鞍田崇さんと民具、民藝の”中間”を求めて奥会津へ
民藝に会いに行く。vol.4
旅先では、土地で育まれた民藝品をお土産にしたいもの。民藝に造詣の深い方々に、注目の民藝品と私的コースを伺った。今回は哲学者 鞍田祟さんに、100年前に世に出た「民藝」という生活思想が惹きつけられてきた場所について、現代に合わせて語っていただきます。
鞍田祟(くらた・たかし)
哲学者。明治大学理工学部専任准教授、博士(人間・環境学)。単著に『民藝のインティマシー「いとおしさ」をデザインする』、共著に『「生活工芸」の時代』、編著に『〈民藝〉のレッスンーつたなさの技法』ほか多数
鞍田崇さんが奥会津をはじめて訪ねたのは30年前、大学1回生の夏の旅だったという。
「訪ねたといっても、そのときは垣間見ただけでした。尾瀬を旅した後に会津に立ち寄って。ただ、只見線で新潟方面に出る際に、はじめて奥会津の山深い風景を目にし、その間を滔々と流れる只見川の雄大さに感動しました」
その後しばらく訪ねる機会がないままだったところ、30代半ばに再訪する機会がやってくる。きっかけは「焼畑」。火を使った農耕を調査することになり、奥会津の昭和村に焦点が当てられたのだ。
「昭和村では、衣料素材の『からむし(苧麻)』が、いまも昔ながらの方法で栽培され、初夏、畑作業の幕開けとして火入れが行われるんです。もちろん畑だけでなく、布になるまでの工程もあります。すべて手仕事で、奥会津の風土に寄り添うように営まれている。通ううちに、むしろ、そこに関心が移っていったんですね。しかも、担い手には村外出身で同世代の『織姫』さんたちもいて」
小千谷縮・越後上布の原料でもある昭和村のからむしだが、認知度は低い。そうした状況を克服しようと、村では約1年間の滞在研修制度を設けている。通称「織姫制度」ともいわれ、参加者の中には研修後も残り、からむしに従事する人もいる。奥会津では、昭和村の隣の三島町でも、手仕事に着目した「生活工芸運動」が取り組まれてきた。こちらはヤマブドウなどの編み組細工。やはり土地に根ざした生活文化で、当初は町民を中心にした動きだったが、近年、昭和村と同様に研修制度をはじめ、全国から応募があるという。日々の生活の中で、当たり前のようにものづくりが営まれ、それに共感する人たちが地域や世代を超えて集まる。奥会津のこうした動きに、新しい社会の可能性すら感じると、鞍田さんは言う。
「この間、僕は“いまなぜ民藝か”という問いを追究してきました。過去のものとしてではなく、現代の文脈の中で民藝の意義を問い直したくて。そうした思いに確信を与えてくれたのが、奥会津との出会いでした。ここには、民藝のみならず、人と自然の関係や、生きることそのものの原型が潜んでいるようにも思うんです」。
渡し舟からむしの「半座布団」
織姫さんたちの製品。昭和村産のからむしから糸を紡ぎ、織られた高品質な上布の半座布団。からむし織りは吸湿性と速乾性に富み、天然繊維ながら非常に耐久性もあるため、夏用の衣類や小物としても最適。肌触りも抜群だ。
渡し舟
価格|1万5950円
サイズ|大H65×W400×D290㎜
生活工芸館の「マタタビ米とぎザル」
材料は、マタタビの1本の蔓から伸びる1〜3mの枝。中でも熟成した肉厚の枝を使う。強度を増すために、編み終えてから「寒晒し」させている。マタタビのザルは水切れがよくしなやかな手触り。
生活工芸館
価格|6500円前後
サイズ|φ220~230×H150
1泊2日のおすすめルートを紹介!
1日目
三島町と昭和村の
工芸を堪能
JR郡山駅
↓ 車 90 min.
三島町生活工芸館
↓ 車 10 min.
早戸温泉つるの湯
↓ 車 30 min.
渡し舟
↓ 車 10 min.
交流・観光拠点施設 喰丸小
↓ 車
•ソコカシコ
•シェアベース昭和村
•やすらぎの宿とまり木
2日目
南会津にて
伝統的集落と博物館
宿泊先出発
↓ 車 30〜60 min.
大内宿
↓ 車 60 min.
奥会津博物館
渡し舟(織姫)
昭和村へ移住した女性二人によるからむし製品制作や継承活動を行うユニット。ワークショップを最も大切にしている。
住所|福島県大沼郡昭和村大字喰丸字三島1053
www.facebook.com/watashifune/
※詳細はFacebookから要問い合せ
交流・観光拠点施設 喰丸小
築80年超の旧喰丸小学校舎を改修した交流・観光拠点施設。敷地内には蕎麦カフェも併設。
住所|福島県大沼郡昭和村大字喰丸字宮前1374
Tel|0241-57-2124(昭和村産業建設課)
営業時間|9:00〜17:00
定休日|月・火曜(祝日の場合は翌日休)
https://www.nihon-kankou.or.jp/fukushima/
ソコカシコ
古民家を利用したゲストハウス。イベント会場やアート展示場としても活用されている。
住所|福島県大沼郡三島町大字桑原荒屋敷1302
Tel|090-3345-3043
宿泊|ドミトリー1泊4300円、個室1泊1名利用8100円 ※朝食料別途1000円、夕食料別途3000円〜
https://sokokashiko.info/
シェアベース昭和村
築150年超の古民家をセルフリノベーション。“皆で共有する秘密基地”の多目的宿泊施設。
住所|福島県大沼郡昭和村大字野尻字元町4488
Tel|050-3695-3106
宿泊|素泊まり1泊5000円(1人当たり。1グループに寝室1部屋提供)、1棟貸切5万円(最大12名)
https://showa.sharebase.jp/
やすらぎの宿とまり木
農作業、布小物作り、郷土料理作りが体験できる農家民宿。奥会津の暮らしを体感できる。
住所|福島県大沼郡昭和村大字大芦字大向4478
Tel|0241-57-3110
宿泊|1泊2食付1名7000円
大内宿(大内宿観光協会)
江戸時代に栄えた宿場町。茅葺き屋根の民家が建ち並ぶ国選定重要伝統的建造物群保存地区。
住所|福島県南会津郡下郷町大字大内
Tel|0241-68-3611
奥会津博物館
数百年間使用されてきた民具や道具約2万4000点を収蔵。国の重要有形文化財も含まれる。
住所|福島県南会津郡南会津町糸沢字西沢山3692-20
Tel|0241-66-3077
営業時間|9:00〜16:00
定休日|4〜11月はなし、12〜3月は木曜
入場料|一般300円
進化する民藝と出合う。
text: Nao Ohmori photo: Norihito Suzuki map: Alto Dcraft
2020年7・8月号 特集「この夏、どこ行く?ニッポンの旅計画108」
《民藝に会いに行く。》
1|山田遊さんと岐阜県 飛騨高山で自由な民藝に出合う。
2|山田遊さんと島根県 出雲〜松江でうつわをめぐる冒険
3|ビームス「フェニカ」ディレクターが日本の最高の手仕事が息づく栃木県 益子へ
4|鞍田崇さんと民具、民藝の”中間”を求める旅
5|工藝風向 高木崇雄さんと九州筑後川流域へ進化する民藝と出合う。
6|お菓子研究家 福田里香さんが推薦「かわ善い民藝」