環境省・中井徳太郎さんに聞いた
日本が行っているSDGsへの取り組み【前編】
《SDGsの基礎知識》
「誰一人、取り残さない」と包括的に世界の課題に挑むSDGs。重要性は感じつつ、何から手をつければ……と悩める企業・自治体は多いはず。そこで国連よりずっと先にSDGs的立ち位置で社会課題に対峙してきた環境省・中井徳太郎さんを直撃。「何をどこから?」のヒントを伺いました。今回は、SDGsのこれまでとこれからを、3つの記事でご紹介します。
中井 徳太郎(なかい・とくたろう)
1962年生まれ。東京大学法学部卒業後、’85年に大蔵省入省。’99年、富山県庁へ出向。2002年財務省広報室長、’10年主計局主計官などを務めて、東日本大震災後の’11年7月環境省へ。大臣官房審議官、廃棄物・リサイクル対策部長などを経て’20年より現職
先駆けの契機は震災だった。
2015年9月、国連本部で採択されたSDGs。
国際社会が足並みを揃えて’30年の実現に向け、環境・経済・社会にかかわる課題を解決、持続可能な世の中をつくるため設定した17のゴールと169に及ぶターゲットのことだ。
平たくいえば国家も企業も個人も「この17ゴールに向かって邁進しよう」と力強く方向づけしたということ。
だからSDGsに沿うことが、自治体や企業にとって市民や市場のニーズを満たすことになる。持続可能な自治体、企業の未来につながるわけだ。
もっとも、具体的にどんなアクションから進めるべきか、あまりに幅広であるため悩ましい面もあるだろう。
「それぞれの地域で環境も、リソースも違いますからね。だからこそ我々が提唱する『地域循環共生圏』の取り組みに参画してほしい」と環境省事務次官の中井徳太郎さんは言う。
地域循環共生圏とはエネルギーも観光資源も食料も「すべて地域の自然の恵みの中にある」との思想がベースにある。本来通りそれらを生態系のように地域で循環させ、自立的な経済・社会をつくり出そう、という考え方だ。
必然的に再生可能エネルギー活用につながり「カーボンニュートラル」を実現する。昨今、世界中で叫ばれている「サーキュラー・エコノミー」にも通じている。さらに言うなら、日本がかねてから内包させてきた地産地消や自然との共生の意識をリブートして再実装する試みでもあるのだ。
「実は、SDGsが採択される以前から私たち日本人がもっていた仕組みです。これを地域循環共生圏としてあらためて顕在化させたとも言えます。契機は’11年、東日本大震災でした」(中井さん・以下同)
自然と人間との関係性を再構築せざるを得ない大きな被害とインパクトを残した震災の経験。それを踏まえて環境省は自立・分散型の地域循環共生圏の着想を’14年には提言した。閣議決定に至るのは’18年だったが、SDGsに先立つかたちですでに動きはじめていたわけだ。
一方で世界的な異常気象が拡大。気候変動の要因とされるCO2の排出を削減すべきという流れは不可逆的になった。化石燃料からクリーンエネルギーへのシフトも世界の共通目標になった。SDGs策定の同年にあたる’15年にはパリ協定で「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より低く保って1.5℃に抑える」と決まったのも象徴的だ。
こうして日本と世界の課題は必然的に重なり、環境・経済・社会のバランスが取れた脱炭素への革新が共通認識になった。
こうした環境・経済・社会にわたるあらゆる課題の日本的達成ビジョンが「地域循環共生圏」というわけだ。
text: Koki Hakoda photo: Atsushi Yamahira
Discover Japan 2021年9月号「SDGsのヒント、実はニッポン再発見でした。」
《SDGsの基礎知識》
・まずは知っておきたいSDGsの超・基本情報
・世界のSDGs事情【前編】
・世界のSDGs事情【後編】
・環境省・中井徳太郎さんに聞いた、日本が行っているSDGsへの取り組み【前編】
・環境省・中井徳太郎さんに聞いた、日本が行っているSDGsへの取り組み【中編】
・環境省・中井徳太郎さんに聞いた、日本が行っているSDGsへの取り組み【後編】