《明治安田CAFE 丸の内》
近代洋風建築の最高峰で
楽しむ喫茶時間【前編】
古典主義様式の最高傑作といわれ、昭和の建造物としてはじめて国の重要文化財に指定された「明治生命館」。2025年11月、展示エリアを拡充し、カフェを新設してリニューアルオープンした。その魅力を探る。
愛される名建築の活用の秘密
日本初の近代的なオフィス街として発展した東京・丸の内。皇居のお濠端に面して建つ「明治生命館」は、現存する近代洋風建築の最高峰のひとつである。
ここにはかつて、赤れんが造りの三菱二号館があった。1894(明治27)年に竣工した三菱一号館と同様、英国人建築家ジョサイア・コンドルと、愛弟子の曾禰達蔵の設計で建てられた近代的オフィスビルだ。当時、周囲に次々と洋風の3階建てオフィスビルが建設され、ロンドンを思わせる街並みは「一丁倫敦」と呼ばれた。

1881(明治14)年に日本初の近代的生命保険会社として産声を上げた明治生命(現・明治安田)は、業務拡大に伴い、一号館の翌年にできた三菱二号館にほか2社の保険会社とともに入居する。やがて当館は明治生命の所有となり、隣接する土地も取得。設計競技で選ばれた岡田信一郎の設計により、まだ十分に使用できる名建築を解体してまで、広い敷地に新本社ビルをつくることを決定。工事着工から3年7カ月の歳月を経て、1934(昭和9)年に完成したのが明治生命館である。

吹き抜け空間の天井を埋め尽くすのは、漆喰と石膏彫刻による手の込んだ装飾。八角形の窪み(コファリング)と縁の彩り、丸い花飾り(ロゼット)で華麗に演出されている
地上8階・地下2階の鉄骨鉄筋コンクリート造。「荘重、堅實かつ美的外観の建築を」とのオーダーにより、外観、内観ともに古代ギリシャ・ローマを源とする古典主義様式を基本とする。内部に顧客用の大空間を備えるビルは、当時貴重であった。細部にわたる美しい装飾には職人の手技が光り、最先端の設備を備えた機能面からも、昭和初期のオフィスビルの最高峰とその名を轟かせた。

明治生命館は戦争で大きなダメージを受けるも、創建当時の意匠に復元。その後の経年で設備や機能面で制約が生じ、昭和の末に耐震・耐久性調査を実施。平成に入り、明治生命は「歴史的建築物を積極的に活用しながら保存していく」とし、全館保存の英断を下す。

2025年11月に何度目かのリニューアルを終え、吹き抜けの大空間に新設されたのが「明治安田CAFE 丸の内」だ。ここはかつていくつものデスクと椅子が並び、保険会社の店頭営業室として用いられていた場所だ。国の重要文化財である素晴らしい建築空間をもっと多くの人に見てもらおうと、誰でも気軽に立ち寄ることができるカフェへと姿を変えたのだ。

2001(平成13)年から3年がかりで行われた大規模リニューアルも、今回のリニューアルも、貴重な文化財を使いながら残すという手法に基づいて行われたものだ。重要文化財の建築にカフェを設けるには、保全と必要な設備のせめぎあいでさまざまな工夫が必要だったという。それでも丸の内の風格ある景観を守りつつ、街が活性化することで、価値のある建築空間や文化を未来へつないでいくための揺るぎない選択だった。
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1階の床にはイタリア北部産出の赤色石灰岩(大理石)も使われている。アンモナイトを豊富に含むためにアンモニティコ・ロッソと呼ばれ、中世代ジュラ紀の化石が見られる
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text: Yukie Masumoto photo: Maiko Fukui
2026年3月号「訪ねる建築 暮らす建築」



































