クリエイターがインスピレーションを感じる街、高岡へ
「市場街2021」【後編】
職人とクリエイターが出合い相乗効果を生み出す、富山県・高岡。時代が変化する中で、高岡は時に立ち止まりながらも歩みを進めてきた。いま街を動かすキーパーソン3人から、受け継がれてきたものを語ってもらった。
高岡クラフト市場街
副実行委員長
有田行男さん(写真左)
富山大学芸術文化学部・大学院芸術文化学研究科准教授。京セラ、日本電気の勤務を経て、現職。大学では「高岡クラフト市場街」プロジェクト実習を担当している。
高岡クラフト市場街
実行委員長
國本耕太郎さん(写真中央)
「漆器くにもと」の4代目で、職人と他業種をつなぐ伝統工芸産地プロデューサー。伝統工芸とアウトドアを融合したブランド「artisan933」の共同設立者も務める。
高岡伝統産業青年会
会長
羽田 純さん(写真右)
1984年、大阪府生まれ。高岡市の芸文ギャラリーでキュレーションを8年担当した後、クリエイティブスタジオ「ROLE」を設立。富山を拠点に幅広い分野でデザインを行う。
文化創造都市「高岡」は
いかにアップデートされ続けるのか?
國本耕太郎さん(以下、國本) 10回目となる高岡クラフト市場街が、無事開催できました。昨年のオンライン開催に続き、初のリアルとオンラインを組み合わせた今年のハイブリッド開催も、なかなかおもしろいものになりましたね。
有田行男さん(以下、有田) この10年を振り返ると、2011年には東日本大震災があり、その影響もあってスマートフォンの普及も一気に広がりました。日常生活が変わっていく中に、市場街も存在していました。そう考えると、昨年はオンライン開催についての議論もありましたが、世の中を考えると、当然の進化であったのだと感じています。
國本 市場街を中心となってスタートさせたのは、元富山大学教授の松原博さん(初代高岡クラフト市場街実行委員長)。当時、松原さんの周りには高岡の職人や行政の人などさまざまな人が集まっていました。振り返ると、そこで自然と産学官金の連携が生まれたのかなと。昔は職人さんが表に出ること自体がタブー視されていましたが、市場街を通して職人たちの顔がより見えるようになり、問屋も新しいスタイルをつくり出すように変化しましたよね。
羽田純さん(以下、羽田) 当時職人たちがしたかったことと、世の中の需要がハマったのが市場街のはじまりだったと思いますね。工芸都市高岡クラフトコンペを起点に、周辺で自ら展覧会を行う人たちも出はじめていました。当時、松原さんが言っていた「点から線へ、線から面へ」にうまく進化できた時期でもあったと思います。「高岡」というキーワードを頼りに全国から人が集まり、この場所でつながっていく。ここに来る人たちは、ものよりも人に会いに来た感覚が強くて、その関係性をつくれたことに価値を感じています。
有田 高岡市では、’15年に「文化創造都市高岡推進ビジョン」がつくられています。当時、市場街はアイテムとしては存在していたけれど、街づくりの核になるとは考えていなかったのではないでしょうか? 推進ビジョンの中にコンテンツは多くありましたが、市場街というイベントによって、金屋町や銅器団地を巻き込んでプラットフォームとして大きくなり、このビジョンに重なったということが街にとって、よかったのかなと思っています。
羽田 ほかの地域の人たちと話をしたときにうらやましがられるのは、高岡にある団体同士のかかわり、組織体系ですよね。クリエイターがいて、大学があって、行政も参加しながら、街の人と職人が協働する。オールスターで活動する理想的な構図です。
有田 私はもともと、都内で働いていたので産学連携のイメージはできても、産学官と言われるとピンとこなかった。しかし、地方に来てみると行政の存在はとても大きいんです。街づくりも大切になってきますから、連携するときに官は外せない。官と産をどうつなげていくかが大学の役目だと思っています。デザインや芸術を学べる国立大学は少なく、多くの富山大学の学生はほかの地域から来ています。せっかく地域で学んでいくわけですから、首都圏では学べないような実践的な学びを生徒たちに提供していきたいですね。
羽田 多様な職人が集まる高岡伝統産業青年会では、今後は集団としての力だけでなく、個の力も強めていって、クリエイターとつながりたい人の窓口をつくっていきたいですね。’22年の2月には、これまで首都圏で行っていた高岡伝統産業青年会の展覧会を、はじめて地元・高岡でも開催予定です。
國本 職人やクリエイターと何かやってみたいけど、どう実践したらよいかわからない人こそ、高岡に来てほしい。特に市場街の期間は、さまざまな人やものが融合して独自のコンテンツを生み出しているのでおもしろいと思いますよ。これからも市場街を進化させていきます。ぜひ高岡で皆さんにお会いできる日が来ることを、心から楽しみにしています!
内外の関係性が文化創造都市誕生のカギ
高岡の文化が体感できる3つの舞台へ
400年の歴史と先人に敬意を払いながら、つながり続ける高岡の文化。この街を存分に楽しむために、まずは訪れたい代表的スポットをご紹介。
〈体験〉
高岡の産業を牽引する、クラフトツーリズムの聖地
「能作」
〈食事〉
地元食材と高岡のうつわが織りなす日本料理
「茶寮 和香」
〈宿泊〉
鋳物文化を伝える一棟貸しホテル
「民家ホテル金ノ三寸」
市場街2021(高岡クラフト市場街)
開催期間|10月16 ~ 24日の9日間
会場|富山県高岡市の中心市街地(山町筋エリア、御旅屋エリア、金屋町エリア)及び戸出エリア、勝興寺、善興寺の全26会場、YouTube
問|高岡クラフト市場街実行委員会
Tel|0766-20-1255(高岡市文化創造課)
https://ichibamachi.jp
text: Kaeko Ueno photo: Atsushi Yamahira
2022年1月号「酒旅と冬旅へ。」