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地元で愛される兵庫県のソウルフードめぐり|後編
いま訪ねたいせとうち

2020.10.20
地元で愛される兵庫県のソウルフードめぐり|後編<br><small>いま訪ねたいせとうち</small>

明石、姫路、たつの、赤穂と西へ進み、播磨灘に面する土地の食をめぐりました。播磨の山々から流れてくる川と、それを受け入れる播磨灘の懐の広さが、地元の食材への信頼を厚くしています。

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〈歴史が醸し、熟成させた銘品〉

播磨灘に注ぐ川の水、その水を得て大きく育つ米や小麦、赤穂の塩。何世代にもわたり受け継いできたから、いまも味わえる。

姫路城の名を冠した蔵元
名城酒造

奈良時代に編纂された「播磨風土記」には、米を原料にして酒をつくり神に献上したという記述が残り、これが日本酒の発祥ではないかと考えられている。1864年に創業した今井酒造を中心に、姫路市内の6つの蔵元が1966年に合併して生まれたのが名城酒造。いまは市川のほとりに蔵元を構え、空調設備ほかコンピュータによる管理で年間をとおした仕込みを可能にし、年間で一升瓶に換算して約70万本を仕込み、播磨で最大の生産量を誇る。

酒づくりの要である麹づくりは杜氏の経験と勘を生かした手作業で、機械化と伝統工法をバランスよく取り入れている

名城酒造
住所|兵庫県姫路市豊富町豊富2222-5
Tel|079-264-0181
営業時間|8:30〜17:00
定休日|土・日曜、祝日(10〜12月は日曜のみ、1〜4月は隔週)
www.meijoshuzou.co.jp

揖保川の流れが生み出した特産品
揖保乃糸 資料館 そうめんの里

揖保川のほとりで暮らす農家が、農閑期に作り続けてきた素麺。播州平野では良質な小麦が育ち、揖保川からの水による水車で小麦を挽き、冬は朝早くから手作業で素麺を作ってきた。揖保川の水流は、出来上がった素麺の運搬にも使われ、播磨灘から明石海峡を通って京都や大阪といった大消費地に運ばれた。こうした歴史を知ると、手軽さやさっぱり感が魅力の素麺の“奥行き”を知ることができる。

揖保乃糸 資料館 そうめんの里
住所|兵庫県たつの市神岡町奥村56
Tel|0791-65-9000
開館時間|展示室9:00〜17:00(入館は16:30まで)、そうめんレストラン「庵」11:00〜21:00(L.O.20:00)
休館日|月曜、年末年始
www.ibonoito.or.jp/

淡口醤油発祥の地、龍野
ヒガシマル醬油

淡口醤油といえば、ヒガシマル醬油を思い浮かべる人も多いだろう。「淡口」と書いて「うすくち」と読む。控えめな色合いと芳醇な香りが魅力で、古くから精進料理や懐石料理に取り入れられてきた。醤油の原料は、大豆、小麦、塩。淡口醤油では、これに米も加わる。そして、淡口醤油の仕込みに適した鉄分の少ない軟水の揖保川の伏流水。播州平野と播磨灘の産物だ。いまも揖保川のほとりに工場を構えるヒガシマル醤油は、淡口醤油のシェア国内一を誇る。

350年の伝統を誇る淡口醤油づくりの工場見学ができる。近くにあるうすくち龍野醤油資料館でも職人たちの歩みをたどれる

ヒガシマル醬油(工場見学)第一工場
住所|兵庫県たつの市龍野町冨永288
Tel|079-163-4567(要予約)
見学時間|10:00〜11:30、13:30〜15:00の約90分
開催日|土・日曜、祝日、年末年始、夏期休暇を除く平日。1週間までに要予約。
www.higashimaru.co.jp/

〈播州刃物の技術を継ぐ〉

播州はまた、刃物の産地でもあった。途絶える寸前だった職人技に、若いパワーで新しい道がつながった。

使い手の用途や手に合った、使い勝手のよさを追求した刃物をつくる

「BANSHU HAMONO」を世界へ
シーラカンス食堂

シーラカンス食堂の工房では20〜40代の後継希望者が鍛錬している

TACHI BASAMI、NIGIRI BASAMI。この文字面を見て、何のことか想像できるだろうか。家庭用刃物の代表格、布の裁断に使う裁ちばさみと、糸切りなどの細かい作業ができる握りばさみのことだ。使う人も減り、それをつくる技術をもった職人も減り、産業として廃れかけていたところに、地元出身でデザイナーの小林新也さんがプロデュースして、世界へ飛び出すことに。ニューヨークやアムステルダムの展示会で、BANSHU HAMONOは好評。後継希望者も現れ、日本に世界に、家庭用刃物を愛用する文化が再来するのも遠くはないはずだ。

