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「僕が中学生ランナーなら空海はゴールドメダリスト」NOSIGNER代表・太刀川英輔さんが語る、天才・空海の魅力

2019.10.2
<b>「僕が中学生ランナーなら空海はゴールドメダリスト」NOSIGNER代表・太刀川英輔さんが語る、天才・空海の魅力</b>
高野山に仕事で携わっている太刀川さんは、2019年3月13日に行われた法印転衣式にも参列。写真は式後、法印の自坊・三宝院前にて

多彩な分野で超人的な活躍を見せた弘法大師空海に、大いにインスパイアされると語るクリエイターやアーティストたちがいる。その一人がNOSIGNER代表・太刀川英輔さんだ。空海のどんなところにシビれ、自分の仕事につなげているのだろう?

太刀川英輔(たちかわ・えいすけ)
NOSIGNER代表/デザインステラテジスト。1981年生まれ。慶應義塾大学大学院SDM特別招聘准教授。世界の100以上の国際賞を受賞し、グッドデザイン賞など多くの審査員を務める総合的なデザイナー。「進化思考」を提唱して生物の進化から発想を教えている。

「空海は外交官であり、思想家であり、デザイナー。日本屈指のスーパースターです」と熱く語る太刀川英輔さん。そんな太刀川さんも、相当マルチにご活躍では? と水を向けると「僕が中学生ランナーなら空海はゴールドメダリスト。だからフォームは気になる」。

憧れポイントはたくさんあるが、中でもその発想力に惹かれるという。「それまで誰も問うていないことに“Why”を突きつけ、課題を解決するための“How”を、社会に最大限インパクトを与える方法で上手に表現している」。

たとえば、上流階級だけのものだった学校を、日本ではじめて庶民にも開いた。「国が興っていくには、人をつくらなければならないと考えたのでしょう。空海はソーシャルデザイナーでもあった」。天皇の庇護を受けたといわれるのも、政策ブレーン的な役割を果たしたからではと見る。

おやつを届ける箱を開けると、手のつながるデザインが現れる。“現代の千手観音”のよう

そんな太刀川さんもソーシャルデザインの担い手としてさまざまな活動を行っている。東寺のすぐ近くのワコールスタディホール京都のアートディレクションを手掛けたほか、寺へのお供えを貧困家庭に送る「おてらおやつクラブ」をサポート。日本の創造力を世界の課題解決に役立てる、国の「クールジャパン提言」もまとめた。

弘法大師といえば、唐から多くのものを持ち帰ったことでも知られるが、「中国的表現だけでなく、 当時の日本に伝わりやすい表現に変換したのがスゴイ!」と太刀川さんは言う。

唐で流行していた多彩な書体を修得した弘法大師空海は嵯峨天皇、と並んで「三筆」と称されるが、「書体の組み合わせ方が実に見事。ただ上手なだけでなく、そこに新しい構想を入れ込んでいることが読み取れる。創造性という点でずば抜けています」。タイポグラファーとして書体やロゴも開発する、太刀川さんならではの見方だ。

マンガから伝統工芸まで生む創造力で「世界の課題をクリエイティブに解決する日本」を提言

「一番感服するのは、神道と仏教のMIXを成し遂げたこと。高野山を開くにあたり、まず丹生・高野の両明神を祀った。それまでまったく別物だった日本の神と外来の仏を共存させ、日本人が受け入れられる新しい道をつくったんです。密教伝来というより日本における新しい密教をつくり、コミュニティをデザインしたんですね」。

原生林を切り開き、高野山の地を一大霊場へ——いまでいう“地域ブランディング”を成し遂げた弘法大師空海。インスパイアされる太刀川さんもふじのくに せかい演劇祭や大道芸ワールドカップで知られる静岡を世界に冠たるパフォーミングアーツの聖地にするためにブランディング中だ。

太刀川さんの夢は「空海のように、コペルニクス的視点で社会を変革するイノベーター」を育てること。多様な性格・表情の仏が描かれた曼荼羅のごとく、ものごとを多元的な視点でとらえることで新しい世界が開けるはずだと。

文=永野 香(アリカ) 写真=滝川一真
2019年5月号 特集「はじめての空海と曼荼羅」

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