いま長野のワイナリーが熱い!
千曲川 ワインツーリズム【前編】
日本ワインはいま、猛烈な勢いで進化している。ワイン通が日本ワインは質的に取るに足らないとしたのは過去のこと。その進化の中心地のひとつが、長野県の小諸から東御、さらに長野市に至る千曲川流域の「千曲川ワインバレー」だ。ワインジャーナリストの石井もと子さんと、いま熱いこのエリアを訪ねます。
石井もと子さん
長らく海外ワイン生産者協会の日本代表として輸入ワインのプロモーションにかかわり、現在は日本ワインの振興に尽力するかたわらワインジャーナリストとして活躍
個性的で多様な造り手が、次々に誕生!
日本を代表する銘醸地・長野へ
千曲川ワインバレーの名づけ親は画家でありエッセイストである玉村豊男さん。2003年、東御に「ヴィラデストワイナリー」を起こし、2015年にはブドウ栽培醸造、ワイナリー経営を学べる「千曲川ワインアカデミー」を開校、その卒業生たちが続々とワイナリーを起こしている。
この地は降雨量が少なく全国有数の晴天率を誇り、乾燥した気候を好むブドウの栽培の適地であり、さらに標高差があり気温に幅があるので多様なブドウ品種が栽培できる。養蚕業が廃れた後の桑畑や後継者のいない農地などブドウ畑に転用できる土地も多く、すでに千曲川ワインバレーには30を超えるワイナリーが誕生した。
今回は、八ヶ岳や北アルプス、浅間山の雄姿を望む千曲川ワインバレー上流域をご紹介。小規模ながら個性豊かなワイナリーが多く、さらに「マンズワイン小諸ワイナリー」、「シャトー・メルシャンワイナリー」と大手のプレミアム・レンジを造るワイナリーがあり、泊りがけで訪ね、それぞれの個性を楽しんでほしい産地だ。
代表的なワイナリーを紹介しよう。小諸で生まれ暮らしてきた池田岳雄さんは退職後、仲間とワインを核にした同市糠地地区の活性化に取り組む。糠地の標高900mの寒冷地に開いたブドウ畑から委託醸造で造ったワインの豊かな味わいはワイン通をも驚かせ、昨年ワイナリー「テールドシエル」を開設した。池田さんに続けと糠地に移住しブドウ栽培をはじめた人は10人近く。今年、糠地にふたつ目のワイナリーも誕生した。
富岡正樹さんは糠地の対岸・御牧ヶ原に所有する遊休地でブドウ栽培をはじめた。既存のワイナリーに委託醸造していたワインは経営する温泉旅館「中棚荘」で供していたが、面積を広げ収穫量が増えたので家族の協力を得て「ジオヒルズワイナリー」を起こした。
レストランを経営し「ワイン王子」として長野ワインの振興に努めていた成澤篤人さん。出身地の坂城町で2011年にブドウ栽培をはじめると、近隣農家から畑を引き取ってほしいという依頼が続き、畑面積は当初の0・7haから2・6haに広がった。2018年には本格派イタリアンレストランを併設する「坂城葡萄酒醸造」を創業した。
ヴィラデストで栽培醸造に従事していた波田野信孝さんは、栽培管理を任されていたブドウ畑の所有農家が引退する際に、優れたシャルドネを育むその畑を引き継ぎ、「カーヴハタノ」を起こしている。
そして「リュードヴァン」。上信自動車道を東部湯の丸で下り、急な坂道を上がっていくと、眼の前に広々としたブドウ畑とそのかたわらに瀟洒なワイナリーが見えてくる。15年前、ここは雑木林化した耕作放棄地だったが、山梨と長野で経験を積んだ醸造家の小山英明さんは、思い描くワインを造れるのはここだと確信し、自ら重機を運転し開墾。6・5haの畑を開いた。収穫の手伝いを楽しみにしている人も多く、人数制限をしても多くのボランティアが集まり、小山さんはブドウ畑でピクニックをしてボランティアをねぎらっている。この秋、カフェ・レストランでワインをゆっくり楽しむお客の姿も戻ってきたそう。ブドウ畑の散策に訪ねてくる人も。ここに寛ぎを求めてくる人も少なくない。
多彩で個性的なワイナリーが次々に誕生する千曲川ワインバレー。ワインの造り手たちの成長を見守りながらワインツーリズムが愉しめる地として、ますますの発展が楽しみだ。
text: Motoko Ishii photo: Yoshihito Ozawa
Discover Japan 2022年1月号「酒旅と冬旅へ。」