《星のや京都》
詩人・文月悠光さんが訪ねる
錦秋の奥嵐山を愛でる滞在【後編】
日本屈指の紅葉の名所、京都・嵐山。通りまであふれる人々を横目に小舟に乗り込み、水辺の私邸「星のや京都」へ。錦のように美しい景色を愛で、舟遊びを愉しみ、秋のごちそうに舌鼓を打つ。そんな滞在の感想を詩にしてもらった。
京の都に集まる豊かな食材で。
料理に、うつわに、秋が香り立つ。
秋の奥嵐山の愉しみは絶景だけにあらず。食事にも秋の喜びがあふれている。ダイニングでの日本料理は、先附の秋鮭と新いくらにはじまり、松茸とハモの土瓶蒸し、脂がのった紅葉鯛に秋サワラ、日本酒が進む八寸も秋尽くし。秋に二度目の旬を迎えるカマスは若狭焼きにして、中秋の名月をイメージしたうつわに盛られている。
「この季節ならではの食材、うつわやあしらいの一つひとつに京都らしさがあふれていて、とても贅沢なひとときを過ごさせていただきました」と文月さん。
11月10日から1カ月間開催される滞在プログラム「奥嵐山の錦秋滞在」では、美しい紅葉を愛でながらの食体験が待っている。夕食は、奥の庭のオオモミジの下でいただく「錦秋膳」。鮮やかに色づく紅葉に加え、あたりが夕日でオレンジ色に染まる中で本格的な会席料理を堪能できる。この時期だけのロマンチックな計らいだ。
翌朝は少し早起きをして、「野遊山弁当」を携えて軽くハイキングを。星のや京都の対岸に位置する亀山公園の展望台まで足を運び、眼下に広がる紅葉を眺めながらの朝食は格別だ。弁当の蓋を開けると、総料理長の心尽くしがぎゅっと詰まっていて、思わず感嘆の声が上がること間違いなし。
展望台から星のや京都を望み、その真上に位置する山の中腹に寺が見える。この「大悲閣千光寺」は、江戸時代の実業家・角倉了以が建立したものだ。角倉は、丹波から木材や農作物を京の都へ運ぶため、莫大な私財を投じて大堰川(保津川)を開削。その難工事で犠牲になった人を弔うための寺である。星のや京都は、かつて角倉が別邸を構えていた土地にある。亀山公園で展望台に向かう道中、角倉の銅像もあり、紅葉で彩られた渓谷を眼下にそんな歴史を思う。
嵯峨天皇が「離宮嵯峨院(現・大覚寺)」を造営して以来、天皇家ゆかりの地として、また貴族文化が花開いた地としての歴史を紡ぐ嵐山。その真骨頂は、錦秋にある。
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夢にであう/文月 悠光
舟はわたしを乗せて
ふらりと漕ぎだした。
あの古い橋の下を越えると、
不思議と身体が軽くなる。
舟は 空を渡る月のように
わたしを日常のそとへ連れていく。
心も誘われて風にたゆたう。
空中庭園にひとり腰かけ、
秋に色づく渓谷と、夕刻の香りに安堵する。
暮れなずむ空へ鳥たちの影が吸われていく。
だんだんと闇が濃くなって、
静けさのなか、虫たちの唄声だけが響く。
わたしはずっとこうしたかったんだ。
しっとりと降り出した雨の音が
わたしの耳をやわらかく包み込んだ。
わたしたちの目覚めに合わせ、
朝はすべてをしつらえる。
川面が生み出す、途切れのない水鏡。
そのうつくしい輝きも、山肌や空の色合いも
一刻一刻、うつろっていく。
岸辺をさまよう漆黒の翅は、
青いボディが際立つハグロトンボ。
生垣からぴかりと顔を出したのは、
虹色の背中のニホントカゲ。
思わぬ出会いに立ちどまる。
舟から顔を上げれば、
橋には行き交う人々の姿。
その横を人力車は賑やかに駆けていく。
(ただいま)
千年の時を超えて
たったいま世界を初めて見たように
この景色を詠んでみたい。
ひとときの夢を抱きしめたまま。
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星のや京都
住所|京都市西京区嵐山元録山町11-2
Tel|050-3134-8091(9:30〜18:00)
客室数|25室
料金|1泊1室13万6000円〜(税・サ込)
カード|AMEX、DINERS、Master、VISAほか
IN|15:00
OUT|12:00
夕食|日本料理(ダイニング)
朝食|和食(部屋)
アクセス|車/名神高速道路京都南ICから約30分 電車/JR京都駅からタクシーで約30分
施設|ダイニング、ライブラリーラウンジ、空中茶室、蔵、和室パブリック
text: Yukie Masumoto photo: Mariko Taya
Discover Japan 2023年11月号「京都」