伝統に可能性をプラスする場所

〈兵庫のお土産はこれで決まり!〉

名産が多い土地なだけにお土産は悩みどころ。最新トレンドも捨てがたいが、ここは古くから愛される地元自慢の3品を紹介したい。

赤穂の夕陽をかたどった塩味饅頭
元祖 播磨屋

塩味饅頭を作る和菓子屋は赤穂市内に複数あるがおすすめは発祥の店、元祖 播磨屋。江戸時代、赤穂藩主や徳川家に献上されていたという由緒ある銘菓は、いまも当時と変わらぬレシピで作られている。赤穂の海に沈む夕日を表現したという美しい円形が印象的。

赤穂塩で甘さをおさえた餡と、きめ細かく舌触りがいい皮。さっぱりした甘みが人気の塩味饅頭は1日約4000個作られる。濃茶はもちろんブラックコーヒーとも相性抜群。白と抹茶の2種

元祖 播磨屋
住所|兵庫県赤穂市尾崎222
Tel|0791-42-2300
営業時間|8:00〜17:00
定休日|元日
www.ganso-harimaya.com

ごはんもお酒も進みます!
籠長本店

創業江戸嘉永7年(1854年)。伝統と現代のセンスが融合した老舗の佃煮屋。お土産や贈答用には、看板商品のいかなごのくぎ煮のほか、松茸おこぶや姫えび山椒煮、くるみ甘あまなどが人気

阪神播磨地方の春の風物詩といえば、いかなごのくぎ煮。籠長では水揚げしたばかりの新鮮ないかなごと、もろみを絞った地元産の無濾過の生揚醤油、それに、香り豊かで良質な薬味にこだわっている。ごはんもお酒も進む、昔ながらの保存食だ。

籠長本店
住所|兵庫県姫路市八代739-5
Tel|079-222-0107
営業時間|10:00〜16:00
定休日|水・土・日曜、祝日
www.kagocho.com

ようかんの甘味を明石の民にも
藤江屋分大 本店

3色の彩りの「分大もち」も初代が江戸の流行りを取り入れた歴史ある和菓子

「ようかんといえば、ここ」と明石の人々は言う。甘さを控えて小豆の風味を存分に引き出した重厚感ある味わいの「丁稚羊羹」は、1818年に初代が「庶民にも甘味を食べられるように」と考案した。つくり手も客も代が替わっても明石の銘菓は変わらずあり続ける。

カラカラと老若男女が和菓子を求めて戸を開ける
贈り物としても喜ばれる銘菓

藤江屋分大 本店
住所|兵庫県明石市本町1-12-17
Tel|078-911-3635
営業時間|9:00〜17:00
定休日|火曜
www.bundai.co.jp

時代を超えてよみがえる壮大な元禄絵巻
赤穂義士祭

「赤穂義士祭」は毎年、赤穂義士たちが討ち入りを果たした12月14日に開催される。市内でパレードが繰り広げられ、今年は俳優・高橋英樹さんが大石内蔵助役として義士行列に出演。その他市内各所で物産市などさまざまなイベントを予定。

赤穂義士祭 本祭
開催場所|赤穂城跡、お城通り、いきつぎ広場周辺など
Tel|079-143-6839(赤穂市産業観光課)

※令和2年12月14日(月曜日)に開催を予定しておりました「第117回赤穂義士祭」につきましては、熟慮を重ねました結果、新型コロナウイルス感染症の収束が見通せない状況にあるため、令和2年度の赤穂義士祭におけるパレード、会場行事については中止いたします。

≪前編を読む

text: Yuki Inoue, Yumi Fukuda photo: Yuri Yamasaki edit: Tomoko Honma map: ALTO DCRAFT
Discover Japan 2019年12月号 増刊『せとうち案内』


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