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《星のや京都》
詩人・文月悠光さんが訪ねる
錦秋の奥嵐山を愛でる滞在【前編】

2023.10.26 PR
《星のや京都》<br><small>詩人・文月悠光さんが訪ねる<br>錦秋の奥嵐山を愛でる滞在【前編】</small>

日本屈指の紅葉の名所、京都・嵐山。通りまであふれる人々を横目に小舟に乗り込み、水辺の私邸「星のや京都」へ。錦のように美しい景色を愛で、舟遊びを愉しみ、秋のごちそうに舌鼓を打つ。そんな滞在の感想を詩にしてもらった。

文月悠光(ふづき・ゆみ)さん
詩人。1991年北海道生まれ、首都圏在住。詩集『適切な世界の適切ならざる私』(ちくま文庫)で、中原中也賞、丸山豊記念現代詩賞を最年少18歳で受賞。著書に『臆病な詩人、街へ出る。』(新潮文庫)『パラレルワールドのようなもの』(思潮社)ほか多数。武蔵野大学客員准教授

ダイナミックな渓谷の紅葉を
全身で受け止める

大堰川を挟んで対する嵐山と小倉山は、急峻な地形ゆえに紅葉が見事。秋の特別プログラムに組み込まれている舟遊びでは、川の両サイドに広がる絶景を心ゆくまで楽しめる

平安時代以降、皇族や貴族たちが別邸を構え、四季を愛でて暮らした京都・嵐山。秋分を過ぎてヤマザクラが色づきはじめたかと思えば、ケヤキ、モミジ、カエデへと紅葉が進み、11月中旬には錦のように美しい秋の景色が、峡谷一帯に広がる。

水辺に佇む「星のや京都」へは、渡月橋のたもとから舟に乗り込み、川の上流へ向かう。渡月橋は嵐山と嵯峨野を隔てて流れる桂川に架かる橋で、鎌倉時代に亀山上皇が詩に詠んだことでも知られる。これより上流は大堰川、さらに上流は保津川と呼ばれる。 

小舟に揺られる15分間は、オンとオフが切り替わる時間でもある。「橋の向こう側は現実で、それを越えると別世界。日常から解放されます。こんなに穏やかな気持ちになったのはいつぶりだろう」

旅そのものを楽しむのは久しぶりだという詩人の文月悠光さん。舟を降り、モミジのトンネルを抜ける頃には、表情がすっかり柔らかくなっていた。

ここは大正時代より高級旅館として営まれていた土地で、2009年に「星のや」がその歴史を受け継いだ。歴史的風土保存区域に指定されているため、建造物も自然環境も、従来の景観を維持しなければならない。そこに星のや京都らしい洗練と遊び心を調和させ、上質な非日常の空間でゲストを迎え入れてくれる。

チェックイン後のウェルカムスイーツは、亀屋良長が特別につくってくれるオリジナル。中央の「小倉山」は百人一首の和歌をイメージしたもの
100年前の建築に、「洗い」という伝統技法で新たな息吹を与えられた客室。正座の低い目線から窓の向こうの景色が美しく見えるよう計算されている

石畳の路地沿いに、水の庭、ライブラリーラウンジ、客室、奥の庭などが連なる。客室はすべてリバービュー。ぼんやり眺めていると、時折白鷺が舞い降り、鵜が水中に頭から突っ込んでいる。晩秋から初冬にかけては、川面に朝霧が立ち込める日もあるそうだ。

ライブラリーラウンジの奥には、大堰川にせり出すようにつくられた空中茶室が。ここは渓谷の紅葉を愛でる特別な場所。一日を通して利用できる

「水の表情が刻々と変わるんです。朝、7時の川には静かな水鏡が広がっていたのが、8時にはもうさざなみが立っていて。都心ではあまり意識せずに1時間が過ぎていきますが、ここでは時の流れ方が違いますね」

星のや京都では、奥嵐山ならではの滞在を楽しむプランがいろいろと用意されている。そのひとつは屋形舟「翡翠」を貸し切る舟遊びだ。船頭が竿1本で舟を自在に操り、水面を滑るように静かに進む。翡翠色の大堰川が、赤に黄色に緑も混じる、まさに「錦秋の嵐峡」を映し込んでいる。平安貴族たちがここで舟遊びに興じたというが、その光景が目に浮かぶようだ。

貝覆い

ほかに、感性を研ぎ澄ませて香木の香りを聞く「聞香」、蛤の柄を合わせていく「貝覆い」も興味深い。「そこでしかできない体験をしておくと、ふとしたことでそのときの情景がよみがえります。それが詩に生かされることも」。

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京都の雅を愉しめる聞香(もんこう)体験

香木は、炭の熱で樹脂を溶かすことで香りをより愉しめる

「聞香」とは室町時代にはじまった香道のひとつで、心をじっくりと香りに傾けて心から感じ(=聞く)、産出地名や香りの特色を表現する優雅で知的な遊び。本格的な火道具を使って炭が入った香炉の灰を整え、稀少な香木を焚いて繊細な香りを聞き、香道の奥深い世界を体験することができる。

聞香炉の灰はきれいな円錐になるよう整えていく。銀葉をのせ、その上に香木をのせて香りを聞く
香木として名高い伽羅(きゃら)は、昔は金と同等の価値があったという。実際に伽羅の香りを体験できる貴重な機会

源氏絵貝覆いで平安貴族気分

「藤壺の宮」、「夕顔」など、合わせた絵にちなむストーリーや詩をスタッフが聞かせてくれる

平安時代の「物合(ものあわせ)」にはじまり、一対の蛤の身と蓋を合わせる貝覆い。異なる個体どうしでは貝殻がぴたりと合わないため、その特性を利用した貴族社会伝統の遊びだ。星のや京都で用意する貝は、内側に源氏物語の一場面が描かれたもの。源氏物語の舞台になった嵐山で、平安貴族に思いを馳せる。

貝桶から出した1枚の貝を円の中央に置き、蛤の模様を見て、それにぴたりと合う貝を当てていく。正式には太陰暦で1年を表す360枚の貝を使うとか。「意外と難しい!」と文月さん

平安時代からずっと京都人たちの間で受け継がれてきた伝統に触れる。日常と隔たった別世界でこそ、心に深く刻まれる。

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京の都に集まる豊かな食材で。
料理に、うつわに、秋が香り立つ。

 
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text: Yukie Masumoto photo: Mariko Taya
Discover Japan 2023年11月号「京都」

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