TRADITION

「縄文はこれからを生きるヒント」ーグラフィックデザイナー佐藤卓さん。
一流デザイナーが惹かれる縄文デザイン

2019.10.7
<b>「縄文はこれからを生きるヒント」ーグラフィックデザイナー佐藤卓さん。</b><br>一流デザイナーが惹かれる縄文デザイン
自身が企画を手掛け2012年に開催した「縄文人展」に合わせて刊行した『JOMONESE』。撮影は写真家・上田義彦さんに依頼した

日本のクリエイティブ界を牽引する一流デザイナーたちも、縄文から多大なる影響を受けていた。デザイナーならではの視点を通して縄文の魅力を再発見していく《一流デザイナーが惹かれる縄文デザイン》。初回はグラフィックデザイナーの佐藤卓さんに話を聞く。

佐藤 卓(さとう・たく)
グラフィックデザイナー。東京藝術大学大学院修了後、電通を経て独立。パッケージデザインや広告などを手掛ける。主な仕事に「ロッテ キシリトールガム」、「明治 おいしい牛乳」ほか多数。趣味はラテン音楽とサーフィン。

多くの人の感性にインスパイアする縄文文化。誰もが一度は目にしたことがある商品のパッケージや広告、展覧会のディレクションを手掛けるグラフィックデザイナーの佐藤卓さんも、縄文に魅せられたクリエイターの一人だ。そんな佐藤さんが縄文にハマったのは、縄文学者の小林達雄さんの文章を読んだことがきっかけだった。

縄文にハマるきっかけになった本。「小林さんとは面識はなかったのですが、この本を読んですぐに会いにいってしまいました」

「デザイナーとしてデザインにかかわっていますが、現代のデザインは100年ほど前から発展してきた効率的なモダンデザインによって成り立っています。私も日頃そこに向き合って仕事をしているのですが、ある時小林さんの『縄文の思考』(筑摩書房)という本に出合いました。以前にも小林さんの文章は読んでいて、その中に書いてあった言葉が気になっていました。本を読んだら目からウロコで、縄文に一発でハマってしまいました」。

上野の国立科学博物館に収蔵されている穴の開いた縄文人の頭蓋骨。「分析すると、治療しながら生き続けていた人の骨だそうです」

うつわの歴史をさかのぼると縄文土器は世界最古のものといわれる。道具は常に使いやすく進化していくものだが、縄文においてはむしろ逆で、非実用的な方向に進化していったように見える点がユニークだと佐藤さん。

「縄文土器にはすでにさまざまなカタチの工夫が見られ、造形の基本は縄文時代にほぼすべてあったといっても過言ではありません。モダンデザインが開花して100年しか経っていませんが、縄文は1万年という途方もない時間の中で独自の進化をしていきました。効率優先のモダンデザインとは真逆な進化を遂げたその歴史に触れ、これまで構築してきたものが音を立てて崩れ落ちるほどの衝撃を受けました」。

佐藤さん所有の縄文土器の破片。「古美術商で手に入れました。大昔の小さな欠片から、縄文の人々の手の動きを想像しています」

環境、資源、人口などあらゆる問題に直面している人類。縄文の人々の生き方を知ることが、それを突破するきっかけになるかもしれないと佐藤さんは語る。

「縄文時代は少し前までは歴史の中で劣等生と思われていました。最近の研究では、1万年という時代を生きてきた縄文の人たちは、持続可能なエコシステム、見返りを求めないコミュニケーションなど、生き抜くすべを心得ていたと考えられているそうです。私自身、縄文に出合ってものごとを俯瞰する視点を得ることができました。人類はこれからの100年が勝負だといわれています。そんな時だからこそ、縄文時代とは何だったのか、その暮らしを知ることが、これからを生き延びるヒントになるのではないかと思っています」。

文=加藤孝司 写真=木内和美
2018年9月号 特集「縄文人はどう生きたか。」

《一流デザイナーが惹かれる縄文デザイン》
1|「縄文はこれからを生きるヒント」ーグラフィックデザイナー佐藤卓さん
2|縄文から抽象思考を育んだGRAPH代表取締役・北川一成さん

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