片岡仁左衛門×坂東玉三郎が熱演!
原作・森鷗外、心温まる夫婦の物語
|シネマ歌舞伎『ぢいさんばあさん』
映画館で歌舞伎の名舞台を楽しむシネマ歌舞伎の最新作『ぢいさんばあさん』が、2025年1月3日(金)から全国の映画館で公開される。本作の見どころとあわせて、原作・森鷗外、共作・演出をおこなった宇野信夫についてや名優 片岡仁左衛門、坂東玉三郎についてもご紹介していく。
文豪・森鷗外、劇作家・宇野信夫の
共作による情感あふれる脚本
小説家としてだけでなく医学博士や官僚としても多くの実績を遺した森鷗外は、実は演劇界にもその多彩な才能の功績を遺している。
明治維新による日本の近代化は演劇の分野にも及び、多くの文化人がこれに携わった。鷗外は陸軍軍医として赴いた海外留学から帰国後文壇デビュー。小説やエッセイの執筆、西洋文学や西洋演劇の翻訳にも取り組み、日本演劇の近代化に大きな影響を与えた。
一方で、幕末生まれの鷗外は江戸時代から続く「歌舞伎」にも精通していた。芝居好きの母と弟を持ち、特に弟の三木竹二(本名・森篤次郎)は歌舞伎好きで、開業医の傍ら劇評雑誌『歌舞伎』の編集と執筆を行い、歌舞伎批評の基準を確立した人物として知られている。幼いころから歌舞伎に親しみ、西洋演劇の知識もあった鷗外は自身でもいくつかの戯曲を遺した。
本作『ぢいさんばあさん』の原作である「ぢいさんばあさん」は戯曲ではなく短篇小説として書かれたものである。この文学作品に注目して、歌舞伎舞台化したのが「昭和の黙阿弥」との呼び声も高い劇作家の宇野信夫だ。
原作小説を読み、簡潔で洗練された物語に心打たれた宇野は、舞台作品として効果的な潤色を過不足なく加えて歌舞伎舞台化をした。昭和26年7月に初演して以来70年以上も、歌舞伎ファンに愛される演目となり、現在も繰り返し上演されている。
仲睦まじい夫婦がある事件をきっかけに離れ離れになり、37年振りに再会する場面は原作小説にはなく、宇野が書き加えた場面だ。初々しい若夫婦と年老いてからの夫婦を同じ俳優が演じ分けることで、時の流れの残酷さと夫婦の固い絆を視覚的に表現した、舞台ならではの名場面となっている。
本作で五度の共演をしている名優たち
片岡仁左衛門と坂東玉三郎の黄金コンビに注目
黄金コンビである片岡仁左衛門と坂東玉三郎は、共に重要無形文化財保持者(人間国宝)であり、芸と華を兼ね備えた現代歌舞伎界屈指の名優だ。1970年頃から新橋演舞場で行われていた「花形歌舞伎」への出演等をきっかけに注目を集め、すらりとした現代的なスタイルと美しさから“孝玉コンビ”※と呼ばれ一大旋風を巻き起こした。
※片岡仁左衛門の当時の芸名「片岡孝夫」と「坂東玉三郎」の頭文字から
二人は様々な歌舞伎狂言で共演し、本作『ぢいさんばあさん』も共演を重ねた数多くの演目のひとつ。平成6年(1994年)の3月歌舞伎座公演で初めて伊織役・るん役で出演して以来、令和6年5月現在、同配役で五度共演している。
この役は、若い夫婦と37年後の姿の演じ分けはもちろんのこと、劇中では描かれない37年間の別離を、観客に想像させなくてはならない難しい役どころだ。この期間に夫婦が乗り越えた苦労を観客に想像してもらうことで、遂に果たされる再会の場面に感動が生まれる。
原作、脚本、演出、俳優とすべてが揃った名舞台を映画館で楽しみに行ってみては。
シネマ歌舞伎『ぢいさんばあさん』
上映日|2025年1月3日(金)~23日(木)※一部延長あり
上映館|東劇ほか全国の映画館にて
https://www.shochiku.co.jp/cinemakabuki/lineup/2604/
料金|一般2200円、学生・小人1500円
原作|森鷗外
作・演出|宇野信夫
出演|片岡仁左衛門、坂東玉三郎、中村芝翫、片岡孝太郎、片岡市蔵、大谷桂三、市川齊入、坂東秀調、中村鴈治郎、中村勘三郎 ほか