第2の地元でそうした思いをもって活動することで、永田さんは新しい縁やプロジェクトを生み出している。
うなぎの寝床 旧寺崎邸
住所|福岡県八女市本町327
Tel|0943-24-8021
営業時間|11:00~17:00(あだち珈琲は~18:00)
※17:00~18:00は豆の販売のみ
定休日|火・水曜(祝日の場合は営業)
https://unagino-nedoko.net
第2の地元は、ふるさとを
客観的に感じ取れる場所に
開放的な玄関、
天井高のある大胆な空間
「太宰府天満宮の近くという立地と、LDKで小さく区切らず、吹き抜けの大胆な空間使いが気に入っています。東京と比べて賃料も安いので、コスト的に変わっていません」
<福岡・太宰府での休日スケジュール>
09:00 起床
10:00〜12:00 周辺を散歩~ブランチ
13:00〜15:00 知人のショップへ
16:00〜17:00 書店へリサーチ
20:00〜21:00 夕食
22:00〜24:00 メールチェックや映画鑑賞
24:00 就寝
text: Ryosuke Fujitani photo: Kousaku Kitajima, Yasuhiko Roppongi
Discover Japan 2022年3月号「第2の地元のつくり方」