《田村 一》のうつわ
何ものにもとらわれない無二のかたち
故郷の原風景からプリミティブな抽象モチーフまで、田村 一さんのアイデアは時空を超越。縦横無尽に広がる感性を、個展で目の当たりにしたい。
2024年3月16日(土)〜3月24日(日)にかけて、東京・渋谷パルコ Discover Japan Lab.では「田村 一 個展」を開催。
Discover Japan公式オンラインショップでは、本展の一部作品を3月19日(火) 20時より順次販売予定です。(店頭の販売状況により日程・内容が変更になる場合があります)
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田村 一(たむら はじめ)
1973年、秋田県生まれ。早稲田大学大学院修了後、東京で作家活動を開始。2002年に栃木県・益子町に拠点を移し制作。2011年より地元・秋田県で作陶に励みながら個展やグループ展で作品を発表している。
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自由な発想が使い手の感性を刺激する
これはオブジェ? 田村一さんのうつわをはじめて目にする人は、きっとそんな印象を受けるだろう。
渦巻きモチーフの片口や、白と青のグラデーションが詩的な青白磁のカップ。こうした作品の数々は、秋田の太平山のふもと、自然に囲まれた工房でつくられている。
かつて大学の陶芸サークルに所属していた田村さんは、ろくろの遠心力によって生み出される自然のかたちに魅了され、そのまま作陶の世界へ入った。東京、益子と拠点を転々とする中で、次第に故郷・秋田の原風景を作品に投影することが多くなっていった。
「地元に帰ったとき、空を見上げて思ったんです。『やっぱりこれだよな』って」
関東の澄みきった青空ではなく、どんよりと曇った雪国特有の冬空に安心感を覚えた田村さんは、13年前に工房を故郷へと移した。以来、秋田ならではの風景をモチーフにしたうつわをつくり続けている。
たとえば前述の青白磁のカップは冬の夕暮れどき、光の乱反射によって青白く光る雪原を表現。一方、黒釉で焼成したうつわに白釉を薄くかければ、舗道に積もったばかりの新雪が現れる。うつわを手に取り眺めているだけで、凛と冷たい空気が伝わってくる。
田村さんの作品のもうひとつの魅力は、独創的なデザインにある。
「この前も韓国の陶芸ワークショップに参加したのですが『おもしろいつくり方をするね』って海外の人にも驚かれたんです。というのも、ろくろでの成形時、僕は親指にぐっと力を入れてかたちを整えるため、側面に強く指の跡が残るんです。これを模様としてデザインに落とし込んでいるんですが、普通は凹凸ができるほど力を入れないみたいで……」
またときには大胆に、素地に切り込みを入れて装飾をつけたり、巧みに曲げたり、感性の赴くまま土を操る。さらに近年は、発想がよりプリミティブになってきているようで、縄文時代の土器をほうふつさせる抽象的なモチーフも積極的に取り入れている。
どの作品も個性的だが、実用性も高い。日常に取り入れ、ぜひ五感で楽しんでいただきたい。
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〈田村 一 個展〉作品ラインアップ
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text: Misa Hasebe photo: Shimpei Fukazawa
Discover Japan 2024年4月号「日本再発見の旅」