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「てんぷら成生」素材を知れば知るほど、天ぷらは進化する【後編】
犬養裕美子のディスカバー ベスト・レストラン

2020.6.28
「てんぷら成生」素材を知れば知るほど、天ぷらは進化する【後編】<br><small>犬養裕美子のディスカバー ベスト・レストラン</small>

いまはまだスタートをしたばかり、それほど有名ではないけれど、私イチオシの“期待の星”を探して、ニッポンをめぐります!今回は、静岡県静岡市にある「てんぷら成生」を前後編記事でご紹介。

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揚げた後、“焼く”
これが「成生」独特の仕上げ

長年の取材経験から、「てんぷらとは、衣で包んで油の中に入れることで、素材の中の水分を外に出す。いわば蒸し焼きにすることで、素材の旨みを凝縮させる」と理解していた。しかし志村さんの揚げたてんぷらは最後に高温でさっと仕上げる。「高温の鍋肌で“焼く”、という感覚が近いかもしれません」。

はじめていただいたときの1品目は太刀魚だった。東京のてんぷら店では見かけないネタだ。志村さんがこの魚を最初に選んだのは、「静岡でしか味わえない魚の美味しさを体験してほしい」から。薄い衣に歯を入れると口の中でサクッと音がする。包丁の入った身が、ほろりと崩れる。厚みがある背の部分はミルキーなしっとり感。「太刀魚」って、こんなに堂々とした魚だったのかと、驚かされた。続くアスパラガスは穂先を揚げる。ほっくりとしたトウモロコシにも似た初夏の香り。実は6品目に根本の部分が出てくるのだが、これがまたジューシーで甘い!同じ素材でも部分で違う美味しさを楽しませてくれるというわけだ。

3品目にはタケノコが登場したが、これは手渡しで。直線のカウンター席は全員が志村さんに注目している。いわば舞台と観客席の関係だ。その舞台からいきなり主役が手を指し出してプレゼントをくれたら?観客のテンションは一気に上がる。志村さんの演出のライブ感にも感心した。

その究極のパフォーマンスが頂点に達するのが、揚がった瞬間にカットした鯵。みるみるうちに熱が伝わって赤身が茶に色づいていく様子がはっきり見えるなんて、ここのカウンターでしかできない芸当だ。

ちなみに東京では扱えない素材が豆鯵。こんな小さな青魚は東京に運ぶ間に溶けてしまうという。本来は決して高い魚ではないので、地元ではごく普通に家庭で食べられているが、流通にはのらない。「そういう魚こそ、てんぷらにすると美味しいんです」。魚好きには、その地方の地魚こそが何よりのごちそうだ。

魚だけでなく野菜も同じ。人参やサツマイモなどの根菜は低温で時間をかけてじっくりと火を入れる。こうすると人参など身がしっとりと崩れるようになる。これらの野菜をカットする時、縦に、繊維に沿って切るのがコツ。

見た目は普通のてんぷらだが、そこには素材へのこだわり、熟成やカットの仕方などの下処理、そして調理法と、提供の仕方など、あらゆるところに「成生」のこだわりがある。海外の有名シェフたちもこぞってこの店のカウンターに並ぶが、志村さんの次なる挑戦は……海外かもしれない?

てんぷら 成生のコース紹介

11.甘鯛

日本料理の代表といわれるウロコ焼き。てんぷらで仕上げると、香りはずっと香ばしく揚がる。

12.玉ネギ(手渡し)

新玉ネギの葉と身に包丁を入れ、じっくり揚げる。歯を入れると、とろりとした軟らかな食感。

13.フキノトウ

「山菜はまだ、開いていない、閉じた状態のものを揚げます」。揚げることで、香りが立ち上る。

14.麦イカ

地元ではこう呼んでいるが、実はスルメイカの子。小イカなので、軟らかくて食べやすい。

15.安寧芋

約40分、低温で揚げた安寧芋はお菓子よりも甘い!素晴らしい食感に変化。

食事(天丼、天バラ、天茶から選ぶ)

天丼 かき揚げ(芝エビ、みつ葉、ゴボウ)

天丼が人気。ただしここの天丼はタレを甘くしていないのが特徴。

「成生」の“虎の巻”

てんぷらの衣は冷え冷え

志村さんは「卵と水は合わせて冷やしておきます。粉も冷蔵です」。使う直前に合わせて、「よく混ぜる」。これも一般と逆の発想。

手渡しで味わってもらう

箸で食べるのが基本。でも「アツアツが一番美味しいものはかぶりついてほしいんです!」という思いで紙に巻いて手渡し!

最初は高温で、火を入れるのは低温で。

2つの銅鍋を置き、最初に高温190〜195℃で衣を固め、必要に応じて、150〜160℃の低温でじっくり火を入れる。

てんぷら成生
住所|静岡県静岡市葵区鷹匠2-5-12
Tel|054‐273‐0703
営業時間|昼は水曜・日曜の12:00~のみ。夜は火曜~日曜17:00~18:00、
19:30~20:00の二部制で一斉スタート
席数|カウンター7席
料金|コース1万5000円のみ ※予約は現在かなり先まで満席。営業時間外に問い合わせを。

text:Yumiko Inukai,photo:Muneaki Maeda
Discover Japan 2018年6月号『おいしい日本茶が飲みたい。』


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