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日本人の身体をととのえてくれる、
発酵がもたらす魅力
小泉武夫先生に聞くいまこそ発酵!【中編】

2021.7.10
日本人の身体をととのえてくれる、<br>発酵がもたらす魅力<br><small>小泉武夫先生に聞くいまこそ発酵!【中編】</small>
小泉先生が精力的に活動し続けられるのは、発酵食品のおかげだとか。「発酵食品の免疫力の高さは生理学者の間でも常識です」

ここ数年、日本だけでなく世界でも注目を集める“発酵食”。その文化や歴史、伝統的な日本の発酵食の魅力、そしてパンデミック下で取り入れるべき真の価値を、発酵学の第一人者農学博士の小泉武夫先生にうかがいました。今回は、発酵食がもたらす魅力を3つの記事でご紹介します。

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微生物の発酵によって
人類は生き長らえてきた!?

小泉先生が常に発信している発酵食の魅力は下記の5項目。それに加え、微生物を体内に直接取り込むことによって吸収率がアップする作用も見逃せない。

「微生物がもつ酵素によって、分子量の大きいでんぷんはブドウ糖に、タンパク質はアミノ酸に分解されて低分子になるので体内に吸収しやすくなる」

人間は、そういった栄養を体内に摂取し、それを分解したり、まったく別の物質をつくりながら、その過程で生じるエネルギーを得ることで生き続けられる。

「なぜ微生物はビタミンなどの人間にとっていいものをつくってくれるのか。それは人間のためではありません。微生物たちは絶えず子どもたちを産み、強くしていかなければならないから、子孫のためにビタミンやペプチドといった栄養をつくる。私が定義する“発酵”とは、そういった作用で生まれる物質が人類にとって有益となること。もし、そういった微生物たちの多大な恩恵がなかったら、人間をはじめ、動植物までもこの地球上には存在し得ません」

そう力説する小泉先生が日常的に取り入れている発酵食は、味噌汁。

「味噌を仕込む麹菌は、日本酒と同じアスペルギルス・オリゼーで日本にしか生息しない菌。日本醸造学会で“国菌”にも指定されているので、味噌はまさに日本固有の調味料です。タンパク質は豆味噌で18%前後と豊富で、これは和牛と比べても遜色なく、しかも味噌には生命を維持するために不可欠な8種類の必須アミノ酸が含まれている。昔の人が“大豆は畑の肉”といったように、味噌汁はいわば“肉汁”なんです。さらに、昨年4月まで広島大学の医学部で客員教授をしていましたが、その期間に味噌の免疫力効果で体内の放射能をいかに早く抜くかを研究している先生と親交を深め、味噌の免疫力のすごさを再確認しました」

その免疫力は、小泉先生が幼少期から毎日食べてきた納豆にも宿る。

「今回のコロナ禍で何をとれば一番免疫を高めるかを考えて出たひとつの結論が、キムチを刻んで納豆と合わせ、白米にかけて食べること。ぜひ取り入れてみてください」。

日本人の身体をととのえてくれる、
発酵がもたらす魅力

1.栄養の宝庫

発酵を司る微生物は、多量の栄養成分を発酵過程中に生産し、食品の中に蓄積する。「たとえば大豆に納豆菌を付けて増殖させ、糸引き納豆をつくるだけで、アミノ酸が130倍になる。発酵食品はどれも元の素材に比べて驚くほど栄養成分が高くなる“滋養の宝庫”なんです」。

2.保存ができる

発酵による保存法が発見されたのは、紀元前数千年といわれている。「大豆は煮て置くと腐りますが、納豆にすれば腐らない。牛乳も乳酸菌を付着してヨーグルトやチーズにすれば保存が利く。私は以前、ジョージアで200年前につくられたチーズを食べたこともあります」。

3.免疫力アップ

「発酵食がほかと異なる一番大きな点は、微生物が入っていること。生命体は共通して免疫力をもっているので、食べることでそれが高まることは明らかです。また微生物は腸を通過するときに免疫細胞をつくりなさい、と命令して便として出ていくので整腸作用もあります」。

4.究極の自然食

発酵食品は原料を微生物の力によってつくられる。「化学調味料などの添加物は一切入っていない、天然の美味しさに満ちた究極の自然食品です。さらに、発酵させることで食欲を刺激する神秘的な香りを放ち、旨みや味わいの深みなど嗜好性を抜群に高めてくれます」。

5.歴史と伝統性

「たとえば日本では、2000年もの間、培養や応用が難しいカビという微生物を暮らしの知恵で巧みに扱い、そこから醤油や味噌、鰹節、酒、みりんといった多様な嗜好物を生み出してきた伝統がある。その長い歴史に裏づけされた英知が今日の発酵食文化につながっています」。
 
 

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Text: Ryosuke Fujitani photo: Kazuya Hayashi
Discover Japan 2021年7月号「ととのう発酵。」


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