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料理を格上げする御深井焼の鉢
高橋みどりの食卓の匂い

2020.8.11
料理を格上げする御深井焼の鉢<br><small>高橋みどりの食卓の匂い</small>

スタイリスト・高橋みどりさんがうつわを通して感じる「食」のこと。五感を敏感に、どんな小さな美味しさ、楽しさも逃さない毎日の食卓を、その空気感とともに伝える《食卓の匂い》。今回はどんな料理も美味しそうに受け止めてくれる、味わい深さを身につけた御深井焼のうつわを紹介します。

高橋みどり
スタイリスト。1957年、群馬県生まれ、東京育ち。女子美術大学短期大学部で陶芸を学ぶ。その後テキスタイルを学び、大橋歩事務所、ケータリング活動を経てフリーに。数多くの料理本に携わる。新刊の『おいしい時間』(アノニマ・スタジオ)が発売中

日曜日の早朝は、行ける限りは都内の骨董市へ出掛けます。これは古道具店を営む夫の影響ですが、私も職業柄嫌いではなく、散歩気分で同行します。かたや仕入れ姿勢に対して、そんな気分で望んでいるなんてなんとも不謹慎な言い方ですが、いや、いい物を見つけたいという気持ちは同レベルにあるつもりです。

この早朝の骨董市の風景は、なかなか味わい深く楽しいものがあるのです。いまでは洋も和もひっくるめたこじゃれた市がたくさんありますが、昔から行われている骨董市は、前の晩に地方を出発した古道具店たちが、早朝境内に着き、薄暗い頃から並べ出す。

そんなところを骨董店、古道具店類の店主は懐中電灯片手に、我れ先にとばかりに物を探すのです。こんな情景をはじめて目にしたときには驚きもしましたが、その気持ちもわからないではない。なんとこの同じさまをフランスで、早朝の蚤の市で遭遇したときには、何処も思いは同じなのだと納得しました。

店となる地べた、自分の領域に物を並べしつらえる。昨今のアンティークマーケットもヨーロッパでの蚤の市も、基本は地べたが店となります。したがって物探しの面々は、小走りにその間を縫いながら足元の物に目を落とす。誰よりも早く自分好みのものをヒットしたい、そんな真剣勝負の面持ち。

私がなかなかこれというものが見つけられないのは、まずはその気持ちが散歩だからいけない。目線は下方へ向けて、これと思った物を手にして、はじめて店主と目を合わせ会話するというシンプルなやりとり。物を探し出す目も、店主とのやりとりも、センスのいい目だけではじまらない。知識と経験値があってこそいい物が見つけられるのだと日々学んでいます。

数年前のそんな朝、思わず目に飛び込んできた御深井焼のうつわ。小皿を目にしたことはあれど、優に直径20㎝あるのは珍しい。味わい深さを身につけたそのうつわには、すでに盛りつけたい料理がたくさん浮かぶ。

手にして店主と目を合わせれば、「あっ」。以前訪れた三重の古道具店の方だった。久々の再会がうれしくもあり、その方から買う信頼感も合わせて、えいっとばかりに手に入れたのでした。

御深井焼の知識は名ばかりで、求めてから慌ててその背景をひも解けば、名古屋城内にあった尾張徳川家の御用窯だったという。徳川家は瀬戸から工人を招き、下御深井御庭に窯を築いた。長石を配合した灰釉を施した御深井釉を中心に陶器をつくらせ、これを御深井焼と呼んだのが由来。

御深井焼のうつわ。名古屋城北部(現在の名城公園一帯)の下御深井御庭という大庭園にあった小高い山、瀬戸山に尾張徳川家が御用窯を築いたことからその名がついたと言われる。皿や鉢などの型打ちや摺絵を施したもの、向付、丸碗、水指、花瓶香炉などがつくられていた。稀少価値が高くても、日常使いが高橋さん流

かくして我が家へ仲間入りしたこのうつわは、御深井焼によく見る縁の波形のひだが美しく、長石まじりの灰釉が温かい土質を覆い、細かい貫入がうっすらと見え隠れしている。深過ぎないくらいの浅鉢は、煮付けなどには色合いといい、汁うけにも具合がいい。

控えめで馴染みのいい発色は、どんな料理でも美味しそうに受け止めてくれる。今日は蕪と鶏の煮物。はじめて盛りつけた料理はブリ大根でした。このうつわは我が家のお総菜を数段格上げしてくれる、そんな頼もしいうつわです。

text&styling : Midori Takahashi photo : Atsushi Kondo
2020年2月号 特集「世界に愛されるニッポンのホテル&名旅館」


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