ファッション視点で紐解く着物の魅力(後編)
東京国立博物館 特別展「きもの KIMONO」
世界最大の着物コレクションを誇る東京国立博物館が、ファッションを切り口として、6月30日から特別展「きもの KIMONO」を開催する。着物の魅力を語る上で、ファッションという視点は欠かせない。今回の特別展を企画した東京国立博物館の小山弓弦葉さんに、着物の魅力と楽しみ方のコツを教えてもらった。
東京国立博物館
学芸研究部調査研究課工芸室長 博士(文学)
日本東洋染織史専攻
特別展「きもの KIMONO」担当研究員
小山弓弦葉(おやま・ゆづるは)
日本と東洋の染織を研究。着物に造詣が深く『小袖 江戸デザインの粋』など著書多数
着物の魅力について、特別展「きもの KIMONO」を企画した東京国立博物館の小山弓弦葉さんは「着物のよさは、日本の伝統的な工芸技術から生まれる美しさにあると思います。刺繍の表情や織物の質感、友禅染の微妙な色合い、絹の肌触り、麻の涼感など。そのような工芸品の美は、用の美を兼ね備えていました。さらに、工芸品でありながらファッションとして時代を駆け抜けていったところがおもしろい。それを感じてこそ、本当のよさがわかります」と語った。
ところが、そのような着物はいまの市場には少ないという。戦後の高度成長時代、販売を効率化するため、着物の販売マニュアルのようなものができ、デザインや着こなしは同質化の方向に進んだ。こうした現状を小山さんは「着物は本来、自由に着るものです。戦前までは誰もが着物を着て、着こなしを自由に楽しんでいました。本当の着物の楽しみを知っていただくためにも、この展覧会がある」と力説した。
気軽に着物を楽しむ方法のひとつとして、小山さんは昔着物の活用を勧めた。掘り出し物が安く手に入る機会が多いそうだ。「特に戦前のものは、いまより柄がおしゃれ。いろんな時代の美術運動、たとえばアール・ヌーヴォーやアール・デコなどを日本的に解釈した柄がたくさんあります」。
しかし、着物に憧れても、着る機会を想定すると、踏みとどまってしまう。その点について小山さんは「普段着と考えればよいのでは? 何かある日だから着るのではなく、何もない日だから着るのです」と語り、発想の転換を提案した。
東京国立博物館が2020年のオリンピックイヤーに日本の美術を特集する方針を打ち出したとき、小山さんは着物の展覧会を思いついたという。それは世界中の人が知っている日本の美であり、日本の文化を象徴するからだ。
その背景には「着物は着る人がいるかどうかだと思う。着る人が減ってしまったから、よいもの、楽しいものをつくるエネルギーも衰退した」という思いがあった。着物の魅力を通して、日本の美意識を見つめ直す、絢爛豪華なファッション展が幕を開ける。
特別展「きもの KIMONO」
会期|6月30日(火)〜8月23日(日)
※前期展示:6月30日(火)〜7月26日(日)、後期展示:7月28日(火)〜8月23日(日)
会場|東京国立博物館 平成館
住所|東京都台東区上野公園13-9
開館時間|9:30〜18:00 ※最終入場は17:00。夜間開館なし。
休館日|月曜・8月11日(火)、ただし8月10日(月曜・祝日)は開館
観覧料|一般1700円、大学生1200円、高校生900円
Tel|03-5777-8600(ハローダイヤル)
https://kimonoten2020.exhibit.jp
※観覧にはオンラインによる事前予約(日時指定券)が必要です。
文=織田城司 協力=東京国立博物館
2020年4月号 特集「いまあらためて知りたいニッポンの美」