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建築家・永山祐子のリユースへの挑戦
モノ・想い・技術を未来へ残す
「動く建築」とは?

2026.5.21
建築家・永山祐子のリユースへの挑戦<br>モノ・想い・技術を未来へ残す<br>「動く建築」とは?

ドバイから大阪、そして横浜の3つの国際的な博覧会で、建築をトランスフォームしながら建材もリユースする、建築家・永山祐子さんの建築。新時代のサーキュラーエコノミーを体現した“動く建築”とは。

永山祐子(ながやま ゆうこ)
昭和女子大学生活美学科卒業後、青木淳建築計画事務所を経て、2002年に永山祐子建築設計を設立。代表作に「ルイ・ヴィトン大丸京都店」、「豊島横尾館」、「東急歌舞伎町タワー」など。WAF2022優秀賞ほか受賞歴多数。

万博から万博へ
建築部材を継承しリユースする試み

人や木を守る役割も担った 「2025年 日本国際博覧会」
女性活躍推進がテーマのウーマンズ パビリオン in collaboration with Cartierで、オールジェンダーが語らう場を提案。京町家のような細長い敷地の前後と中央に中庭、脇に通り庭を設けた。大阪近郊の山から集められた木々を植え、ドバイ万博からリユースしたファサードが木漏れ日をつくりながら、森の大樹のように強い日差しや豪雨から木々や人々を守る環境装置に。解体後、木々を元の場所に戻すというエコシステムも徹底した
Victor Picon ©Cartier

多種多彩な建築が注目を集めた「2025年 日本国際博覧会」。その中で、世界的建築家・永山祐子さんが設計した「ウーマンズ パビリオン in collaboration with Cartier」は、自身が手掛けた「2020年 ドバイ国際博覧会」日本館のファサード構造をリユースし、万博から万博へ建築部材を継承する試みであった。
「半年間の会期が終わったら解体され、部材が破棄される。万博の一過性に建築家として疑問を感じ、企画の段階からリユースを提案していました」と永山さん。

※2025年 日本国際博覧会 ウーマンズ パビリオン in collaboration with Cartierのダイアグラム画像。色つき部分がファサード。各館のダイアグラムで同じ色で示された部材は同じブロックを示している

ドバイ万博のメインテーマである「心をつなぎ、未来を創る」、そしてサブテーマのひとつ「持続可能性」を体現するアプローチは、小さなモジュールを組み合わせる“ボールジョイントシステム”を採用することで実現した。

ドバイと日本の文化をつないだ
「2020年 ドバイ国際博覧会」

万博のテーマ「Connecting Minds, Creating the Future」から、日本と中東の「コネクト」を文化的・技術的つながりとして表現。日本の「麻の葉文様」と中東の「アラベスク」を組み合わせ、立体格子にし、さらにその格子が組み合わさって、下記のダイアグラム画像のカラー部分にあたるファサードを形成。建物前面の水盤は、海からの風を気化熱で冷却し、建物内に冷たい風を取り込むことで、涼しさをもたらす機能も担っていた

また、ドバイ万博では「カルティエ」が女性のエンパワーメントをテーマにした「ウーマンズ パビリオン」をドバイ国際博覧会公社と共同出展。そのプロジェクトを主導した「カルティエ ジャパン」のプレジデント兼CEOの宮地純氏と永山さんは、「継承する」という志で共鳴したという。

「純さんはウーマンズ パビリオンの“理念”を、私はファサードのリユースというかたちで“建築デザイン”を、自国開催の万博へと継承したいという想いが一致。それはSDGsで掲げられた17の目標の中で、日本が弱いとされている5の『ジェンダー平等』と、12の『サステイナビリティ』の課題解決にもつながると思いました」

※2020年 ドバイ国際博覧会 日本館のダイアグラム画像。色つき部分がファサード。各館のダイアグラムで同じ色で示された部材は同じブロックを示している

万博から万博へ。前例のないリユースプロジェクトには幾多の困難が待ち受けていた。リユースのための丁寧な解体、ドバイから大阪への運搬、保管場所の確保、そして1万点にも及ぶパーツの管理。
「それらのハードルは、多くの方々の協力がなければ乗り越えられませんでした。たとえば、リユースの際のパーツ一つひとつの識別は、二次元コードを使用した大林組の管理システムがあったからこそ可能でした」

「2027年 国際園芸博覧会」に受け継ぐ

TSP太陽、永山祐子建築設計共同企業体で進行中の2027年 国際園芸博覧会屋内出展施設(仮称)のイメージ。本パースは現時点でのイメージであり、今後変更が生じる可能性がある

GREEN サーキュラー建築を体現する 「2027年 国際園芸博覧会」
日本国際博覧会で再利用したファサードを「屋内出展施設(仮称)」のファサードとしてもう一度リユース。会場の建築物のテーマである「GREENサーキュラー建築」は、花や緑と調和した建築デザインでも表現。「リユース部材で足りない部材は、リース材を組み合わせることで賄い、新しい部材を使用しない再利用のプロセスにも、“循環”を取り入れています」。グリーンと調和したファサードが前面に設けられ、憩いのスペースにもなるような豊かな空間を目指している

さらに、そのファサード部材は横浜で開催される「2027年 国際園芸博覧会」で受け継がれることが決定している。会場の建築物のテーマである「GREENサーキュラー建築」を、まさに建材のリユースで体現。建てる前から解体が決まっている建築だからこそ、万博と園芸博の施設では“循環”を共通理念に。このような新しい場所にトランスフォームしながら循環していく建築を永山さんは「動く建築」と表現する。

※2027年 国際園芸博覧会のダイアグラム画像。色つき部分がファサード。各館のダイアグラムで同じ色で示された部材は同じブロックを示している

「『動く建築』とは、物理的なモノだけではなく、知見や技術、そして想いを将来へつなぐ建築の在り方です。SDGsに貢献するにとどまらず、建築を通して人々の想いを伝えていく。今後も新たな挑戦をしていきたいです」

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動く建築を可能にした
ボールジョイントシステム

鋼球の穴にパイプをつないでいくドイツ「メロ」社のボールジョイントシステムによってリユースが実現。「意匠であるファサードそのものが建物を支える構造体になっているので、構造体も含めた表現がかないます」
photo: Nobutada Omote
永山さんが手掛ける
もうひとつの動く建築

日本国際博覧会のパナソニックグループパビリオン「ノモの国」で使用した、鉄パイプの構造体も2027年国際園芸博覧会で再利用予定
GREEN×EXPO 2027 東邦レオ株式会社「やさしくなりたい。STUDIO」

text: Ryosuke Fujitani
2026年3月号「訪ねる建築 暮らす建築」

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