《京都伝統産業ミュージアム》
京都観光のはじまりに訪れたい理由とは?
平安神宮や京都市京セラ美術館などが並ぶ岡崎エリアの一画にある、みやこめっせ(京都市勧業館)。その地下にある、知る人ぞ知る京都観光のスタート地点にすべきスポット「京都伝統産業ミュージアム」をひも解く。
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和の伝統工芸の粋が大集合
稀少な技もつぶさに見学
平安時代から1000年以上、都が置かれた京都。そこには日本各地から職人が集い、人々の暮らしを支える品々がつくられてきた。京都は日本の伝統工芸の中心地である、漠然とそんなイメージを抱く人は多いだろう。
ただし、ひと口に「伝統工芸」といっても、国指定の17品目を含め、京都市が2005年に定めた伝統産業が74もあることをご存じだろうか?
「京都伝統産業ミュージアム」では西陣織、京友禅といった染織品から、京仏壇、京漆器、京扇子、唐紙、三味線、邦楽器絃といった工芸品、そして清酒(日本酒)・京菓子・京漬物・京料理といった食品まで74品目をすべて取り上げ、品物とともにその歴史や特色を展示している。さらには手機で織る西陣織の貴重な制作映像が観られたり、分業制で行われる各種工芸の工程が見本や道具とともに解説されていたりと、京都で発展してきた伝統産業のあれこれを多角的に学ぶことができるのだ。
74品目の中にはいまや生産工房が1軒あるかないかという危機的状況の分野もあるという。「京都が守るべき貴重な技術を次代につなぐため、あえて伝統産業に指定して保存・継承しようとしています」と館長の八田誠治さんは語る。
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街で出合う“京の美”は
職人たちによる伝統の意匠
京都を訪れる人が目にするもののひとつに、社寺建築がある。静寂な空間を縁取るふすまに日が当たると、五三桐、ひょうたんといった文様がきらきらと浮き上がる。雲母を使う唐紙である。
平安時代に和歌などを記した料紙の技術が、鎌倉・室町時代になるとふすま紙にも使われるようになり、宮中や貴族の邸宅、社寺を彩った。数百年の歴史ある唐紙老舗では古い版木を何百と所有し、美しい文様をいまも手ずりする。京都ではさまざまな伝統建築、時にはモダンなビルにまで唐紙の技が駆使されており、街ゆく人が知らず知らずに目にする機会も多い。
また京都といえば大小の神社が点在し、祭りが多いことで知られているが、そこに欠かせない神祇装束調度品も、京都の誇る伝統産品だ。
「全国の神事にまつわる品物のおよそ8割を、京都で生産しているそうです」と八田さん。各神社の記録に従い、行事ごとに細かな意匠を再現するという。
祝い事に京都の人が集う料亭で、必ずといっていいほど登場するのが京漆器。漆の精製にはじまり、木地、下塗り、研ぎ、上塗り、蒔絵など約16の工程をそれぞれ専門の職人が担う分業体制で出来上がる。「職人は自分の仕事が終わると、次の職人へ渡す。いい加減な仕事をすれば次の職人が困るので、絶対に手を抜かないといいます。いまも、昔も変わらない京都のものづくりですね」。
やはり分業が欠かせないのが、かつて「着倒れ」の街と呼ばれた、京都ならではの染織品だ。中でも西陣織は、室町時代以降いかに豪華な文様を織り上げるかが競われるようになった。
近代にはフランスのジャカード織機も導入され、より精細な柄の織物を高速で実現。一般の着物はもちろん、歌舞伎や能楽など伝統芸能の装束や、祇園祭の山鉾を装飾する懸装品、空間を飾るタペストリーとなることもある。まさに、京都の街の至るところが、職人の手仕事による伝統産品に彩られているのだ。
京都伝統産業ミュージアムが一般のミュージアムと少し異なるのは、展示品の中に値札の付くものがあること。各分野の職人が丹精込めてつくった品物だけに、なるほどと納得したり、意外に手頃だと感じたり。「ミュージアムが入る建物は京都市勧業館。産業を盛り上げることが本来の役目ですから。伝統工芸品に興味があるけれど、どこで手に入るかわからないといった方から相談をいただき、おつなぎすることもあります」。
手仕事が、いまも確かに京都に息づいていることが実感できるミュージアム。街めぐりの最初に訪れれば、京都への興味がいっそう募ること間違いなしだ。
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さらに伝統産業への理解を深めよう!
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text: Kaori Nagano(Arika Inc.) photo: Mariko Taya
2024年11月号「京都」