日本人の免疫力を支えていたのは
2000年以上食べ続けてきた”和食”だった
小泉武夫先生に聞くいまこそ発酵!【後編】
ここ数年、日本だけでなく世界でも注目を集める“発酵食”。その文化や歴史、伝統的な日本の発酵食の魅力、そしてパンデミック下で取り入れるべき真の価値を発酵学の第一人者小泉武夫先生にうかがいました。今回は、発酵食がもたらす魅力を3つの記事でご紹介します。
いまこそ、発酵で健康を手に入れよう
誰もが想像だにしなかった疫病が猛威を振るういまだからこそ、原点に立ち返り、健康につながる発酵を取り入れるべき理由とは。
下記に示す図で顕著なように、コロナ禍になり日本人の食意識が向上している。特筆すべきは「食文化を受け継ぐことへの意識」の高さだろう。それは、2000年以上食べ続けてきた日本の伝統的な和食への回帰意識が民族の遺伝子として残っていると小泉先生は推察する。
「そもそも伝統的な和食の食材は7種類の植物と魚の8つのみ。いまからたった80年前まで肉を食べていた人なんてほとんどいなかった。それが欧米化したことで生活習慣病に表れているように食生活が変わった。顕著なのが沖縄。戦前まで沖縄は中国の医食同源の流れをくむ薬食同源、つまり食べ物=薬という琉球料理の食文化が根づき、男女ともに長寿日本一だった。それが昭和20年にアメリカになったことでステーキやスパム、タコスなどが流入して食生活が激変し沖縄料理になった。現在沖縄の男性の平均寿命は36位まで落ちました」
では理想的な和食とは一体なんだろうか。2013年に和食文化がユネスコ無形文化遺産に登録された際、国の「日本食文化の世界無形遺産登録に向けた検討会」委員として尽力してきた小泉先生が警鐘を鳴らす。
「一般的には一汁三菜といわれていますが、本来は一汁一菜。一汁とはご飯と味噌汁、一菜は漬け物。つまり伝統的な和食は発酵食品なので、日本人は根源的に“発酵民族”なんです。未曾有のパンデミックに襲われているいまだからこそ、その食文化に立ち返らなければいけない」
その発酵が未来の世界にもたらす恩恵は、何も食だけではない。
「がんの特効薬、環境問題、将来的な食糧難、そして無公害のエネルギー生産。微生物は未解決の分野を解決する可能性を秘めている。まさにいま、発酵の時代が訪れています」。
多くの人の、食への意識が
変わってきています!
近年、健康食や食育への関心が高まる中、コロナ禍により、自宅で食事を摂る「内食」が増え、それが食文化継承への意識の高まりにつながっていることが見て取れる。「近年、日本の農業生産の現場は後継者不足で耕作放棄地が増え、食料自給率はカロリーベースで30%台に陥り、食料供給は他国依存で食の安全が脅かされています。そんな時代だからこそ、あらためて国民的財産である和食、発酵に目を向けるべきです」。
日本人の免疫力を支えていたのは
7つの植物でした
「山菜は秋の風物詩、きのこも含み、根茎とはゴボウやレンコン、芋など土の中で育つ根菜類。青果はトマトやキュウリ、スイカや果物全般など、和食はここに挙げた7種類と唯一の動物性タンパク質である魚しか食べてこなかった。ただ魚は食べない人もいたので、実質は7種類の植物のみ。大豆から味噌、醤油、豆腐など多様な高タンパク質含有食品を生み出してきたので、和食の“高タンパク低カロリー”が成立していたのです」。
いま取り入れてほしい発酵食
1.納豆
2.味噌汁
3.キムチ
4.甘酒
5.ヨーグルト
6.酢
7.ぬか漬け
8.酒粕
Text: Ryosuke Fujitani photo: Kazuya Hayashi
Discover Japan 2021年7月号「ととのう発酵。」